ウマイの女になれれば


「借金を払えれば良いのだけれど……」

「そうね……」


「でも上の娘さんが働いたとしても無理でしょう、それに『働く』というのはね……」

「もう家には戻れないかも知れないわよ……人の妻は絶対に無理……」

「……」


「……同じ事なら……一つ方法があるが……」

「あるの?」


「女官も宣誓戦女も購入を前提としている」

「上の娘さんでも、宣誓戦女なら可能性はある」

「代価はまだ少し足りないが、下の娘さんが女官になれれば借金を払えられるだろう」

「しかし下の娘は……」


「足が不自由というのは知っているが、別にそれがさわりにはならない」

「あの子は綺麗なのは確かだ、それに女官になれれば身体は治る」


「治るの!」

「なれればだが、まぁ大丈夫だろう、で、どうする、上の娘さんは宣誓戦女、ほとんど会えなくなるぞ」

「それは娘次第」


 結局上の娘メディは望みました。

 メディが面倒を見る事を条件に、妹ハディも女官選抜に応募することになったのです。


 メディは二十歳、ハディは十五歳。

 ハディは足が悪く歩くのも杖が必要です。

 その上に少しやせており、豊満な女を好む高車の男たちからは、相手にされませんが相当な美人です。


 ……ああは言ったが、ハディは女官になれるのだろうか……

 美しいが……落ちればイルの家はおしまい……


 その時は私の貯えを吐き出して……

 ハディの面倒は私が見ればいいことか……そうだ、そうしよう……


 ウーラポーセンは心の奥底でこのように考え、最低でもなんとか出来ると思うと、少しばかり気が楽になったのです。


 ……ふっふっふっ……私は小心者のようだ……


「ウーラポーセンさん、どうされました?」

 メディが不思議そうに聞いてきました。


「いや、すこし思い出したことがあって……それより二人とも準備はできたのか?」

「はい、父と母にはお別れを言ってきました」


「まだ採用されるとは決まってないぞ、それに採用されたとしても会えないわけではない」

「私のようにたまには里帰りも出来る、両親がエルゲネコン蒼天宮にやってきて、面会を申し出れば許可は貰える」


「不採用なら……」

「メディは大丈夫だ、ハディは不採用なら私が面倒を見る」

「家の借金の残りなら私が払ってやる」

「イルは従表姉妹(はとこ)でもある、私の唯一の親族、お前たちその娘、不首尾でも私が何とかしてやる、だから安心しなさい」

 

「……ウーラポーセンさん……」


「なにを泣いている、行くぞ」


 『ケッテンクラート改』は三人乗り、メディとハディは後席に座ります。


「メディ、ハディが落ちないようにしっかりと抱えてくれ、荷物はそれだけなのか?」

 

 『ケッテンクラート改』はサイドに簡易式の日よけシェードをつけられるのですが、これを利用して少しばかり荷物が置ける折り畳み式ポケットがあります。

 二人の荷物はそこに収まるほどの少なさなのです。


 三人を乗せて『ケッテンクラート改』は故郷トシャゴウ村を後にしました。

 メディとハディは初めての旅のようです。


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