パニック!


「妙玉様、お生まれになりました!お元気な声です!」

 二娘が声をかけると、

「二娘、貴女の娘でもあるのよ、二人の娘なのよ」

 嬉しそうに答えた妙玉でした。


 生まれた娘は黛玉と名付けられました。

 娘を抱いて妙玉は、恍惚とした表情で娘を眺めています。


 李二娘はそんな妙玉を眺めながら、これからの育児のことなど考えていたのですが、はたと大事なことに思い至ったのです。


 出産前から母乳の出が悪いような……

 

 李二娘は、これでも趙帝国の長公主付きの侍女として幼い頃より育てられ、女が直面するイベントに対して、一応の対処の知識は教え込まれていますが、実践経験が足りないというか……


 出産後、初めての授乳の時がやってきました。

「妙玉様、黛玉様の口に乳首を含ませてください」

 

 素直な妙玉は云われたとおり、黛玉を抱き、授乳を……

 

「あっっっ黛玉、私たちの娘……」

 妙玉さん、幸せそうに顔で娘を見つめています。


 ……良かった……母乳は出るようね……

  

「痛い!黛玉!そんなにきつく吸わないで!」

 突然、妙玉が痛がり始めました。


 どうやら黛玉の吸う力は、かなり力強いようです、が……


 突然に泣き始める黛玉。


「えっ、黛玉、どうしたの?どうして泣くの?」

 

「妙玉様、黛玉様はお腹が減ったようです、だからもっと欲しいと、泣いているのです」


「えっ!そういえば……二娘!どうすればいいの!私のお乳、これ以上はでないわ!」

「ミルク、ミルク、たしか王母娘娘(わんむーにゃんにゃん)様からいただいた、乳児用の粉ミルクです」

 

 李二娘、慌てて粉ミルクを捜し、哺乳瓶に何とか入れてきました。


 黛玉に哺乳瓶を使ってミルクを飲ますと、さらに酷く泣き始めたのです。


「えっ、どうして!」

 パニックになった二人、おろおろしているところへ経験者が、

 葛丹秋がやってきました。


「どうされたのですか?黛玉様の泣き声が聞こえましたが?」


「丹秋さん!黛玉が泣き止まないのです!お腹が減ったようなのでミルクをあげたら、さらに酷く泣かれて!どこか体に異変でもあるのでしょうか!」


 葛丹秋が黛玉を抱き上げ、

「幼子は泣くのがお仕事、良くあることですよ、どれどれ、あぁ、これはミルクが少し熱いのですよ」


 そういって哺乳瓶を少し冷やしたのです。

 もちろん中のミルクも、別の容器で冷まして入れ直したようです。


「さあ、黛玉様、泣きなおしてくださいね、美味しいミルクですよ」

 そういって黛玉に、哺乳瓶からミルクを飲ます葛丹秋。

 凄い勢いでミルクを飲み、満足したのか寝始めた黛玉でした。


「ありがとう、丹秋さん」

 妙玉がほっとしたような顔で礼をいいました。


「いえいえ、これも場数ですよ、私は二人も産みましたから、慣れています」

 葛丹秋には二人の娘がおり、母娘三人で西岳崋山白雲宮の女婢となっているのです。

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