故郷トシャゴウ村


 ……さて、村長に挨拶しておかねば……


 『ケッテンクラート改』で村長の家に向かうと、珍しいのでしょうね、多くの子供が集まってきます。

 つられて大人たちも寄ってきます、顔見知りが結構いました。


「ウーラポーセン!帰ってきたの!家によってよ!」

 など、懐かしい声ばかり……

 テングリ東族、いまでは柔然と呼ばれている一族の争いに敗れ、村は略奪され、ウーラポーセンもさらわれ、柔然の王の女となっていたことなど、誰も触れません。

 それが何となく、ありがたく感じたウーラポーセンでした。


「後で寄るわ、先に村長に挨拶しなくてはならないの」


 故郷に戻り、少女時代の友人たちの暖かい出迎えに、ウーラポーセンも少女に戻ったようで、屈託のない笑顔が浮かんでいました。


 村長は家にいました。

 村が略奪され、その復興の心労か、かなり老けて見えました。

「ウーラポーセン……すまなかった……守ってやれなくて……」


「もう過ぎたこと、それに村長は、村のために尽力されたと聞き及んでいます」

「実際、トシャゴウ村は昔のようです、子供たちの屈託のない笑顔がその証拠です」


「そうか……それで今回の目的は?」

「父母の墓に参ろうかと考えまして、村長からの手紙で、墓を立ててもらっているのは知っておりました」

「一度も墓参できなくて、親不幸を誤りに来ました」


「それは仕方の無いこと、今ではウマイ女神様にお仕えするお前のこと、エルゲネコンから出られないのは承知しておる」

「そうか、墓参りに来てくれたのか……」


 この村長は、ウーラポーセンの父の幼馴染、柔然の小部隊に村が襲われたとき、村長と父は男たちを引き連れ、ウルグ河のほとりで戦っていたのです。


 しかし父が戦死、村長も重傷を負い、その隙に柔然の別働隊に村が略奪を受け、ウーラポーセンがさらわれたのです。


 その後、高車と柔然は決戦を行い、高車が敗北することになり、高車一族の男はほぼ全滅、ウーラポーセンはそのまま柔然の王の女となり、慰み者のままとなったのです。


 壊滅状態のトシャゴウ村は、それゆえに見捨てられた状態となり、何とか生き残ったのである。


 その後、トシャゴウ村の生き残った男たちは、ウマイ女神の力で復活した高車の一族として、趙帝国への侵攻作戦に従事し、多大な褒美と戦利品を村に持ち帰り、復興の足ががりとした。

 いまの村の繁栄はその上にある。


 村長の弟も息子も、柔然との戦いで戦死、後を継ぐものは妹の息子である。


「泊まる場所はあるのか?無ければここに泊まれ」

「いえ、母方の従表姉妹(はとこ)である、イルの家に厄介になろうかと考えています」


「父の血筋は絶えています、私もウマイ女神様にお仕えする以上は子は産めません、後をイルに頼もうと考えています」


「イルか……泊まるのは良いが、母方の従表姉妹(はとこ)では墓の事は頼めまい」

「お前の父の墓は、わしの家を継ぐものに守らせる、奴とは幼い頃からの親しい仲、お前はわしの娘でもある、まかせよ」


 たしかに村長の言うとおり、母方の従表姉妹(はとこ)であるイルに頼むのは問題があります。

 ウーラポーセンは村長の申し出に、甘えることにしたのです。


 ウーラポーセンは村長の案内で、父母の墓に参ることができました。

 

 ただじっと墓の前でたたずんでいたウーラポーセンに、村長は何も言いませんでした。


「ありがとうございました、父も村長に守っていただければ安心でしょう」

 振り返り、村長に謝辞の言葉を述べたウーラポーセン。

「まかせよ」

 村長は短く答えました。


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