完勝、話にならない。


 アイハンさんの言葉を引き取るように千秋が、

「私は崔千秋、八年前にお前に殺された崔という武進士の娘、父と兄の敵、覚悟しなさい!」


「八年前?知らんな、まぁいい、敵というなら敵なのだろう」

「お前ら二人でかかってこい、叩きのめして犯してから殺してやる!」

 この場合、心意六合槍と云うのでしょうね、持っていた槍を構えました。


「おや、接近戦でもするのかと思っていましたが、槍ですか?女相手に物々しいこと」

 アイハンが挑発するように言いますと、

「うるさい、部下のやられ方を見れば、お前たちこそ接近戦が得意なのであろう?」

 槍の間合いを男はきっちりと取っています。


「アイハン様、私にお任せを」

「そうでしたね、存分にご父兄の敵をとるように」


 千秋はナックル・スペツナズ・ナイフを両手に持ち、男の間合いに入りました。


 神速のような槍の動き、喉をめがけて槍の穂先が迫ってきます。

 斜め後ろに跳び穂先を回避する千秋。


 そこへめがけて槍の穂先が横殴りに移動、その一瞬の隙をついて右わき腹にナイフを突き立てたのですが……


「いい動きだが、お前の力程度でのナイフの刃ぐらいでは刺さらんよ、鍛えているのでな」

 ……教えた手裏剣術では威力不足ですか……分厚い筋肉ですこと、ゴリラみたい……


「なら、これならどうか!」

 左のナックルが下あごに炸裂、さすがの男も利いたのか、後方へ跳び間合いをかなり取ったのです。


「小娘、今のは効いたぞ」


 ……これで相手の間合いは確実に拡がる、槍の間合いを取る以上、心意六合拳の排打功はかなり防げる。

 四把捶は迅速な踏み込みがあるので要注意だけど、思ったより大したことないようね……


 達人って話でしたので馬学礼――心意拳伝承者、曹継武の高弟、ウィキメディアより……なみの達人と思っていたのに、がっかりね、教えたムエタイで十分……


 ヴィーナスさん、心意六合拳の達人ときいて興味津津(きょうみしんしん)だったようです。


 ……どうも私の知る心意六合拳ではないようですね、まぁここは惑星中原、別の惑星世界、同じ名前の流派でしたので興味があったのですが……


 ヴィーナスさんの失望をよそに戦いはヒートアップ。

 男は槍を構え直し呼吸を整えています。


「ハァ!」

 声とともに男が踏み込んで槍を突き出してきます。

 千秋が軽く後ろに飛び退くのを追いかけるように、槍の穂先が伸びてきます。


「えっ」


 身をよじり間一髪でかわしたつもりでしたが、腹部を穂先がかすったようです。


 ……ほう、繰り突き――銃剣道において、左手を滑らせることにより遠くの相手へ剣先を届かせる技――ですか……味なことを……


 直ぐに男は間合いを取り、そして二撃が来ます。

 今度は何とかかわした千秋、相手が飛び退くのと同時に踏み込む千秋、

 男はさらに飛び退いたのですが……


 シュと音を立てナックル・スペツナズ・ナイフの刃が打ち出されたのです。

 

 ナイフの刃は見事に男の右肩を貫いています。

 さらに次々とマシンガンのように、ナックル・スペツナズ・ナイフの刃が打ち出されます。


 男は全身をナイフに貫かれて絶命、あっさりと千秋の敵討ちは終わったのです。


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