お乳は大事


「お二人とも育児は始めてなのですから、分からないことは何でも聞いてくださいね」

 西岳崋山白雲宮で、子育ての経験者は葛丹秋一人なのです。


 李二娘が、

「これから気をつけることはありますか?」

「一日中幼子は泣きます、夜中も遠慮なしです」


「私は一人で子育てしましたが、黛玉様にはお二人がおられます」

「夜泣きでも、どちらかが交代であやせばいい話」

「それに女の子は病気もあまりせず、楽といわれていますから」


 さらに、

「黛玉様はお元気にお育ちになると思いますよ、なんせミルクの飲みがいいですからね、下の娘の白秋みたいです」


 妙玉が、

「白秋さんは良く飲んだのですか?」

「白秋はお乳が好きで、あんまり飲むので私のお乳が足りなくなって、で、乳首に塩をまぶしたことがあったのですよ」


「すると小さい手でそれを払うのですよ」

「で強引に吸い付いてきて、あれは痛かったですね」


「いまならミルクもありますから、お乳が足りなくて困ることはないですけどね」

「でも寂しいですね、やはりわが子には自分の乳房を含ませ、お乳を飲ませなければね」


「授乳している時、娘が愛おしくて、上の娘の千秋に初めて乳房を含ませ飲ませたときなど、ぞくぞくしたことを覚えています、妙玉様はどうでしたか?」


「母親になったと実感しました、娘が愛おしくて何より大事で……でもお乳が余りでなくて寂しい……」

「母乳マッサージをすることをお勧めします」

「本当は出産前から始めるほうがいいでしょうが、今からでも始めたほうがいいでしょう」


「それに幼子はかなり強く乳首を吸いますが、乳首の伸びが悪いと、母乳を上手く吸えないことがあります、母乳マッサージはそのあたりにも効果があります」


 葛丹秋はそのあたりを、丁寧に二人に教えてくれました。


「妙玉様、マッサージをいたします」

 で李二娘が妙玉に母乳マッサージをしています。

 究極のお嬢様でもある妙玉さん、このあたりは素直に李二娘に身を任せています。

 まぁ二人とも公認の女同性恋者、恥ずかしいこともないようです。


「ねぇ二娘、このごろマッサージの後はお乳の出がよいのよ、黛玉もよく飲んでくれるわ」


 授乳以外にも二人は子育てに悪戦苦闘。

 それでも一月後には妙玉さんは産後の床上げとなりました。


 娘の黛玉に乳房を含ませ母乳を飲ませている妙玉さん、そのまなざしは慈愛に満ちています。

 李二娘はそんな妙玉を見て、黛玉に嫉妬している自分を感じます。


「ねぇ二娘、黛玉は貴女と私、どちらに似るのでしょうね?」

「きっと妙玉様ですよ」

「私は二娘に似ていると思うわ、だって胸を吸うのが二娘にそっくりなのですもの」

「……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る