亡国の夢 其の二
陳麗華が
「そのことだけど……思うことがあるのだけど……」
「なあに?」
二人がハモります。
「女仙の韓芙麗様がおっしゃっていたことだけど、疱瘡神(ほうそがみ)は別名『死神』と呼ばれ、娘娘(にゃんにゃん)様のほか、愛人の小雪様とビクトリア様も呼び出せるそうなの」
「つまり疱瘡神(ほうそがみ)は本当に存在する、胡蝶の夢って知っている?」
「たしか夢の中で胡蝶となって飛んでいたが、目が覚めいまは蝶になった夢をみていたのか、蝶が見ている夢なのか、という話でしょう?」
申容姫が答えた。
「でも亡国の夢が、胡蝶の夢ではない証があったのよ……」
「白雲観に湧き出ている井戸の水の効能は、疱瘡以外にも効くのよね……」
「でもあれは陽城に疱瘡が蔓延したとき、娘娘(にゃんにゃん)様が人々を憐れんで、薬効をつけたといわれています」
「でもおかしくはありませんか?陽城で疱瘡がはやったことは一度もない」
「先ほど申容姫様の云われた通り、なぜそのようにいわれているのかは誰も知らない、あの白雲観の井戸水、薬効は突然よね……」
陳麗華の言葉に二人は言葉がありません。
「では少なくとも、朱麗月さんの夢は本当に……」
「あっ!」
と、申容姫が叫びました。
「高文帝が講和を決意して、大同盟約が成立したのよね」
「趙帝国は存続、前帝の供養のために後宮の私たちは天仙娘娘(てんせんにゃんにゃん)様に献げられた……」
「その通りですが、それがどうしたのですか?」
陳麗華が聞き返しました。
「なぜ趙の女は二つに分けられているの、おかしいと思わない?」
「なぜ西岳崋山白雲宮はあるの、そもそも、なぜ西岳崋山白雲宮に妙玉と李二娘が所属しているの?」
「妙玉はなぜ献上されているの?」
「妙玉は疱瘡(ほうそ)にかかって、王母娘娘(わんむーにゃんにゃん)様に治していただいたので女婢になった、といっていたけど、前帝の御代、前々帝の御代においても、陽城で疱瘡がはやったことは一度もない、わずらった者も一人もいない」
「おかしいと思わない、妙玉も李二娘も趙帝国の女、なら東岳泰山碧霞宮に所属すべき女で有るべき、そうでしょう?」
「陳麗華が胡蝶の夢といったので思ったのよ、今がおかしいのではと、何かが隠されている、それは亡国の夢」
「では私たちが見た夢は……」
「本当の事?」
三人の顔は真っ青です。
そして言葉を失ったのです。
……いけませんね……
どこかで誰かが、そんな呟きを漏らしていました。
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