従表姉妹(はとこ)の娘たち
ウーラポーセンの母方の従表姉妹(はとこ)であるイルは、ある悩みを抱えていました。
彼女の夫は、村の郊外に小さな羊の牧場を持っており、イルは一家で懸命に働き、それで生計を立てています。
その牧場は、村の数ある牧場の中でも一番端、草もかなり小さく、それゆえに羊もやせているのです。
そのささやかな牧場がイルと夫、そして三人の子供の生活の糧なのです。
近頃、その生活の糧である牧場を、取られそうになっています。
借金がその原因、実はイルの末の娘が、幼い頃に病気にかかり、その治療費にかなり借金をしたのです。
そしてその借金の抵当が、イルの夫が所有している牧場だったのです。
それだけの大金を投じても、末の娘は右足が動かなくなったのです。
返そうと考えるのですが、貧しいイルたちとしては利息が精一杯、それも時々滞るときがあり、徐々に借金が膨れ上がり、牧場を手放すかどうか、夫婦で思案しているのです。
そんなところに、ウーラポーセンが訪ねてきたのです。
「久しぶり、元気にしていた?」
「あらウーラポーセン、本当に久しぶりね、相変わらず綺麗ね」
「皆元気?ご主人は相変わらず牧場?」
「上の娘と息子も一緒に牧場よ、突然どうしたの?」
「墓参りにね、で、迷惑でなければ、泊めていただけないかと思って」
「かまわないけど、あまり美味しいものは出せないわよ、知っての通り、家の牧場は小さくて、羊も小さいからね、お肉がやせているのよ」
イルはある意味、能天気な女、ウーラポーセンとの四方山話に、今のイルの悩みなんて話したりしています。
「そう、借金がね……」
「いまなら牧場を手放し、家中のお金をかき集めれば、借金を返せそうなの、だから牧場は手放す方向で進めようと、昨日だんなと決めたのよ」
「ウーラポーセンも、最後の羊料理を食べてね」
「でも、牧場を手放したら、どうして食べていくの?」
「そこよ、仕事を探しているけど無いのよ、夫と息子は牧場で働く事になったけど、給金が安いのよ、で長女が働くと云ってくれたのだけど……」
言葉を急に濁したイル、ウーラポーセンにもイルの気持ちは十分に理解出来るのです。
「ウマイ女神様にお仕えすることを考えけど、長女ではね……親から見ても働き者ではあるければ、少し可愛いぐらいではね……」
イルの上の娘は、母に似て明るく働き者、まあちょっとばかり可愛い娘、女官の選抜試験に受かるのは、相当に難しいと思われます。
「そうね……人の妻になれても、食い扶持が一人減るだけだし……」
ウーラポーセンがつぶやくと、
「家の娘を貰う家なんか、無いわよ……」
確かに、貧しいイルの家と親戚になりたい家など、有るはずないのです。
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