幻の女たちⅡ 天上六釵 【ノーマル版】

ミスター愛妻

幻の女たちⅡ 天上六釵 【ノーマル版】

第一章 ウーラポーセンの物語 夏休暇

夏休暇


 エルゲネコン蒼天宮、中原三宮の第一のハレム、移動都市として知られている。

 南の趙帝国との長年の死闘も終わり、エルゲネコン蒼天宮も落ち着いていた。


 ウーラポーセンは宣誓戦女団(せんせいいくさめだん)の高車戦女隊の隊長として、忙しい毎日を過ごしている。

 そんな中、休暇を貰ったので久しぶりに帰郷することにした……


     * * * * *


 ウーラポーセンは元テングリ南族、いまでは高車と呼ばれる一族の出身で、柔然と名を変えたテングリ東族との争いに敗れ、略奪されてそのテングリ東族の王の女となっていました。


 ウマイ女神により解放され、そのまま女神に仕えることになりました。

 宣誓戦女団(せんせいいくさめだん)の、高車戦女隊長に抜擢され、釆女待遇清女から先ごろ格子になったのです。


 エキゾチックな顔立ちで、大きな胸、スラッとした手足、どこか妖艶な雰囲気を纏うウーラポーセンは、馬術の巧みさでエルゲネコン蒼天宮では有名な女。


 趙への大同侵攻戦で、女神より下賜された四四式騎銃を手に、馬上で白兵戦を演じた武勇は語り草になっています。

 

 二回目の祭典クリルタイが終わり、再びビルゲがカカンの位に就き、ウーラポーセンは三十手前になりましたが、容姿は歳をとらないのです。

 ウマイ女神に奉仕する女である以上、中原の人々からは天上人と認識されています。


 夏の初め、移動都市でもあるエルゲネコンの周りの、見渡す限りの草原に夏の日差しがまぶしく輝いている午後……


 親友でもあり戦友でもある契丹戦女隊長のクトゥルグが、

「ウーラポーセン、夏休暇はどうするのか?」

 と聞いてきました。


 夏休暇とは、大体は夏至の前後にとられる休暇のことです。


 エルゲネコン蒼天宮の休みは、ニライカナイと連動しており七曜制、この上に個人が幾日かとれる枠があり、いわゆる有給休暇、この休みの枠は消えることはありません。


 二十日の枠がありますが、誰も繰り越す考えなどないようで、二十日のうちの十日を休みとくっつけることが慣例となっています。


 残りの十日が予備、なんせ病欠などはハレムの女にはありえないわけで、個人的な所要など十日あれば十分という理由のようです。


 大体は夏至の前後と年末年始となっており、それぞれに夏休暇、冬休暇とよばれているのです。

 特に夏休暇は、『夏至祭』と呼ばれる大イベントになっています。

 この間、エルゲネコン蒼天宮は開店休業状態となります。


 このときだけは、特別に女官にもエルゲネコン蒼天宮の周辺への外出が自由となり、蒼天宮の周りの草原にテントが立ち並ぶことになるのです。

 女官の家族のテントのほかにも市も立ち、女官たち目当ての店もならび、草原に多くの人が集まってくるのです。


 基本的に女官さんは、エルゲネコン蒼天宮の敷地外には出れないのですが、祭典クリルタイのような祝典の時には、エルゲネコン蒼天宮の範囲が広がるということで処理しているのです。


 まぁ許可をとればこの限りではないのですが面倒なのです。

 ただ警備の関係上宣誓戦女団員は、この期間お仕事となり別の日に休みをとることになっています。


「そうだな……一度故郷に帰ろうかと思っている、墓参りの申請をだすつもりだ」

 女官と違い、宣誓戦女は宣誓ゆえに、故郷とも呼べるこの世界を基本的には往来することはできないのです。


 彼女らの故郷はネットワークなのです。

 ただ冠婚葬祭と墓参は、許可をとればこの限りではありません。


「墓参か、そういえば身内は誰もいないといっていたな」

「母方の従表姉妹(はとこ)が一人いるだけだ」


 宣誓戦女団(せんせいいくさめだん)高車戦女隊隊長、警備上の問題はない、とのことで許可は簡単に下りました。


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