亡国の夢 其の一


 三人のお喋りはまだ続きます。

 夢の話から始まり、中原三宮の女たちの噂話などです。


 中原三宮の各ハレムは、争いこそありませんが、ライバル関係にあります。

 ハレムの序列が、はっきりと決まっているわけではありません。


 エルゲネコン蒼天宮、西岳崋山白雲宮、東岳泰山碧霞宮の関係はかなり微妙で、それぞれに自らが奉仕する女神が、三柱の女神の主たる女神の神格であるべきと、信じています。


 その為に女官の質、寵妃の数がものをいうという、『百合の会議』の鉄則を実践しているのです。


 特に東岳泰山碧霞宮の女たちは、中原三宮の中でも良くも悪くも、『女』の特徴が顕著なハレム。

 お色気過多、それを自らの誇りとするところが見受けられます。


 しかも元々は趙帝国の後宮がルーツ、寵を得るための技術などはお手の物、ハウスキーパー事務局あたりでは、その方面の評価は高いのです。


「そういえば娘娘(にゃんにゃん)様は、姉妹とか母娘とかの夜伽は喜ばれるわね……妙玉が東岳泰山碧霞宮に所属していたら、義理といえ私の娘、二人で夜伽をすれば、この東岳泰山碧霞宮の地位もさらに上がるのに……」


 ふっと、申容姫が愚痴っぽくいいますと、

「妙玉さんは李二娘と二人で夜伽、娘娘(にゃんにゃん)様のご命令で女同性恋者、紫の石の女ですからね」

「二人での絡みをご鑑賞、その後は大変と聞きました」

 夏香玉が聞きつけた話を、披露しています。


「いいわね、第十二代開国公のご一家とか、葛丹秋さんのご一家とか、娘娘(にゃんにゃん)様さまのお好きな、姉妹とか母娘とか、夜伽には困らないみたい」

 陳麗華が羨ましげに言葉にだしました。


 たしかに葛丹秋の二人の娘は、服の裾をまくって娘娘(にゃんにゃん)を誘惑して、目出度くお手つきとなっています。

 いまでは三人母娘姉妹で、仲よく夜に侍っているのです。


「開国公のご一家?趙紅花さんと朱麗月さんよね、三人の娘たちは中原シティ高等女学校ですし、もう間違いなしにお手つき、未来は明るいわ」

 夏香玉が同意します。


「そういえば朱麗月さんで思い出だしたわ、ニライカナイカフェで、朱麗月さんとばったり会って、お茶していたときに聞いた話だけど、いつも同じ夢を見るそうよ」


「それも不気味な夢でね、なんでも娘娘(にゃんにゃん)様、この時は王母娘娘(わんむーにゃんにゃん)様なのだけど、陽城で趙帝国の行く末に対して、韓芙麗さまと李二娘に命じて、官吏の家々に警告に歩かせたというのよ」


「でも誰も聞く耳を持たなく、疱瘡神(ほうそがみ)を呼び出し、陽城に疱瘡を蔓延させたという、官吏の家はほぼ全滅、開国公のご一家は、韓芙麗さまのいうことを聞き、白雲観に逃げ込んで事なきを得た」


「その後、妙玉が決死の覚悟で、王母娘娘(わんむーにゃんにゃん)様に直訴し、疱瘡を治す水を白雲観に沸きださせた、という夢らしいけど、事実はそんな事はないわね」


「でも妙に生々しくて、疱瘡神(ほうそがみ)は震えるほど怖くて、という夢らしいわ、でもそんな事実はどこにも無いのよね」

 申容姫が、思い出したようにいいました。

 さらに言葉を続けます。


「私も似たような夢を、十日ほど前に見たのよ、陳麗華のように毎晩ではないのだけど……」


 その夢とは、皇帝が死に、跡目を巡って陳麗華と夏香玉とで争った。

 そして娘娘(にゃんにゃん)様の、趙帝国は軍馬に蹂躙されるとの啓示をうけ、崋山の山中の娘娘廟まで逃げた。

 そして娘娘(にゃんにゃん)様に娘娘廟で抱かれたというのもです。 

 

「私の夢と一緒で亡国の夢じゃないの?」

 陳麗華が言うと、夏香玉も

「それなら私の夢も、亡国の夢になるわよね」


「亡国の夢ばかり……」

 三人はなにか背筋が寒くなったのです。


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