第6話 御用錬金術師

 さて、私が倒れたとき、同時にアリーシャも徹夜が祟って意識を失い、後からやってきたリーナもその光景を見て泡を吹いて倒れそうになっていた。


「だめですよ、そんな危ない魔剣は。使ってはいけません!」

 目を覚ました私はいきなり、すごい剣幕のリーナに睨まれた。目覚めたばかりということもあって私はたじたじになりながら答える。

「いや、でもあれ最強だし、それにセーブして使えば何とかなりそうだし」

「そういう問題じゃないです!」

「でも最強の魔剣だから使わないともったいないって」

「アルナ様は強かったら禁忌魔法でも何でも使うって言うんですか!」

 心配してくれるのはありがたいけど、私の魔剣を勝手に禁忌魔法と同列にしないで欲しい。


「別にそういう訳では……」

「いやいや、あれは最初の一回だけくらっとくるだけでその後は大丈夫だから」

 間に入ってくれたのは先に目を覚ましていたアリーシャである。そのおかげでようやくリーナの追及を逃れた……なんてことはなくリーナはくるりとアリーシャの方を向いた。あ、これはロックオンだ。

「何でそんなこと言えるんですか!?」

「もちろんこの私が打った魔剣だからだよ」

 アリーシャは胸を張るが、残念ながらリーナには何の効果もなかった。


「じゃあ何であなたも倒れてたんですか? やっぱり何か危険な魔剣なんじゃないですか!」

 リーナはますますヒートアップしてアリーシャに迫る。もう少しで壁ドンしかねない勢いだ。普段強気なアリーシャもこれにはたじたじである。

「あれはただ私が三徹してたから……」

「三徹していた人の意見なんて信じられません!」

「はい、すみません……」


「……ところであなた誰ですか? アルナ様の王都でのお知り合いとか?」

 そこでリーナはふと根本的な疑問にたどり着く。そう言えばアリーシャはこの三日間一人で魔剣を作っていたので誰にも紹介してなかったな。一瞬アリーシャの目が泳ぐ。何だろう、実は彼女もコミュ障なのかな。

「……私は錬金術師のシャリア。亡くなる直前、先代領主様に呼ばれてきたの」

 何か今さらっと偽名を名乗ったけど大丈夫なのだろうか。というか彼女は私の父親が頼んだぐらいでこんなド田舎まで来てくれるような人じゃない気がする。

「そうですか……まあ先代様が呼んだのであれば」

 リーナはそんな出まかせにも意外にもすんなり納得する。

「まあ、とりあえず今日はそのままずっと休んでいてくださいね」


 そう言ってリーナが出ていくと私とアリーシャが二人きりで残される。アリーシャはすらすらと嘘を並べ立てたことが気まずいのか、微妙に顔を背けている。仕方ないから私の方から切り出そう。

「……何で偽名名乗ったの?」

「そ、それはそうよ、私ほどの有名錬金術師だから、こんなところに来るのも実はお忍びなの! 本当は王都で仕事が山積みなの!」

「なるほど」

 有名アイドルが仕事を抜け出してバカンスに来ているようなものか。それなら素直にそう言えばいいような気もするが。もしかしたらそれが広まってしまうと私に迷惑がかかるかもしれないと思ってくれたのかもしれない。そういうことにしておこう。


「ありがとう」

「は?」

 そう思ってお礼を言ったら本気で困惑された。何故だ。やっぱり何か隠しているんじゃないか。

「ところでどのくらいここでお忍びしていくつもりなの?」

「どうだろう。やっぱりユキノダイトの研究には時間がかかりそうだからなあ」

 アリーシャはちらちらこちらを見る。これはもしかして長期滞在したいという意志ではないか。


「分かった、それならしばらくの間私の御用錬金術師にならない? ユキノダイトの精錬とか分かる人育てて欲しいし、魔剣も打ってもらったけど、防具とかアイテムとかももっと作って欲しいし。あと鍛冶職人とかも育てて欲しい」

 私の言葉にアリーシャは少し考える。

「それともそんなにはこっちにいられない?」

「……いや、いいよ。その代わり私は“神の手”アリーシャではなく野良錬金術師シャリアとして仕官するけどそれでもいい?」

 錬金術師ってそんな野良でうろうろしているものなのだろうか。まあ細かいことはいいか、人手が必要なのは確かだし。

「まあいいけど。正直変に有名になって噂とかになっても嫌だし」

 しばらくは静かにこの領地の内政を立て直したい。その間に有名錬金術師がいるとかで目立って各地からぞろぞろ人が来たら面倒だし。

「それは本当にそう」

 彼女は力強く頷いた。やはり何か怪しいけど、ここまで有能な人物である以上目はつぶろう。


 そんな訳で私は御用錬金術師シャリアを雇い入れることになった。館付近に専用の工房を建てることも許可した。むしろ人手も貸し出した。

 ちなみに給料は基本給とマジックアイテムを製作した場合はそれを買い取ること、支払い手段は貨幣もしくはユキノダイトということで合意した。ぶっちゃけ私お金持ってないからね。ユキノダイトも売れば儲かるとは思うけど、売るには大量生産してから営業先を見つけないといけないからまだ時間かかるし。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る