第10話

 レティシアが、以前とは違う結果にしようと決意してから早いもので、一月が経った。

 以前『レティシア』だった時とは、周りの環境が随分と変化した。


 何が変わったかというと……


 使用人との仲が、以前よりも良くなった。


 以前のレティシアは、何かをやって貰っても「ありがとう」などの感謝の言葉を口にしなかった。レティシアがお金を払っているわけではないが、こちらが雇っているのだから、やってもらって当然、と思っていたのだ。使用人達も、仕事なので気にしていなかった。

 だが、レティシアは、それは違うという事に気が付いた。ステラと仲良くなってから分かったのだが、ステラは、どんな小さな事でも、何かをやってもらったら「ありがとうございます」とすぐに言うのだ。それは、レティシアにだけではなかった。

 以前、ステラの家に遊びにいった事がある。ステラの家は、男爵家と言っても立派な家だった。輸出入に力を入れているお家柄、外国の品物も、数多く揃っていた。その中に『リョクチャ』という飲んだ事のないお茶があったので、飲ませてもらったのだ。

 『リョクチャ』を使用人にいれてもらい、お菓子も一緒に一持ってきてもらった。ステラは、お茶をいれた使用人にも、お菓子を運んできた使用人にも「ありがとう」と言ったのだ。『リョクチャ』は、いつも飲んでいる紅茶より苦く、色が緑色だったけど、香りがよく美味しかった。

 レティシアはステラに聞いた。何故、使用人にお礼を言うのか。使用人は仕事でやっているだけではないか、と。それに対して、ステラはこう言ったのだ。


「確かに使用人達は、仕事でやっているのですが……私、『自分が何をされたら嬉しいか』ってよく考える事があるんです。それで、働いた事は無いですけど、もし働いたとしたら仕事としてやった事に対して、『ありがとう』って言ってもらったらもっと頑張ろう、と思うんじゃないかと考えまして。それで、何かしてもらったら、例えそれが仕事でも、『ありがとう』って言う事にしたんです」


 レティシアは、それを聞いて驚いた。だが同時に、確かに、と納得もした。

 レティシアは、ステラに『ありがとうございます』と言われた時、嬉しく思ったし、他にも何かしてあげたくなった。それはきっと、使用人達も同じなのだ、とレティシアは理解した。

 それからはレティシアも、使用人達にも『ありがとう』と言うようにしたのだ。最初は酷く驚かれたが、やはり喜んでくれた。使用人達の態度は、以前までは事務的に感じられたが、最近では色々とレティシアから話したり、使用人からも話してくれるようになった。


 他に何が変わったかというと……


 成績が上がった。


 以前のレティシアは、フィリップの事を追いかけてばかりで、勉強など全然していなかった。だが今は、将来職に就く為に、家でも学校でも必死に勉強している。お陰で、使用人達、リタなどは「お嬢様、どこか具合でも悪いのですか?」と心配してきた。家族にもいきなりどうしたんだ、と驚かれた。レティシアは、「勉強する事の楽しさに目覚めた」と言って、皆を納得させた。それでも心配されたが、レティシアは気にせず勉強に励んだ。

 お陰で現在のレティシアの成績は、以前よりもかなり上がった。学年内で、二番、三番くらいの成績になった。これからも頑張って、将来いい職に就けるようにしよう、とレティシアは思った。


 だが、レティシアにとって一番驚いた、以前と変化した事は……


 フィリップと親しくなった事だ。


 以前のレティシアは、フィリップの事が大好きだった。ただ、好きになったのが、フィリップの笑顔、つまり見た目だった為、フィリップ自身をよく見ていなかった。恋は盲目、だったのだ。

 フィリップと親しくなって一月、以前は知ろうとしなかった彼のことが色々と分かった。フィリップは噂好きで、意外と笑う事が多い。そしておしゃべりだ。一度仲良くなった相手とはたくさん話す。レティシアの対応が、以前と違い素っ気なくとも。

だが、今のレティシアにとって、フィリップは恋愛対象ではないので、話し掛けられても面倒でしかなかった。授業中に話し掛けられるのも、将来の事を考えているレティシアにとって、本当はかなり迷惑だ。ただ、フィリップが第一王子だからというのと、好きな女性がいるようだから、色々と答えてはいるが。それに、フィリップは新しい情報を教えてくれる事が多いので、最新の情報を知る、という理由もあって話を拒まずにいる。


 まだ一月しか経っていないが、以前とは色々とレティシアの状況が変わった。


 ‘‘彼女’’が来るまで、以前とどう変わっていくのか、とレティシアは楽しみに思った。

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