誘い
きっかけは年が明けたばかりの冬の午後、数年ぶりの知人からのメールだった。
〈保育園で働いてみない?私の後がまの看護師を募集しているのだけど…〉
保育園?保育園で看護師?
少し考えた。病児保育ってやつかしら?
こちらの方が早いと思い電話をしてみることにした。
メールの着信からそんなに経ってないから、電話に出るくらいの余裕はあるだろうと思った。案の定すこしの呼び出し音の後、彼女が出た。
「もしもしー、久しぶりぶりー。PTA役員終わって以来だよねー。」
「ホント、久しぶりね。もう3年くらい?」
「そお…だね。メールもらってビックリしたわ。」
「そうそう…ねぇ、やってくれない?私の後任」
「って、保育園って病児なの?そんな所この辺にあったっけ?」
末の子が4月から小学校に入学する予定で、ランチ友達も次々とパートに出るようになった私は"自分も働くかなぁ"と軽く考えて少しの興味を持って聞いた。
「違う違う。病児じゃないよ。普通の保育園。川端町にみどり保育園ってあるの知ってる?」
「ん〜…あったっけ?うちの子達は3人とも幼稚園だったからなぁ。それにしても普通の保育園なんでしょ。なんで看護師?」
「ほら。駄菓子屋の近くにあるってば。いや認可保育園ってね看護師いなきゃダメなのよ。」
へ?認可保育園?と少し考える。ニュースやワイドショーと言われる番組でたまに報道される"未認可保育園"という単語。たいていは保育士不足とか虐待問題といった内容だ。そして思いつく。そりゃ"未認可保育園"があれば"認可保育園"もあるわね。っていうか認可保育園があるから、未認可という単語ができたのか…
それにしても未認可の方が聞き慣れちゃってて認可保育園て、ゴロが悪く感じるわね。
などと思いながら、電話の向こうの彼女の説明を聞く。
なんでも認可保育園は厚労省の決めた条件を揃えていなくてはならなくて、その条件の中に"看護師を在園させる事"というのがあるらしい。
「ふーん。知らなかったわ」
「うん。知らない人多いよね。けっきよく乳幼児突然死症候群が怖いからって事みたいよ。」
「突然死されたら何も出来ないよ。それに私、小児科の経験ないんだけど」
長男の出産まで病院で看護師としての経験は8年あったが、それは消化器内科と一般外科の病棟だった。子どもなんて、ましてや乳幼児の看護などした事がない。
「だーいじょうぶ!別に保健室の先生になるわけじゃないの。まあ、看護師の扱いって保育園によって違うんだけど、みどり保育園の場合は基本的に1歳児のお部屋で保育士の先生達と子どものお世話をしてくれればいいのよ。オムツ替えたりご飯食べさせたりね。だから子育て経験ある人じゃないと困るのよ。」
1歳児かぁ…可愛いよなぁ…と思わず心引き寄せられる。以前は別に子ども好きという訳でもなかったが、自分の子どもを産んでから、やたら街で見かける子どもが可愛く思えて仕方ない。1歳児なんて可愛いの頂点じゃないか。
「やってみようかなぁ…」
天使のような子ども達に囲まれている情景を頭に浮かべ、思わず呟いた。
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