第2話 黒田親子
では始めるとしよう。
ずっと考えていた事だったが、俺たちは旗揚げをすると決めた。
必要なのは物資と人と土地。ある所から貰いましょう。
「おやっさん。この城頂戴」
「あ?んー……いいぞ」
「いやいやいやいや……待て待て待て待て!貴様らそれでいいのかっ?!」
と言う訳で、姫路城と黒田職隆おやっさんの旗下300名も手に入れました。
いや、確かに官兵衛が取り乱すほどの速度で即決したけど……本当にこれでいいのかなぁ?身近な人間には真っ正直に話したいと思ったので、二人には本当に真っ向から言葉を伝えたけど、城獲りってこんな楽じゃ無いと思う。
事前におやっさんに根回ししていたとか、そんな小細工はしていない。神に誓ってもいい。神様なんて信じてないけど。
「……官兵衛落ち付け。でも、こっちから言い出しておいてなんですが、マジでいいんすか?冗談じゃないっすよ?」
「隆鳳が珍しく神妙に話してきた時点で冗談の類だとは思っておらんわ。それに、逆に訊こう。儂がここで断った場合、お前たちはどうする?」
「小寺の御着城をぶん獲ってくる」
「そして藤巴紋と石餅紋(共に黒田家の家紋)を掲げて黒田職隆の謀反と流言を飛ばす。どちらにしても俺がこちら側にいるから親父は巻き込める」
おう、おやっさんを巻き込む事を忘れていたが、官兵衛の補足で完璧やな。
しかし、えげつないな。官兵衛。なし崩しに親父を巻き込むか……。
「……だと思ったわ。二人でぶんどってくる所はともかくだ、お前らは言い出したらやりかねない。実際やっておるからな」
「流石っす、おやっさん」
伊達に6年も親父やってないわ。その分、官兵衛と俺と色々とやらかしている前例がある訳だが……。
一番呆れられたのは、元服前にこっそり軍に紛れて大将首獲ってきた事だろうか。あれは確か3年ぐらい前の事だ。官兵衛のおっかさんが死んだ頃だ。それから二人しばらく謹慎喰らって、その間、官兵衛は軍法書に傾倒し、俺は身体を鍛えて技を磨いたのだ。
「ここ数年、色々と鍛え、練り上げていたのはこの為か?隆鳳」
「ああ……まあな」
「今更お前に歯向かう輩もこの城にはおらんだろうな……」
「ほ、ほら、強さが俺の取り柄だから」
強さが強み。うーん、正しくストロングポイント。
黒田家は商人から身を立て、代々知恵者を輩出している一族だが、実力主義故にこの城は尚武の気質も強い。力試しの相撲は相撲という名のバーリトゥードで、意識を完全に刈り取らないと終わらないほどだ。知識を蓄えるにしろ、身体を鍛えるにしろこの時代で考えられる最良の環境下にあった事は否めない。
お陰で俺の必殺技に磨きがかかったぜ。伝家の宝刀、バーニングハンマーとタイガードライバー´91。
ただ、身体は鍛えても背は年相応……より低めだったのが悩みの種だ。現代人と比べると戦国時代の人間はそれほど背が高いという訳でもなく、それを差し引いても150あるかないかぐらいだ。ましてや、筋肉の鎧を纏っている訳でもない。自分でも言うのもなんだが、割とショタっぽい。
なのになぜ、フル武装した人間を軽く空の彼方まで飛ばせるか、理由は良く分からない。
ただ、一つだけこの感覚に似ている物を知っている。
前世で俺はとあるVRMMOをやっていた。それは戦国時代を背景に、いわゆるかつて一世を風靡した無双ゲーの操作キャラみたいな戦国ライフを送るゲームだ。
当初はNPCを相手にリアル一騎当千を行う爽快感が売りだったが、それ故に人気も出て、最終的にはPCが操作する一般兵の一人ひとりが武将級の強さを誇る、ある意味リアルに即した―――とんでもないゲームバランスに進化したバカゲーだった。
その中で俺はPCによる精鋭集団、「相模ノシシ」という獅子なのかイノシシなのかわからない連中を率いていたのだが……まあ、それは今となってはどうでもいいか。
とにかく、今の俺の身体能力は、あの無双ゲーの皮を被った超大戦ゲームのそれと似ていると言われたら似ているかもしれない。尤も、殺したら死ぬし、死んだら死ぬ世界だという事を考えると幾ら鍛えても足りない物だと思う。
故に、この城は人数以上にヤバい戦力で、俺はその頂点に立っている。たとえ歴史云々が無くとも、こんな精兵を抱えた城、喉から手が出る程に欲しいに決まっている。
「……まったく。いつから考えていたかは知らぬが、儂が勝てる目が儂には見えんではないか」
「……もし、敵対するとなると、正直ちょっとしんどいなぁと思うけど」
「親とその配下、その上役と平然と敵対して『しんどい』で済ますような奴を敵に回す気にはならんよ、息子でも、な」
おやっさんはふぅ、と深くため息を吐いた。
「それに、いずれ若いお前らは飛びだすだろうと思っていた。官兵衛だけならばともかく、お前がいるからな、隆鳳」
「俺の所為?」
「ああ。実際そうなんだろ?」
全ては俺のせいらしいです。まあ、確かにそうなんだけど。
「それに、儂も流石に取り巻く状況には辟易しておる。正直、バカ殿とバカ息子らを天秤に掛けたらどちらを選ぶかなど訳ないわい」
「……流石っす、おやっさん」
本当に流石は黒田官兵衛の父親だと思う。
ただ、この人は策謀家ってわけでも無く、農民や職人を保護したりと内政に重きを置いている人の印象が強い。内政は……まあ、俺も官兵衛も二人とも苦手意識が強いから、かなり心強い。
正直な所、官兵衛は万能だし、俺もちょいちょい内政に関わってきたりはしているから、出来ない訳じゃないけど「苦手だ」と思う。得意分野が突き抜けてるからとも言えるかもしれない。
そこは、海千山千のおやっさん。一人いるだけで厚みが違う。
……最近おやっさん、メタボ気味じゃないっすかねぇ、実際。
「で、だ。反旗を掲げるという事はともかく、一ついいか?」
「何ですか?」
「何でしょう?」
「いや、今更なんだが……官兵衛、お前なぜここにいる?」
少し言い辛そうなおやっさんの言に、本当に今更ながらに「そういえば」、と俺も思い出したように視線を向ると、官兵衛は少し気まずそうに頭を掻いた。
「……なんでだろうな?新しい弟が生まれたという報せを貰ったから、休みを貰って寿ぎに来ただけだったんだんだがな……」
ホントすまんと思っている……。
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