第六章 朱麗月の物語 『北岸』肉団子
東岳泰山碧霞宮の未亡人ご一家
第十二代開国公の未亡人、朱麗月さんはもう一人の未亡人、趙紅花さんと仲良くネットワーク・レイルロードの物資補給部に勤めている。
自宅は東岳泰山碧霞宮、通勤しているのである。
娘たちは中原シティ高等女学校に通うことになり、寄宿舎住まい。
週末には娘達が帰ってきて、二人の未亡人は料理の腕を振るい一家は楽しく暮らしている。
あるとき、安い原価で提供できる中原の料理を考案してくれないかとの、物資補給部からの依頼というお仕事がやって来た。
二人は作りなれている肉団子料理を思い浮かべるが……
* * * * *
第十二代開国公の未亡人、朱麗月さんはもう一人の未亡人、趙紅花さんと仲良く東岳泰山碧霞宮で暮らしている。
娘たちは中原シティ高等女学校に通うことになり、寄宿舎住まい。
二人の未亡人もヴィーナスさんの口利きで、ネットワーク・レイルロードの物資補給部に仕事が見つかった。
究極のお嬢様であり貴族の妻でもある二人は、意外なことに料理が得意なのをヴィーナスさんは知っていたからです。
その結果、第十二代開国公の二人の未亡人は名誉清女になり、東岳泰山碧霞宮からニライカナイに通勤を始めたのです。
でもこの話はおかしいのです。
ヴィーナスさんの前で料理などしたことはないし、そのような話は誰もしたことがない。
娘たちも母親の意外な特技など知らない。
そもそも第十二代開国公の夫人が料理など、ありえない話なのです。
ただ……夢でヴィーナスさんと一緒に料理をしたような……不思議なことに第十二代開国公の家の者、母と娘の五人の女は同じ夢をみたようなのです。
お料理上手……そんな理由で物資補給部のお仕事を始めた二人でした。
レイルロードの物資補給部とは、ヴィーナス・ネットワーク管理RCTの下にある、ルレイルロードに付属するステーション全域の物資を補給管理する部署。
ただ慢性的な人員不足にあえいでいるネットワークですから、ご多分に漏れずここも人手不足、二人の未亡人も色々とお仕事が待っていました。
それから七年……
「朱麗月さん、趙紅花さんと二人で、安い原価で提供できる料理を考案してくれない?」
「中原の料理をアレンジしていただければ簡単でしょう?」
最早ベテランといっていい二人に、担当部長の景山響子はあっさりといいました。
朱麗月さんは趙紅花さんに、
「中原の料理といっても私たちは趙の女、それも『北岸』の料理、それでもいいのかしらね?」
「かまわないと思いますわ、『北岸』の料理はお肉と香辛料が基本、ひき肉の団子なんて、庶民から皇帝まで皆が食べています」
確かに『北岸』の人々はスパイスの効いた肉料理が好き。
ただ庶民と皇帝では、同じ肉団子といっても雲泥の差があります。
「肉団子は美味しいですわね……」
「でも物資補給部で扱うとなると豪華な肉団子はね、原価は安いことが条件だから……」
二人が相談している時、中原シティ高等女学校に通う三人の娘が週末なので帰ってきました。
この三人はいまでは格子ですが、朱麗月さんと趙紅花さんが名誉清女になったときに『見做(みな)しメイド』になったのです。
勿論、本人は夜伽などの『見做(みな)しメイド』の条件は了承しています。
つまり女官名簿の最下欄に、『女官扱い者』として名前が載っているのです。
韓芙麗、つまりプラネテスに所属する夫人、ガブリエルさんの尽力の賜物です。
娘が『見做(みな)しメイド』となる以上、二人の母親も名誉清女ではまずい、ということで、あっという間に采女待遇清女昇格の内示がありました。
年明けに昇格、いろいろと天仙娘娘(てんせんにゃんにゃん)様を誘惑、努力の甲斐があり去年目出度く格子となったのです。
だいぶガブリエルさんが入れ知恵したようですが……
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