第13話

 アルフォンスは図書室で会ってから、いつでもフィリップのそばにいるようになった。それも、セントリアル学園の制服で。


 セントリアル学園は、生徒以外の立ち入りは禁止である。保護者であっても、用事があった時以外入る事はできない。


 レティシアは図書室でアルフォンスと会った時は、何か事情があるのだろうと思って聞かなかった。だが、いつもいて、制服まで着ていると流石に気になる。何も説明がなかったので、皆も気になっているようだ。


「フィリップ殿下の従者兼護衛として、学園内にいられる事が特例で認められたのですよ」


 レティシアが聞くと、アルフォンスはそう答えた。流石は王族、そんな特例が認められるなんて、とレティシアは思った。

 このクラスの中でアルフォンスと一番話すのは、フィリップだ。だが、その次に話すのはレティシアだった。


 レティシアは別にアルフォンスとそんなに話がしたい訳ではない。アルフォンスは、見た目もよく、フィリップの一番近くにいる者だが、レティシアは興味がなかった。

 だが、アルフォンスはレティシアに話しかけてくる。レティシアが質問しても答えてくれる。レティシアが、興味のある分野――つまり、将来女性が就きやすい職業などだが――について沢山教えてくれる。その為、フィリップの次に沢山話すことになったのだ。


「そうだ。アルフォンスは、俺が卒業するまで一緒に通う予定だ」


 ただ、レティシアは少し困った事になった。フィリップが「友人になろう」と言ってきた時よりも話しかけてくるようになったのだ。レティシアがアルフォンスと話していると必ずフィリップが入ってくる。そして、フィリップが知っている事を話してくるのだ。だが聞いただけのフィリップより、きちんとその目で見たアルフォンスの方が分かりやすく説明してくれる。百聞は一見にしかずだ。

 また、フィリップが来るととても目立ってしまうのだ。フィリップは第一王子だ。そしてこの国の王族は、自分で結婚相手を決める事になっている。セントリアル学園に在学中に決めると言われているので、誰になるか皆興味津々だ。

 そんな中、フィリップはレティシアに話しかけてくる。この学園内で、一番フィリップと話をしている令嬢はレティシアの為、レティシアが次期王妃ではないか、という噂が流れてしまった。レティシアの家、シュトラール家がこの国一番の公爵家だから、という理由もあるが。ちなみに、レティシアの次にフィリップと話しているのはステラだ。だがステラは、男爵令嬢である――という理由ではなくフィリップと話している時、明らかにどちらも表情が穏やかではない為、違うだろうと言われている――のでステラは噂されなかった。


 レティシアはフィリップに話に入ってくると噂になるという事を言外に伝えた。本当はレティシアは言いたくはなかった。だが、アルフォンスはレティシアが言ってからではないと、注意しないのだ。

それでも、アルフォンスと話していると必ず入ってくるのだ。そんなに自分が賢いと思わせたいのか、それとも自分の従者を取られたくないのか、とレティシアは思った。


 それにしても、以前は三年生になるまで、アルフォンスはセントリアル学園に来なかった。


 どうして、今回は以前より早く来たのだろう。


 ‘‘何か’’が以前とは違うというのか。


 以前レティシアだった時、アルフォンスは時期を合わせて三年生の始まりの頃に入ってきたのだ。それなのに今回は、こんな中途半端な時期に来た。前回と今回、何が変わったのか。それをレティシアは考えていた。


 何故、今回は早くに来たのか。


 実はそれはレティシアが原因であった。


 フィリップはレティシアと友人になった時、こう考えたのだ。レティシアと沢山話がしたい。


 だが、なんでもない男女が二人っきりで話をしていると、咎められる。だったら、二人ではなく三人にすればいい。というふうに。


 この国、ルミナーレは結婚相手や将来結婚の約束をしている婚約者などではない男女が二人で話す事は良くないこととされている。それを王族であるフィリップがすると、ますます良くない。その為、フィリップはアルフォンスをセントリアル学園に入れたのだ。


 だが、この計画は失敗だったと言える。


 レティシアは、大抵ステラと一緒に行動している。アルフォンスと話している時もだ。ステラは、レティシアとアルフォンスが話している時は何もしないくせに、フィリップがレティシアに話しかけようとすると、何故か邪魔をしてくる。そのせいで、フィリップはレティシアとあまり話せなかった。


 では、どうすればレティシアと話せるだろうか。


 そうフィリップは考えるのだった。

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