第5話 魔剣アストラルブレード
「すごい! どんなどんな!?」
魔剣を完成させたというアリーシャに思わず駆け寄ってしまう。そんな大はしゃぎの私にアリーシャは少し呆れたようだが、こちらもテンションが上がっていたのだろう。
「ふ、私の渾身の力作、あなたなんかに使えるかしら」
と挑発的に笑うと鞘ごと私に差し出してくる。
見たところ鞘は普通だったが、剣の柄にはユキノダイトを加工したと思われる宝石のようなキラキラと輝く石がはめ込まれている。さては材料費ただだからって贅沢遣いしたな? 私のだからいいけど。細身でそこまで長くない剣だったけど、手の中にずしりと重かった。
剣をすらりと抜き放つと純ユキノダイトで作られたと思われる刀身は透明で、光が当たるときらきらと輝いた。ただ、目をこらすと表面には無数の魔法術式が刻まれている。試しに微量の魔力を流してみると、刀身はそれに応じた色できらきらと光る。炎属性なら赤、水属性なら青、というように。
「おおぉ……」
驚いている私にアリーシャは得意げに語り掛けてくる。
「これが私が三日三晩徹夜して作った魔剣アストラルブレード。でもこの剣のすごいところは持ち主の思考と連動して魔法が発動するところ。と言っても、それは試した方が早いかな……もっとも、あなたの思考がこの剣の負荷に耐えられるなら、の話だけど」
「え、負荷? 試す?」
アリーシャは不穏なことを言うと、てくてくと私から距離をとった。私はとりあえずアストラルブレードを抜いて構えてみる。すると。
「うっ……」
めまいがして思わずその場にうずくまってしまいそうなほどの負荷が頭を襲った。大量の情報が一気に脳になだれ込み、猛烈な頭痛がする。頭の中に入ってきたのは私が知らないたくさんの魔法の知識だった。一つ一つは簡単なものでも、何百もの魔法が一度に入ってくることで脳を手づかみされるような痛みを覚える。
それでも何とか耐えていると、徐々に勢いが収まって来て頭痛が和らいでくる。なだれ込んできたのは全部魔法の術式である。おそらくこの剣の刀身など色々なところに仕込まれた物だろう。
「ほう、その剣を抜いて倒れないとはなかなかやるじゃない」
アリーシャは少し驚いた顔をする。『INT』をMAXに振ってなかったらまずかったかもしれない。
「でも使いこなすのはもっと大変だからね、はい」
アリーシャが杖を軽く振ると小さい火の球が飛び出す。そして私の方に飛んでくる。防がないと。そう思った途端に私の脳は三つの単語をはじき出した。
『バリア』『アイスシールド』『リインフォース』
するとアストラルブレードの剣先に氷で包まれた魔力の力場が発生する。小さい火の球はバリアに命中すると呆気なく消滅した。ちなみに三つ目の『リインフォース』は魔法を強化する魔法なので、基本的に常に使うことが望ましい……みたい。ちなみに、私は今までこれらの魔法を使ったことはない。
「へえ、持つだけではなくすぐに使いこなすとは。そう、その剣には777の魔術が仕込まれている」
「道理で多いと思った……」
私はやっとの思いで口にする。
「そりゃ最強の魔剣だからね」
アリーシャは誇らしげに胸を張る。そして解説を続けた。
「通常、魔術は発動意志があっても詠唱などの媒介となる動作がないと発動しない」
寝ぼけていて、起こしてくれた人を敵と間違えて「ファイアーボール撃たなきゃ」と思ったとしても適切な手順を踏まなければ魔法は発動しないという話だ。もっとも、高位の魔術師になると無詠唱即時発動みたいな技も使えるらしいけど。
「でもこの魔剣は仕込まれている魔術であれば発動意志を示すだけで勝手に発動してくれる」
「つまり、剣が魔法を行使してくれるってこと?」
道理で私が使ったことがない魔法を使っていた訳だ。
「そそ。もっとも777から任意の数個を選んで行使するという何パターンあるか計算するのも大変な動作をしないといけないけど」
「そんなに……。やっぱもうちょっと減らしても良かったんじゃない?」
「だって最強の魔剣を作れと言われたから」
アリーシャはどや顔で言った。
「ごめん、失言だった」
「そうそう。じゃ、次はこれはどうかな。ストーンゴーレム」
今度はアリーシャの杖から石で出来た身長二メートルほどのゴーレムが現れる。ゴーレムはのっそのっそとこちらへ歩いて来る。
ストーンゴーレムに通常の斬撃は効きづらい。打撃系の魔法を使うか、凍り付かせるか、術者を倒すか。頭の中に777の選択肢がぐるぐると渦巻く。うん、せっかく魔剣なんだし、これを試してみようか。
『マジックブレード』『リインフォース』『エンチャントウェポン』『エアブレード』『エンチャントウィンド』
武器強化系魔法三つに、魔法強化系魔法二つ。元々最強鉱石で作られた魔剣だし、これだけ強化すればストーンゴーレムといえども倒せるのではないか。私が魔法を指定すると刀身に魔法五つ分の強化が施される。『エアブレード』だけ風属性魔法のためか、ほのかに空気の流れが感じられる。
「やあっ」
気合とともに魔剣をストーンゴーレムに振り降ろすとゴーレムは見事真っ二つに両断された。二つに分かたれた石の塊はごろりとその場に落ちた。
「うそ……」
その光景を見てアリーシャは呆然としていた。気が付くと私も全身に大粒の汗をかいている。やはりこの魔剣は尋常じゃない負荷がかかるらしい。
「まさか魔法を五つも組み合わせるなんて……いくら三徹だったとはいえ、私は四つでぶっ倒れたのに」
「え、そんなにすごいの?」
口を開くと急に吐き気がこみあげてくる。まさか三徹状態とはいえ高名な錬金術師を超えたとは……。
だがその代償は大きかった。アリーシャが何か言っているが、急に私は意識が遠くなるのを感じた。
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