宣誓戦女隊長の帰郷
たまっていた休みもこの際消化するように事務方からいわれ、二十日も休暇をいただけたようです。
ただこうも言われました。
……宣誓戦女にふさわしい女がいれば声を掛けていただきたい。
ご存じの通り宣誓戦女団(せんせいいくさめだん)は人員不足ですから……
常に『中原三宮』は女官を募集中……
といっても押しかける希望者の中から、厳しい条件で選抜採用していますが、宣誓戦女団(せんせいいくさめだん)への応募はほとんど無いのです。
理由は簡単、宣誓戦女になると厳しいトレーニングの結果、マッチョな女になってしまい、ウマイ女神に仕えるにふさわしくない。
女としての値打ちが下がると、いわれているのです。
『夏至祭』が終わり、ウーラポーセンは帰省のためにエルゲネコン蒼天宮を後にしたのです。
ウーラポーセンの故郷の村は、西のグルギュト砂漠を流れる唯一の河、ウルグ河のほとりにあります。
馬で向かおうとしたウーラポーセンでしたが、事務方の指示により改良型の『ケッテンクラート』が貸し出しされました。
この改良型『ケッテンクラート』とは、移動都市エルゲネコンの伝令用の足として先頃試作されたもので、オリジナルを徹底的に改良した物です。
とにかくどんなときにも壊れないタフな車両で、『シュプリンガー』にも搭載している太陽光発電衛星から受電するメインモーターで動きます。
小さいバッテリーも搭載しており、いつでも満充電されているようです。
最高速度は七十キロはでます、ぬかるみでも五十キロは確実、それに見合う足回りもあります。
貸し出しされ『ケッテンクラート改』が、ウーラポーセンの元に届くとトレーラーを牽いていますが……
どうも見たことのないもので新型の兵器のようです……
XM214、通称マイクロガンを改良した、電動式ガトリングガンを箱型の単装砲塔に納めたもので、全自動制御で夜間でも目標を追尾、撃破する優れものです。
『ケッテンクラート改』が牽引できる、標準型トレーラーの乗っています。
弾薬は五.五六x四五ミリNATO弾、比較的小さなもので、今のところXM214の専用弾薬です。
ただし、この『ケッテンクラート改』も『シュプリンガー』同様、惑星中原上空の小型監視衛星の人工知能とつながっています。
しかもこの人工知能、専用の異空間倉庫が管理できるようになっており、いざとなれば食料弾薬なども転送してくれるようになったのです。
どうもこの『ケッテンクラート改』で、移動都市エルゲネコンの守りを高めたいようですね。
『シュプリンガー』だけでは心許ないというのでしょうね。
「では行ってくる」
見送ってくれるクトゥルグに声を掛けると、
「道中の野営はどうするのか?」
と、聞かれたウーラポーセン。
「途中のキャラバン・サライ――隊商宿――があるから大丈夫さ」
「基本的には女は泊まれないが、ウマイ女神に仕える女は例外だからな」
「拒否なんてすればあっさりと潰される、断る宿などない」
事実、先頃断った宿は潰れたのです。
一切の便宜が停止された結果です。
しかも『ウマイ女神に不敬をはたらいた宿』となり、女神の不興を恐れて誰も泊まらないのです。
「快適な旅を祈る」
「ありがとう」
こんな会話を交わして、ウーラポーセンはのんびりと帰省の旅に出たのでした。
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