第8話 レベ……いや、魔物の殲滅

 私たちが街の辺境に到着すると衛兵の詰め所に人々が集まって身を寄せ合っていた。そして家や畑が荒らされていく様を悲し気に見つめている。衛兵たちも怒りで体を震わせていたが、人々を守るのが最優先であるため動くことが出来ない。


 前方を見るとゴブリンたちは避難で無人になった畑で好き放題に作物を略奪していた。背が低く体中が褐色に覆われており、残忍な笑みを浮かべた小鬼たちが数十体うごめいており、見ているだけで気持ち悪くなりそうな光景である。中には家に侵入して金品をあさっている奴らもいた。


 私の姿を目にした人々はすがるような目でこちらを見つめる。

「領主様、お助けください!」「ゴブリンを倒してくれ!」

 初めての戦闘なので色々と不安はあったものの、事態は一刻を争う。戸惑っている暇はない。

「任せて。馬だけお願い」

 私は馬から飛び降りると剣を抜いてゴブリンに向かっていく。略奪活動に夢中になっていたゴブリンたちは私がやってきても大した注意を払わない。手前にいた二体ほどが小さい棍棒を振り回しながら襲ってくるのみだ。


『エアブレード』『エンチャントウェポン』


 敵の数は多いから二つぐらいで様子を見ておくか。ちなみにエアブレードは刃に風を纏わせることで操作性を上げ、命中率を高める効果がある……ぽい。アリーシャにもらったアイテムで身体能力が向上いるせいか体も軽い。頭への負荷は相変わらずだったが、魔法を二つに抑えたらましになった。


「キエエエエエエエッ!」


 奇声を上げながら棍棒を振り上げて迫ってくるゴブリンの懐に飛び込むと魔剣一閃、ゴブリンは真っ二つに切り裂かれて地面に落ちた。

 それを見てもう一体も慌てて襲い掛かってくるが遅い。私にはスローモーションにすら見える。棍棒と魔剣が交錯して棍棒はぼきり、という音とともに折れる。困惑するゴブリンを一刀で斬り伏せた。


「ふう」


 楽勝ではあったが、まだ二体倒しただけである。さらに近くで大量の麦を腕の中に抱えていたゴブリンを斬り伏せた辺りで、ゴブリンたちも異変に気付いた。

 私を強敵と見るや、四方八方から慌てて襲い掛かってくる。これは全部斬り伏せるのは難しいか。


『ファイアボール』『リインフォース』『ウィンドストーム』


 剣先からファイアボールが現れ、乗って吹き荒れる突風により四散する。ファイアーボールは舞い散ってこちらに襲い掛かろうとするゴブリンたちを焼き尽くした。魔法の炎に包まれてゴブリンたちは醜い悲鳴を上げる。


「キュエエエエエエエエイ!」

「痛っ!」


 不意に後ろから叫びが聞こえたかと思うと背中に鈍い衝撃を受ける。どうも棍棒の一撃を喰らったようだが、驚いただけで冷静になるとあまり痛くない。不意の衝撃を受けると反射的に悲鳴を上げてしまうが実は痛くないということがある。これがユキノダイト防具の力か。


「くらえっ」


 私は振り向きざまに、自分の攻撃が利かないことに困惑しているゴブリンを斬り伏せる。ゴブリンは呆気なく倒れた。

 遠くにたまたまファイアボールの嵐を逃れたゴブリンたちが数匹その場を逃げ出そうとしているのが見える。私は彼らに追いすがると背中から斬り伏せた。


「グギャアアアアアッ」


 ゴブリンたちは悲鳴を上げて倒れた。

 ふう、と私が一息ついていると避難していた人々が驚愕と畏怖の混ざった目でこちらを見てくる。アリーシャすらも私を見てドン引きしていた。

「え、この雰囲気何?」

 もっとこう、「領主様すごーい」みたいな感じを想定していたので少し戸惑う。

「いや、あまりのことに反応が追いつかないだけだけど」

 それは不本意だな。とはいえ、少し遅れて人々も私に感謝を述べてくる。それは確かに満更でもなかった。

 そこで私はふと自分がほんのり強くなったような気がした。もしやこれがレベルアップではないか、と私は直感する。これだけのゴブリンを一気に倒せばレベルが1や2ぐらい上がっても不思議ではない。そう思うとゴブリン討伐というのも悪くはないのではないか。


「本当に助かりました。新領主様も頼もしい方で安心しました」

 一人の老人が皆を代表して前に出てくる。ちょうどいいので私は尋ねてみる。

「どういたしまして。ところでこのゴブリンたちってどこかに巣とかってあるのかな」

「はい、おそらくあちらの小山の中に。何度か襲い掛かってくるのを討伐するのですが、すぐに繁殖しては襲い掛かってくるので大変なのです」

 老人が困ったように言う。そうか、それはちょうど良かった。


「じゃあちょっと行ってくる」

「へ? どちらへですか?」

 今しがたゴブリンを倒したばかりの私なので、老人は困惑する。

「もちろんレべ……じゃなくてゴブリン殲滅にね」

「ありがとうございます!」

 私の言葉に老人は額を地面にこすりつけんばかりの勢いで頭を下げる。

「じゃあ、アリーシャ、後は任せた」

 ゴブリンを殲滅したとはいえ周辺は荒らされたままだしゴブリンの死体も転がったままである。それを見たアリーシャはすごく嫌そうな顔をした。

「何で私が……」

「任せたからっ」


 私は馬に飛び乗ると老人が言っていた小山に向かった。特に木が生い茂っている訳でもなく、見通しのいいところだったので足跡をたどっていけばすぐに方向が分かった。あれだけ多人数で移動していると足跡も分かりやすい。

 そろそろかな、と思うところまでたどりつくとそこには見張りのゴブリンが二匹ほど立っていた。


『サンダーボルト』『ダブルマジック』


 二本に別れた魔法の雷鳴が一本ずつ見張りに直撃して彼らは私に気づく間もなく倒れた。本当に色んな魔法が搭載されてるんだなこれ。


 さて、近くにはゴブリンのものと思われる横穴が斜面の中へと続いている。ゴブリンたちは体型に合わせた穴を選んだのか、穴は小さい。感覚を研ぎ澄ませると、かすかにゴブリンたち特有の臭いが奥から漂ってくる。奥がどうなっているのかは知らないけど、この穴ならこれで行けるか。


『ファイアーボール』『リインフォース』


 中に向かって魔法を放つとすぐに爆音が聞こえてきた。何かレベルが上がったっぽい気がするから当たったのだろう。すぐに大勢のゴブリンがどたどたとこちらに向けて走ってくる。わざわざまとまって来てくれるとは手間が省けてありがたい。そう、魔法使いにとって狭いところで密集している敵はカモでしかないのだ。


『ファイアーボール』『リインフォース』


 同じ魔法を続けて放つと再びゴブリンの群れは焼き尽くされる。この作業をあと二回ほど繰り返すとようやく巣穴の中は静かになった。ゴブリンの殲滅とレベリングが同時に出来るなんて、なんて素晴らしいんだろう。私は満足して街に戻るのだった。

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