白い牝鹿の戦闘糧食


 トシャゴウ渓谷をぬけ、ウルグ河のほとりを体の悪いハディのために、のんびりと『ケッテンクラート改』は走ります。

 

「メディお姉さん、私、渓谷の外なんて滅多に出たことないの!」

 ハディはものめずらしげにウルグ河を眺めています。


「はしゃいで落ちないようにね」

「分かっているわ」


 ハディが転げ落ちないように走った結果、グルギュト砂漠の手前で夜になり、野営することになりました。


 『小さなカバン』より『大きなカバン』をだし、さらに収納バックを取り出し、その中より大きめのワンタッチテントを取り出し設営完了。


 驚いている姉妹に向かって、

「砂まみれだな、あと一日だから風呂は面倒くさい、体でも拭くか?」


「ウマイ女神さまは入浴がお好きで、エルゲネコン蒼天宮には立派な浴場が完備されている」

「契丹戦女隊長のクトゥルグなどは毎日風呂に入っているが、私は三日に一回で十分でな、それでも身体は毎日拭いている」


 ウーラポーセンさん、女官にはあるまじき言葉など発していますが、どこか弁解めいた響きがあります。

 濡れタオルで体を拭いて、続いて夕食です。

 

「簡単な戦闘糧食だが我慢してくれ、私には料理など無理なものでな」 

 といって、肌身離さず持っている『小さいカバン』から、白い牝鹿婦人戦闘団の戦闘糧食を幾つか取り出しまし。


 ボールツォグと呼ばれる揚げパン、携帯用なので細長くなっています。


 あとはアーロールと呼ばれるヨーグルトの固まりと、エーズギーと呼ばれる乾燥チーズの塊。

 この二つは小さくサイコロ状になっていますがかなり固そうです。


 この三つを紙皿に盛り、二人にカラトリーを渡しています。


 さらにクッカーとウッドガスキャンプストーブを取り出し湯を沸かして、ボルツと呼ばれるビーフの粉末を投げ入れ、何とかスープを作ったウーラポーセンさん。

 二人にコップを渡しスープをついでいます。


「取りあえず食べていろ」

 普段は滅多にしないのですが、塩茹でしたビーフの缶詰を取り出し、湯煎を始めました。


「まぁ、私にはこれが精一杯だ」

 なんとかメインディシュを作ったようです。


「ウーラポーセンさん……ありがとう……ございます……」

 メディがポッと云いました。


「ハディ、二人でウマイ女神さまにお仕えしましょうね」

「はい♪」


「私は何としてもウマイ女神さまにお仕えして、ウーラポーセンさんの振る舞ってくれた、美味しい料理にお返しするの!」


「そうか」

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