お料理上手な未亡人
「お母さん、お腹が減ったわ!」
柴万姫、長女で趙紅花の娘は明るく元気一杯、いろいろあった第十二代開国公の、残された一家の中を照らすような娘が開口一番にいった言葉です。
「万姫!はしたないですよ!」
趙紅花さんがたしなめていますが、
「紅花お母様、万姫お姉さまは部活でしごかれ、そのままで帰ってこられたようでお腹がぺこぺこなのです」
妹の柴瑞季さんと柴瑞麗さんの二人が助け舟をだしています。
確かにその通りのようで、柴万姫さんは体操服のうえに中原シティ高等女学校の制服を着ています。
「まったく……頭がいたいわ……こんなお転婆に育って……亡きお父様に顔向けできないわ……」
趙紅花さんが嘆くこと……
「お転婆でも天仙娘娘(てんせんにゃんにゃん)様の女婢になれるのよ、なんせ私は『格子』、もう永久就職は確実よ」
柴万姫さんは最上級生、今年で卒業なのです。
「まあまあ、そんな話より万姫もお腹が減っているようだし、速めにご飯にしましょう、なにか手早く作るわ」
朱麗月さんはこういうとキッチンへ。
「麗月お母様、肉団子をお願い!」
背後から瑞季さんと瑞麗さんの声が飛んできました。
手早くしたいので冷凍庫より冷凍肉団子を取り出し、油で揚げて塩味を付けた脆炸肉丸(ツイジャーロウワン)を作っています。
ただ中原では肉団子とともに、小麦を練り固め湯がいた小麦団子や野菜も一緒に炒められています。
この上に塩味の銀餡などをかけるのです。
中原の『北岸』料理とは、主食とおかずが一緒になっているタイプなのです。
「おいしい!やはりお母様たちの料理は最高ね!」
娘たちの喜ぶ顔を見て、何かしら幸せになる朱麗月さんと趙紅花さん。
「学校の食事では絶対にない味付け、甘酢餡を絡めた酢豚風のものはたまに出るけど、主食がご飯なのよね……」
「学校の料理って主食はお米なの?」
「パンもあるけど、基本は主食とおかずは別なの」
「麺料理も出ると聞いているけど?」
「信じられないけど、ラーメンに焼飯がつくのよ!」
「万姫姉さま、酷いときにはそれに餃子もついてきたことがありましたよね」
瑞季さんと瑞麗さんがさらに言葉を重ねます。
「えっ、主食ばかりじゃないの、おかずはでないの?」
朱麗月さん、驚いています。
「餃子はおかずだそうです、うっかりするとラーメンもおかず扱いですよ」
瑞季さんと瑞麗さんが母親に説明しています。
「主食はなれたわ、近頃は外へ出たりしたら、ラーメン定食なんてのもお友達と食べるわよ」
「でも、やはり中原で食べる辛口が恋しい……チリパウダーを振り掛けるけど、なにか違うのよね」
柴万姫さんは徹頭徹尾、辛口が好きなようですが……
「私は甘酢餡を絡めた酢豚、大好きよ♪」
「でも大抵はチキンなのよ、ポークやビーフは高いから、めったに食べれないわ♪」
瑞季さんと瑞麗さんは甘口でもOKのようですね。
「ポークとビーフね……」
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