第4話 ”神の手”アリーシャ
さて、何かいきなり挑発を受けて忘れていたが、“神の手”の異名をとる錬金術師アリーシャと言えば名前自体はかなり有名な人物である。鉱物の勉強は錬金術の勉強と被る内容もあるため時々名前が出ることがあったが、当代の錬金術師としてはおそらくトップクラスの人物だろう。しかも錬金術の知識だけでなく、魔道具の製作などにおいても当代一流と名高い。少なくとも、こんな辺境でうろうろしていていい人材ではない。
「ところであなたはどうしてこんなところに?」
「……そ、それはもう、決まってるでしょ! 錬金術師として珍しい鉱石があると聞けば探しに行かないと!」
そのとき私はアリーシャが答えるまでにわずかな間があったことにかすかな違和感を覚えた。だが、それを私が口にする前にアリーシャが話題を変えたので私の疑問は意識の底に沈んでいった。
「ところでこの石、いくらか譲って欲しいんだけど。この素材ならもしかしたらすごい魔剣や魔道具が作れるかも……いや、私なら最強の魔剣を作れる!」
すごい魔剣や魔道具。そして最強の魔剣。その言葉を聞いて私のテンションは嫌がおうにも上がっていく。そもそも私は資源探索と鉱物精製は出来るけどそれを使って何かを作ることは出来ない。売って儲けることは出来るけどよく考えるとどうせ課金するなら加工系のスキルも取っておけば良かったな。いや、でも目の前に当代一流がいるんだから作ってもらえばいいのか。
「じゃあ私のためにこれ使って最強の魔剣を打ってくれない?」
私の言葉にアリーシャは不敵な笑みを浮かべる。
「へえ……。最強の魔剣を打つとなれば高くつくけどいい? 言ったら悪いけどこんな辺境の領主に払えるかしら」
「いいよ。多分ユキノダイトの鉱脈は結構大きいはずだから。ちなみに石の価格は暫定的にこれくらいで一万Gぐらいでいいかな」
私は握りこぶしを見せる。この辺も私というよりはアルナの脳内の常識でそれくらいだと判断した価値なので実はぴんとこない。
それを見てアリーシャも少し考えた末頷く。
「まあ妥当じゃない? ただ私の魔剣も高くつくから覚悟しといてよ」
「値段に見合った性能ならいいよ。あと原料費も引いといてね」
「ところでどんな魔剣が欲しいとかある? おそらくこの石は魔法との親和性がとても高いから、魔法をこめればどんな性能にも出来ると思う」
アリーシャが石を手にもって魔力を込めると、石はきらきらとカラフルに輝く。さすがにわざわざ課金しただけのことはある。
とはいえ、どんな魔剣が欲しいか、か。
冷静に自分のステータスを思い出す。とりあえず防御力がゴミ。魔力は多少ある。そしてINTが高い。しかしINTが高いってどう説明すればいいんだろう。「私は頭がいいから頭がいいと強くなる剣が欲しい」て言うのは頭が悪いし。
いや、待てよ? 冷静に考えると目の前のアリーシャも多分INTは高いはず。多分防御力も低いはずだ。
「もしアリーシャが魔剣を持つとしたらどんなのにする?」
私の言葉にアリーシャは少し驚いたような顔をする。
「まさかこの私を参考にするって言うの?」
薄々感じていたことだが、彼女はかなりプライドが高い人物のようである。が、アリーシャは私をじっくり眺めてはあっと息を吐いた。
「……まああなたも只者ではなさそうだけど。まず魔剣には大まかな方向性が二つある。一つは物理的に強い剣を魔法で強化するパターン。もう一つは使用者の魔力を具現化する媒介として使用するパターン。後者は剣というよりは魔道具に近いかもね。私は力はないから後者寄りかな。はい、ここまでが前提ね」
「なるほど」
とはいえこのゲーム、魔力と知力は別ステータスとして存在するから魔力が乗るタイプの剣ではそんなには強くならない。
「その上で、私ほどの天才だと大量の術式を組み込んだ魔剣を作る。戦闘の際にどの魔法を起動させるかを瞬時に判断しないといけないんだけど、時々で最適な組み合わせを選ぶことで最強の力を発揮できる。まあそんな高度な魔剣、私にしか使いこなせないだろうけど」
なるほど、INTが高い人がそういう系の魔剣を使うのか。解説しながらアリーシャは自分の想像にわくわくしている。
「ちょうどこの鉱石、大量の魔法を組み合わせても大丈夫そうだし。自分用に最強の魔剣を作ってしまおうかな」
妄想の世界に旅立ち始めたアリーシャを引き戻すように私は声をかける。
「あ、じゃあそれ私にも作って」
「は?」
アリーシャがドン引きした様子でこちらを見る。
「しがない辺境領主がこの私と同じ魔剣を使おうって言うの!? 高位の魔剣は誰にでも使いこなせる物ではないのよ!?」
「うん」
失礼だな。しがない辺境領主であることは否定しないけど。
「屈辱だわ……でもそこまで言うなら後悔させてあげる。最強の魔剣を作って、そして格の違いというものを教えてあげるわ!」
どうやらアリーシャの闘志に火がついたようである。ただ、それで素晴らしい魔剣を作ってもらえるのならばありがたいことではある。
「じゃあここの石もらえるだけもらってくから。あと工房とかある? ちょっと貸して欲しい」
いや、ないんじゃないかな? 工業のレベル初期値だし。
「ごめん、私しがない辺境領主だから……」
私の言葉にアリーシャは一瞬刺すような視線でこちらを睨みつける。
「は? まあいいわ、私には神の手があるから。魔道具の量産はまだしも、魔剣一本作るならどの道ほぼ手作業だし、やってやる」
「任せた」
そんな訳でアリーシャの魔剣鍛錬が始まった。
一方の私も大忙しだった。まずは麓のヴォルノ村の人々に採掘を行わせる。そして採掘したユキノダイトの精練も行わなければならないので、館に戻って炉の手配もしなければならない。私以外にその辺のことに詳しい人がいない(人材不足ではなく私の能力が高いだけだと思いたい)ため、その辺の手配も基本的に全部自前になる。
そんなこんなで慌ただしい日が三日ほど続いたころ。私の館に一振りの魔剣を携えたアリーシャがやってきた。その目は不眠と興奮によるものか真っ赤に充血しており、顔全体が紅潮している。その様子は私の首を獲りに来たバーサーカーと言っても過言ではないくらいだった。
「出来たわ……」
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