趙は不倶戴天の敵


 柔然の村の惨状を見たウマイの怒りは、ゲレルトヤーが震え上がるほどのものでした。


「我が民を……趙の者どもめ!一人として生きては返さぬ!ヤリュート・チルク!我に従えるか!」

「体は動きます、お供させていただきたい!」


「ならば動ける者だけで良い、契丹の勇者よ、我に従え、いまよりこのウマイの怒り、趙兵の血でしか収まらぬ、無残な死を与えてやろうぞ!」

 女神はヤリュート・チルクと少数の契丹兵を引き連れ、敗走中の趙の大軍の前方に転移しました。


「ヤリュート・チルク!我は死を司るものでもある、奴らの死にざまを見せてやろう、止めは汝らに任せるが、しばし見物しておれ」


 そして寐龍(メイ・ロン)よりもっと恐ろしい、女神のしもべを呼び出したのです。

 

 命ある者を生きながら腐らしていく存在、そしてそれが作り出す地獄、契丹兵の眼前に地獄が現れたのです。

 趙兵は身体が腐り、見るも無惨な状態ですが、死ねないのです、ただただ苦痛と恐怖でうめいているのです。


「ヤリュート・チルク!止めを刺す事を許す、契丹の勇者たちよ、敵に死の安らぎを与えることを許そう」


 数万の趙兵にとどめをさすのに、夕刻までかかりました。


 この後、趙の国境の街、大同に腐りかけた死体の雨が降り注いだのです。


 柔然の廃墟となった村に、続々と遊牧四部族が集まってきました。

 夕刻には、柔然の兵士が駆け付けてきました。

 深夜には契丹の残りの部族が、翌朝には突厥の全部族、昼前には西に向かっていた、高車が駆け付けてきました。


 新しい指導者ビルゲカカンが、趙は不倶戴天の敵と認定、四部族はいきり立っています。


 ……いけない……相手は強大な趙帝国……怒りに任せて攻め込んでは、良いようにならないのでは……

 ゲレルトヤーは一抹の不安を覚えました。


 族長たちが、ウマイ女神の元で今後の方針を決めています。

 暫くすると、参集した遊牧民全てに、女神の言葉が響きました。


「趙への報復はいたします、準備が整うまで待つように皆の族長に命じました」

「私は皆の犠牲は少なく、敵の犠牲は多くしたいのです」

「遊牧の戦士たちよ、勝つために、今少し時間をかけようではありませんか、このウマイのお願いでもあります」


 このウマイの言葉で、遊牧四部族は、趙侵攻のために臥薪嘗胆を誓ったのです。


 この後、ゲレルトヤーが驚くことが起ります。

 エルゲネコンが移動してきたのです。


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