第14話

 レティシアはいつもより早く目が覚めた。


「おはようございます、レティシアお嬢様。今日はいつもよりも早いですね」


 最近では、いつ起きてもレティシアの部屋にいるリタに着替えを手伝ってもらう。以前、ステラに教えてもらったように何でも「ありがとう」と言うようになってから、リタは変わった。

 元々きちんと仕事をしてくれたが、最近では頼まなくても察するようにまでなった。学園での一日のことなども、リタは聞いてくれる。リタは、話を聞くのが上手いので、つい沢山話してしまう。

 使用人と親しくなるなんて……と以前のレティシアなら思っていたが、これはこれでいい事だ、と思うようになった。


 着替え終わったら、リタに髪の毛を整えてもらう。リタは、レティシアの髪が以前から好きだったらしい。いつも「お嬢様の髪は絹のように美しいですね」と髪をとかしながら言ってくれる。


 レティシアは、朝食を食べに食堂に向かうと、もう既に座っていたレティシアの父に驚かれた。


「おはようございます、お父様」

「おはよう、私の可愛いレティ。どうしたんだい? 今日はいつにも増して早いじゃないか」


 レティはレティシアの愛称である。レティシアの父は、いつもレティシアの事を『私の可愛いレティ』と呼ぶ。


 レティシアが理由を言おうとすると、双子の兄も起きてきた。


「おはようございます。ヴァージニアお兄様、ハドソンお兄様」


 「「おはよう、レティ。今日は随分早くに起きたんだね」」


 二人とも同じ声で同じ言葉を同じタイミングで同じように笑顔で言った。どちらも本当にそっくりだ。初対面の人には、どちらがヴァージニアでどちらがハドソンなのか全くわからない。

 ただ、親しくなると、違いがわかる。分かりやすいのだと、ヴァージニアは口元にホクロがあり、ハドソンは目元にホクロがある。そうやって見分けるのだ。


「ええ。今日は、二年生になって初めてのテストですもの」


 レティシアは、双子の兄達に笑顔を返して、早く起きた理由を言った。


 そう、今日はテストがある。それも、レティシアが二年生になって初めてのテストだ。レティシアにとっては二回目だが、今まで勉強してきた成果を発揮できるか緊張していた。それ故、早くに目が覚めてしまったのだ。


「そうか、今日はテストなのか。いいかい、可愛いレティ。落ち着いて挑むんだよ。賢いレティなら、きっと落ち着いていつも通りにしていれば、きっといい順位が取れるからね」

 「「そうだよ、レティ。落ち着いて受けるんだよ」」


 レティシアの父とヴァージニア、ハドソンはそれぞれレティを応援した。レティシアの家族は皆、レティシアはいい点数を取れると信じているのだ。レティシアは頑張ろう、と更に力を込めた。


 いつもの朝食の時間が始まった。レティシアの弟は、いつも皆より少し遅めに朝食を取る。その為、朝は四人での朝食なのだ。朝食ではいつも通り今日の予定を話しながら、レティシアの弟を除いたレティシアの家族は、朝食を取った。


 朝食を食べ終え、レティシアは学校へと向かう。学校へ向かう馬車の中でも、レティシアはテストの為の復習をした。

 学校に着き、レティシアは校舎まで歩いていると、昇降口につく辺りでステラが後ろから来た。


「レティシア様、ご機嫌よう! 今日はいよいよテストですね」

「ご機嫌よう、ステラさん。ええ、いよいよテストね。……ってあなた大丈夫? なんだか顔色が悪いのではなくて?」


 ステラはレティシアに元気よく挨拶したものの、すぐにフラフラとしていた。今にも倒れそうだ。レティシアは最初、昨日の夜勉強をしすぎたのではないか、と思ったがそれは違った。ステラの顔色は、明らかに真っ青なのだ。また、唇も血の気を失っている。だがステラは、レティシアにいくら大丈夫か聞かれても「大丈夫です!」としか言わなかった。


 レティシアがステラの様子を心配しながらも、教室に着いた。いつもは友達とお喋りしている者が多い。だが今日は、殆どの人達が勉強をしていた。順位が下がってしまうと、BクラスやCクラスに落とされるのだ。そんなみっともない真似はできない為、当たり前である。


 レティシアとステラもそれぞれの席に着いて勉強を始めた。ただ、ステラは勉強道具を広げても、頭がフラフラと揺れている。それに顔が赤くなり、ぼーっとしているようだった。勉強に全く集中出来ていない。レティシアもそんなステラの様子が心配で、全く勉強に集中出来なかった。


 しばらくして、フィリップとアルフォンスが教室に入ってきた。皆一斉に勉強の手を止め、深々とお辞儀をする。フィリップとアルフォンスはそれぞれの席に向かった。


「やあ、おはよう。レティシア」

「おはようございます、レティシア様」


 フィリップとアルフォンスはそれぞれレティシアに挨拶をしてきた。レティシアも会釈をして、挨拶を返す。


「ご機嫌よう、フィリップ様、アルフォンス様。今日はテストですわね。アルフォンス様、アルフォンス様もご一緒にテストは受けるのかしら?」

「いいえ、レティシア様。私は学園に通っていますが、それはあくまでフィリップ様の為。年齢が明らかに離れておりますので、受けることはございません。皆さんが受けている最中は、別室で待機する事になっております」


 レティシアが二人に挨拶を終えた後、アルフォンスと会話をしていた。すると、フィリップが面白くない為、いつものように会話に入ってきた。レティシアは注意はしないが、迷惑そうな顔をする。

こういう時はいつもステラさんがフィリップ様の邪魔をしてくれるのだが……とレティシアは思い、ステラを見た。ステラはフラフラとしていて、目が虚ろになっていた。フィリップとアルフォンスが来た事に気付いていない。


 レティシアはステラを保健室に連れて行く事にした。ステラは、必死で「大丈夫です!」と言おうとしていたが、もう呂律が回っていなくて「らいじょうぶれす!」と言っていた。レティシアはもう引っ張ってでも保健室に連れて行く事にした。それは、フィリップとアルフォンスも手伝ってくれたので、レティシアが思っていたよりもスムーズに進んだ。レティシアの力ではステラを持ち上げられないが、フィリップやアルフォンスならば持ち上げられる。もうすぐ先生が来る。テストが始まるので、アルフォンスがステラを持ち上げて、保健室に連れて行った。


 アルフォンスがステラをお姫様抱っこして教室から去り、少し経ってから先生が来てテストが始まった。テストは後日でも受けられる。ステラは体調が良くなってから、受ける事になるだろう。

 レティシアは、レティシアの父や兄達に言われた通り、緊張せずいつも通りにテストを受けた。解答用紙に答えを全て記入し、終わった後はしっかり見直しをする。どの教科でもそれを心掛けた。


 テストが受け終わり、昼食の時間になった。皆、食堂に向かう。レティシアやフィリップも食堂に向かった。

 食堂には、アルフォンスがいた。フィリップの昼食の準備をする。レティシアは、ステラの様子が気になったので、フィリップの近くに座った。


「アルフォンス様、ステラはどうなったの? 今はどんな状態なの?」


 レティシアは眉を寄せ、いつもの令嬢言葉も忘れて、不安げな顔をした。レティシアにとってステラは友人だ。また、今までの友人とは全然違う。なので、とても心配だった。レティシアの不安げな表情は、いつもの強気な雰囲気と違い、とても庇護欲をそそり、守ってあげたくなる。その為、フィリップ含め周りの男性達、いや女性たちまでも皆レティシアの事を見ていた。レティシアは気付いていないが。


「レティシア様。ステラ様は熱があったようです。ですが、薬を飲んで家にお帰りになられました。ただの風邪だそうです。寝ていれば治るみたいなので、きっと大丈夫ですよ」


 アルフォンスは、レティシアを安心させるようにステラの様子を教えた。レティシアはアルフォンスの言葉を聞き、ホッとして「よかった……」と笑みを浮かべた。その笑みもまた、皆を魅了する。勿論レティシアは気付いていないが。


「ありがとう、アルフォンス様。後でステラさんの家へお見舞いに行って来るわ」


 レティシアはアルフォンスにお礼を言い、ステラの家にどんなお土産を持って行こうか考え始めた。レティシアはそれをまた、アルフォンスに相談する。完全に二人だけの世界となっていて、誰も入れないと思い、皆遠巻きに眺めていた。


 そんな時、


「待て、俺も行く」


 そう発言する者がいた。勿論、レティシアとアルフォンスではない。そう、フィリップだった。


 フィリップは顔に焦燥を浮かべながら、そう発言したのだった。

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