第4話

 セントリアル学園は貴族の子息令嬢が通う学校だ。其処で学ぶのは、貴族としての素養、教養、マナー、……ではなく、普通の勉学である。最も、『普通』といっても、学ぶ内容は平民と同じ内容もあるが、平民と違って政治についてや経営学、様々な領地の特徴についてなど、多岐にわたる。素養、教養、マナーなどは普通、それぞれの家で幼い頃から学ぶ。なので、習うものではなく、出来て当たり前なのだ。


 セントリアル学園は貴族の為の貴族が通う学園なので、その設備は国内一と言っても過言ではない。他にも貴族の通う学園はあるが、この学園は授業のレベルが他よりも遥かに高く、『セントリアル学園に通っていた』というだけでも自慢になるので、この学園に通わせたがる親は多い。よって、寄付金を多く払って通わせる家もあるのだ。ようは一種のステータスである。

 それらのおかげで設備が整っている。ただ、それによって授業の質を下げるわけにはいかないので、Aクラス、Bクラス、Cクラスなどとクラスによって、授業のレベルが違っている。

 また、セントリアル学園は三年制で、十六歳から入学となる。十八歳で卒業したら、子息達は王宮で働くか、領地を継ぐことになる。 だが、大抵の令嬢は卒業したら、婚約者と結婚することになる。


 この国、ルミナーレは女性が働くという事は少ない。女性は、跡継ぎを産み、育てる事が仕事。平民でも、女性は、家事・育児をして家庭を守るのが仕事だ。よって、女性の地位は男性よりも低い。


 では何故セントリアル学園に通わせるのか?


 それは、先程も言った『セントリアル学園に通っていた』という肩書きだけで自慢になるからだ。

 身分が低い家も『セントリアル学園に通っていた』というだけで、身分が高い家と結婚出来る事が多いのだ。例えば、男爵家の令嬢が、伯爵家の子息と結婚したり。


つまり、それくらいセントリアル学園は、貴族にとって重要な学園なのだ。


 レティシアは学園へと向かう準備をしていた。今日は、レティシアの気持ち的には久し振りに登校となる。それが嬉しかったり不安だったりと、複雑な気持ちだったこと、前日の夕食の前に少し寝てしまったことも合わさって、今朝レティシアは朝早くに目が覚めた。

 レティシアがいつも起きるような時間では無かったので、メイド達も部屋にいなかった。なので、自分で制服に着替える。自分で髪も整えようとするとレティシア付のメイド、昨日の夕方にも起こしてくれた、リタが慌てて入ってきて、


「レティシアお嬢様! 遅れてしまい申し訳ございません! それは私がやりますので!」


とブラシを取り上げてられてしまった。そのまま鏡台の前に座って、リタに髪を整えてもらう。


 髪を整え終わったら、リタにお礼を言って朝食へと向かう。いつもより早くに来たので、家族達には驚かれた。早くに目が覚めてしまった事を言うと、今日は何も無い日なのにどうしたのかと聞かれた。

 そう、今日は他の人にとっては何も無い日なのだ。特別だと思っているのは、レティシアだけ。

 朝食を食べ終わったら、レティシアは馬車に乗り、学園へと向かう。其処で、先程の事を考えていたのだ。


 レティシアは今日やろうと思っている事がある。今一緒にいる友人達と距離を置く事だ。提案したら、騒がれるかもしれないが、 何とかして早めにしなくてはいけない事だ。周りにも分からせないといけない。どうすれば一番素早く、周囲にも知れ渡るように解決できるか、レティシアは考える。


 初めはこう考えていたのだ。いてもいなくても変わらないし、別に困らない。ならば、離れるまで放って置けば良いのではないかと。だが、気付いたのだ。レティシアの友人達はきっと‘‘彼女’’が現れたら、また‘‘彼女’’を虐める事に。そうして、罪が明らかになれば、友人達の中で一番権力の大きいレティシアが疑われるだろう。レティシアが‘‘彼女’’を虐めるように命令したのではないか、と。友人達もきっと、その通りだと言うだろう、罪を少しでも軽くする為に。そうなれば、またレティシアは牢獄に入れられる。

 そうはしたくない。そうなりたくない。レティシアは‘‘彼女’’をもう傷付けたくないし、牢獄にももう入れられたくないのだ。

 だから、すぐにでも友人達と離れる。自分の身の安全の為なんて……、と思われるかもしれないが、お互い様だろう。友人達だって、レティシアの権力が目的で近付いてきたのだから。


 そうこうしてるうちに、学園に着いた。レティシアは馬車から降りて、歩いていると校門の前に一人の女子生徒が立っていた。彼女は知っている。レティシアの友人の一人だ。レティシアの荷物を持つ為に待っていたのだろう。校門の前には、毎日レティシアの荷物を持つ為に誰かが待っている。レティシアに媚びを売る為に毎朝、早い者勝ちで奪い合っているのだ。確か彼女は子爵令嬢だ。丁度良い。レティシアはいい事を思いつき、内心笑みを浮かべながら歩いていく。


「ご機嫌よう、レティシア様! 今日は私が荷物を持――「ご機嫌よう、結構よ。自分で持つわ」


 レティシアは最後まで話を聞かずに冷たい返事をして、彼女の前を素通りする。登校して来た生徒達は、いつもの光景だろうと思って気にしていなかったが、レティシアの言葉によってすぐに注目をした。彼女達が次にどう動くか見ている。

 子爵令嬢はレティシアのいつもと違う行動に驚き、固まっていたが、すぐにハッとして、レティシアに駆け寄って行く。


「え……でもレティシア様……。いつもは他の方に持たせていたじゃありませんか……」

「ええ、いつもはどうでも良いから放っておいたの。これからは、目障りなので結構よ。皆さんにもそう伝えておいてもらえる?」


 レティシアの発言に周囲がざわめいた。子爵令嬢は驚いてまた固まっている。周囲も子爵令嬢も気が付いたのだろう。レティシアは最後に「皆さんにもそう伝えておいてもらえる?」と頼んだのだ。自分で伝えないで、他の人に頼む。つまり、現在一緒にいる友人達に「もう二度と話さない」と暗に言っている。


「そんな! いきなりどうしてですか!?」

「聞こえなかったの?『目障り』と言ったのよ」


 そう伝えたにも関わらず、尚しつこく追ってくる子爵令嬢にレティシアは冷たく告げた。

 子爵令嬢はビクリ、と肩を震わせてその場で立ち止まった。そして、もう追ってくる事は無かった。


 レティシアが一緒にいた取り巻き達を捨てた。その噂は朝のうちに、全校生徒に広まった。

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