第四章 ゲレルトヤーの物語 契丹巫女

契丹の舞姫


 契丹の舞姫ゲレルトヤーは、族長ヤリュート・チルクの一族に連なる清楚な感じのする少女。

 十五歳のときウマイ女神に仕える巫女に選ばれた。


 祭典クリルタイで契丹舞踊団が優勝、首席巫女となったゲレルトヤーは、ヤリュート・チルク自ら率いていた阿大何部の約二千名とともに、契丹の故郷遼河源流に向かっていた。


 途中柔然の集落が五万の趙軍に襲われているのに遭遇したヤリュート・チルク、二千名の部下とともに救援に……ゲレルトヤーも巻き込まれた……


     * * * * *


 遊牧の民の指導者を、ウマイ女神様の御前で選出する祭典クリルタイ……


 遊牧の民の四部族、柔然、突厥、高車、契丹から、おのおの代表戦士を選び、ルール無用のデスマッチの結果、勝者の部族の長が次の五年の間、大可汗となる……


 女神の都、エルゲネコン周辺の草原で挙行されます。


 エルゲネコンの門が開かれると、四部族からこの日のために集った万余の群衆のざわめきが静かになります。


 いま巨大な白い雌狼に跨がり、四部族から選び抜かれた宣誓戦女団(せんせいいくさめだん)の、四人の隊長に守られながらウマイ女神様が出てきました。


 先導は女官長アイハン、そして迎えるように四人の少女がしずしずと近づいていきます。 


 四人の少女の一人、契丹の舞姫ゲレルトヤーは、女神の神々しいばかりの美しさと威厳にひれ伏しそうになりました。


 族長一族に連なるゲレルトヤーは清楚な感じのする十五歳。

 選ばれて女神の巫女となり、初めて女神を見たのです。


 巫女は各部族から一人選ばれ、女神から部族へ下賜された『魔境』を預かります。

 祭典クリルタイから、次のクリルタイまでの五年の間、二十歳まで女神に奉仕する。


 十四歳で巫女見習いとなり、一年の間、前任の巫女から教えを受け、祭典クリルタイ開催の時、正式に『魔境』を引き継ぎ、巫女に就任するのです。

 

 ゲレルトヤーは初代の契丹巫女、そのため引き継ぎはなし。

 十四歳で巫女見習いになった時点で『魔境』を預けられ、実質的に巫女としてあがめられています。


 そんなゲレルトヤーではありますが、主であるウマイ女神には初めて会ったのです。


 前日、籤で決まった突厥の少女セーハン(美しい)が、

「我が主ウマイ様、貴女さまの為にお席をご用意しております、どうぞ我らの歓迎をお受けください」


 このように述べると、

「汝らの歓迎に感謝する」

 と、ウマイは答えました。


 四部族の代表戦士と族長がウマイの前に跪いています。


「このウマイが臨席する以上、違背は許さぬ!そのような者は不名誉な死が待つと覚悟すべし!」


 抜けるような快晴の空に、突如雷鳴が轟き、一筋の青白い稲妻がゆっくりと下りてくると、大轟音とともに競技場に突き刺さったのです。


「いまよりクリルタイを始める!」


 こうして祭典クリルタイが始まりました。


 契丹巫女であるゲレルトヤーも当然、契丹の代表を応援していましたが、終わってみれば三敗で最下位。

 族長ヤリュート・チルクは苦虫を噛み潰したような顔……


「だらしない男は置いといて、契丹の女は美しく、ウマイ様のお側に侍る女にふさわしい!」

 誰かと思えば、契丹戦女隊長クトゥルグさんの言葉。


 そしてさらに、

「首席巫女は契丹の女がふさわしい!ゲレルトヤーさん、契丹一の舞姫の実力を発揮してくれ!」


 そう、この日はウマイ女神様のために、各部族えりすぐりの美女たちが舞踊を披露することになっているのです。

 クトゥルグの檄の奮起したのか、契丹の舞踊は宣誓戦女団の投票の結果、優勝となり目出度くゲレルトヤーは首席巫女となったようですね。

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