あの頃少女

つきの

第1話 梅干しとマーガリン

 知里ちさとは3歳になったばかりだ。

 背は高い方でヒョロっとしている。

 おカッパ頭の髪は量が多くて硬いので、櫛も通りにくいし、一度寝癖がつくとなかなか取れない。ヘルメットみたいな髪型も気に入らない。


 知里は自分の髪が、あんまり好きじゃない。

「どうして、お母さんみたいに柔らかな細い髪じゃ無いのかなぁ」

 ぷぅーっと膨れてそう言うと、お母さんは真面目な顔をして

「とーんでもない。知里みたいに黒くてしっかりコシがあって量が多い方が、ずーっといいよ。お母さんの方が羨ましいよ」

 って、言ってくれるんだけど。

 漫画のお姫様みたいになりたいのになぁっていつも思う。


 それと苦手なものは冬の今だとタイツ。

 寒いからって履かされてるけど、すぐに股の所がズリズリ下がってきて気持ち悪くなる。

 履きたくないけど、風邪ひくからダメって言われるから仕方なく履いてる。


 幼稚園での知里はいつも大人しい。

 元々一人っ子で、あんまり同じくらいの子と遊ぶ機会が無かったからかもしれない。

 大抵、絵本ばかり読んでる。

 でも、友達がいないわけじゃないし、いつも誰かといたいわけじゃないから、気にならない。


 お父さんとお母さんは働いていて、一緒に暮らしてるおばあちゃんに知里は育てられた。


 おばあちゃんは、厳しい。

 駄菓子屋さんにも行かせてくれないし(その代わりタンスの上の赤い丸い缶かんから、おやつを貰えるけど)お行儀にもうるさい。


 よそのおばあちゃんは、孫には甘々で何でも買ってくれたりするっていうけど、そういうのは無い。


 だけど、一緒にデパートに買い物に連れて行ってくれたり、地下のタコ焼き屋さんで、出来たてタコ焼きを一緒に食べたり、怒ると怖いけど、知里は色んなことを知ってて教えてくれる、おばあちゃんが大好き。


 知里は食いしん坊だ。

 好き嫌いも全然ない。

 そして、好きになると、ハマる。


 今日も今日とて、こっそりと自家製の梅干しの瓶と最近、凝ってるマーガリンを、おばあちゃんの目を盗んで台所から持ち出した。


 マーガリンは棒状になっている。

 銀色の紙に包まれた、それを剥がして一口。

 これだけだと、そんなに美味しくない。

 けど、梅干しをその後に口に入れる。

「うー! 酸っぱい!」

 これが、マーガリンの後口をサッパリしてくれて……。


「こら!!! 知里! あんた何してるの?」

 おばあちゃんに見つかっちゃった。

 おばあちゃんは呆れ顔だ。

「あのねぇ、いくら好きだからって、そればっかり食べてると、お腹壊すんだからね!」

「それにしても、なんでマーガリンと梅干し?」


 知里はこの後、盛大にお腹を壊して、おばあちゃんの言葉を身をもって知ることになる。


 昭和の少女、知里の日々は、なかなかに忙しく色々あるのだ。


 これは、そんな昭和の女の子のお話。

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