あの日の初恋

鳴子

第1話

「「入学式のあの日、あの場所、あの時間、」」

「俺は」「私は」

「「あなたに初恋をした…」」


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「おはよう、春人はると!」

「ああ、おはよう!」

教室に入る前に俺、丸山春人は友人のさとるに話しかけられた。

「今日から、3学期だぜー、冬休み十分楽しんだかー」

「ああ、もちろん、でも、俺たちは高3だぞー。ちゃんと勉強してるのか?」

「はは、まぁやってるよー…」

悟が自信なさげに言うのでやってないなと思いながら、教室に入った。教室に入ると同時に

「おはよー!春人、ついでに悟も」

と言う声が聞こえた。いつも一緒に話している女子のななみの声だ。

「おはよー! ……って俺はついでかよ!」

「ふっ、おはよう!」

俺はそんな会話に苦笑しながらも挨拶を返した。

そしてそんな日の休み時間。

「それにしても、春人はモテるよなー」

「そうかー?まあ、学校に入ってからは何回かは告白されてるが」

「10回以上告白されてるくせに。ところでお前は、好きな人は居るのかー?」

悟がそういうと女子がこちらを向いた。たった一人を除いて。

「まぁ、いないって言ったら嘘にはなるかな、気になってる人が居るし」

肯定はしたが恥ずかしくなり、少し抑えめに言った。すると

「「「「おおーー!!」」」」

クラス中で歓声が上がった。

「誰だー、それは」

「それは流石に言えないな」

「まぁ、そりゃそうか」

そんな感じで盛り上がっていると

「お前ら、うるさいぞ。授業が始まるから席につけ!!」

先生に言われて各々席についた。それから授業が始まった。

ところで俺の好きな人は"五十鈴蘭いすずらん"という女の子だ。察している人もいるかもしれないが俺の好きな人の話でこちらを向かなかった女の子だ。

自慢ではないが、俺はモテる。だが、すべての告白を断ったのは五十鈴さんが好きだからだ。

出会いはそう、入学式のあの日だった。五十鈴さんは猫を助けようとしていた。木の上で動けなくなっていた猫を。でもなかなか助けれそうになかったから、俺はその猫を助けた。猫が木から降りてきた時に五十鈴が猫を抱え嬉しそうにして、その後「ありがとうございます!」と満面の笑みで言ってくれた。そこから俺は五十鈴さんに惚れた。俺はその時の猫をチェリーと勝手に名付けチェリーに感謝している。

 地味な女子と言われているが俺は全くそう思えず魅力的な女性だと思った。俺は初恋を体験した。


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私は五十鈴蘭、中学の頃は友達もいた。でも高校の初め、とあることが理由でぼっちになった。とあることとは、私の一番の親友がいじめられたことによって転校した。そこから私がいじめの対象になると、仲良くしていた人たちも私から離れていった。どうして私がこんな目にと思っていた。親友もいなくなって。

しかし、ふと一人の男の人の顔を思い出した。入学式のあの日、いつもの日課で登校中に野良猫と遊ぼうと思い、いつもの公園へ行ってみると木の上に登ってなかなか降りれそうにない状態だった。その猫を降ろそうにも木が高く降ろせなかった。その時に現れた男の人それが丸山春人くん。颯爽さっそうと現れて猫を助けてくれた。

丸山くんのことを考えると、少し心が安らいだ。でも、高校に入って分かった。丸山くんは女子に人気で学校の王子様的な存在だった。私には届かないなと思い手を引くことにした。丸山くんとの繋がりは"あの日"の猫だけ。そう思い私に懐いていた猫を飼い始めた。その時に名前をつけた。その名前はチェリー。

そこから、3年の今日、丸山くんの好きな人の話になった。気になったけど、私には関係ないと思い、振り向かなかった。丸山くんは好きな人はいるらしい、でも私には関係ない、そう言い聞かせて、自分から終わらせようとした。

それが私の初恋…


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俺は五十鈴さんが好きだ。でも、話したのはあの日だけだった。

「あの、お礼をしたいのですがどうしたら」

そうオドオド言う五十鈴に可愛いなと思いながらもこう言った。

「お礼なんかいいですよ。猫、無事でよかったですね」

「あ、はい。でもお礼をしないわけにはいかないので」

そう言って五十鈴さんは紙とペンを取り出して何かを書き出した。

「こ、これを、私の住所と、メアドです。何かあったらここに来るか連絡をしてください。その時にお礼をします」

「は、はい。わかりました」

そう言って別れた。俺は好きな人の家の住所とメアドが知れてラッキーだと思った。でも恥ずかしく家にも行けずメールも一回も送れなかった。


どうにかして五十鈴さんと話せないかな、そう思いながらもそんな機会もうないと思っていた。そんな時だった。

(あれ今日五十鈴さん休みなんだ。珍しいな)

そう思っていると先生が来て

「今日は五十鈴が風邪で休みだ。誰か家を知っているやつプリントを届けに行ってやってくれ。誰かいるか」

こんな事を言った。

(家は知っているが行くと言うのは少し照れるな)誰もいなかったら行こう。

その結果、俺はプリントを届けに行くことになった。ま、まあ家に着いてもプリントを届けるだけだし、親が出て会話をすることもないと思っていた。

でも話せたらいいなと少しの希望を持って。

しばらくして家に着いた。インターホンを鳴らし

「すいませーん。五十鈴 蘭さんのクラスメイトの丸山です。プリントを届けに来ましたー」

そう言うとインターホン越しに「はーい」と聞こえ、扉が開いてお母さんらしき人が出てきた。

「はーい、ありがとうね。よければ上がっていかない?あの子もきっと喜ぶわよ」

そう言われて、チャンスだと思いお邪魔することにした。

「はい、ではお言葉に甘えて」

「はーいゆっくりしていってね〜」

そして、五十鈴の部屋に連れていかれた。

(やばい、めちゃくちゃ緊張する)

そう思いながらも、扉をノックして呼びかけた。

「五十鈴さん、丸山だけど、お見舞いに来たよ。入ってもいいかな」

「え、ええっ!丸山くん!!どうして。ちょ、ちょっと待って!」

「分かった」

それから数分後

「もう、いいよ」

そう言われた為部屋に入った。

「お邪魔します」

部屋は、とてもシンプルだった。でも所々ぬいぐるみがあったりと女の子らしい部屋だった。

「ま、丸山くん、今日は、どうして」

「…あ、ああ先生に頼まれてプリントを持ってきたんだ」

「そ、そうなんだ」

「うん」

「「・・・」」

そこから少し沈黙が続いた。話したかったはずなのにいざ目の前にしてみると頭が真っ白になって何を喋ればいいか分からなかった。気まずい空気になりそろそろ帰ろうと思った時

「ニャー」

あの時の猫を連れて五十鈴さんのお母さんが入ってきた。

「これ、お茶とお菓子。ゆっくりしていってね丸山くん」

「は、はい」

お母さんは出ていったが猫はここに残ったままだった。

「この猫、木の上にいた猫だよね」

覚えていなかったらどうしようと思ったが覚えていると信じて話しかけた。

「っ、覚えていてくれたんだ」

「う、うん」

忘れるわけないよ。初恋の瞬間だったんだから。本当はそう言いたかった。

「丸山くん、今更だけど、あの時のお礼をしたいんだけどね。何かできることあるかな?」

「あ、ああ、なら一緒に遊べないかな。今からでも」

「あそ、ぶ?そんなことでいいの?」

「俺はそれがいいんだ」

それから猫の名前を聞いて驚いたり猫と遊んだりトランプをしたりして普通に会話できるレベルには成長した。でも楽しい時間はすぐ過ぎていった。

「もう、こんな時間か…帰らないと」

「なんか時間が過ぎるの早かったね」

「じゃあ、五十鈴さんバイバイ」

「う、うんバイバイ」

そして五十鈴さんの家を後にした。

「今日五十鈴さんと良い感じだったよなー。この調子でいけば五十鈴さんも振り向いてくれるかも」


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私は丸山くんが好きだった。私の気持ちが叶うはずないもの。だって喋ったのはあの日だけだから

私は猫を助けて貰ったことよりここでの会話で私がお礼をしようとしてもお礼より「猫が無事でよかったですね」

と言ってくれた。自分のことを犠牲にしても助けてくれる優しさに惚れていた。それも過去の話だったはずなのに

「気になる人は居るけど」

「猫無事でよかったですね」

そんな言葉が頭の中で交互に跳び交う。何を考えているんだ。私は。

今日はもう早く寝よう。そう思いベッドに潜った。

「チュンチュン」

小鳥のさえずりが聞こえる。朝が来たと実感した。でも全然寝れなかった。

ずっとあの二つの言葉が頭の中に残ってる。しんどい。でも学校に行かないと。そう思い着替えて1階に降りご飯を食べていた。するとお母さんが

「どうしたの、とても体調悪そうよ」

「そ、そうかな」

「ええ、ちょっと熱測ってみなさい」

「うん」

熱は38度5分あった。

「高熱じゃない。今日はもう休みなさい」

「うん」

今日は休むことになった。頭を冷やせていい機会だと思った。でも今日は丸山くんの顔が見れないんだ…そんな変な事を思いながらもしんどかったから寝た。

そこから何時間経っただろう。もう4時前だった。

「もうそろそろ、学校が終わる頃かな」

そんな事を言いながら熱を測った。

36度5分平熱だ。明日は学校だな。そう思っていたその時インターホンが鳴った。誰だろうと思ってしばらくすると部屋がノックされ

「丸山だけど」

ふとそんな声が聞こえた。それから続き

「お見舞いに来たよ。入ってもいいかな」

丸山くんの声でそう聞こえた。私は慌てて

「ちょ、ちょっと待って!」

そう言って心の準備をした。

(なんで丸山くんがここに、そういえばあの日住所を教えたっけ。

そう私はお礼がしたいからと住所とメアドを教えたのだ)

私は落ち着いてから丸山くんに部屋に入って貰った。

「丸山くん、今日はどうしてここに?」

「う、うん。プリントを届けに」

「そうなんだ」

「うん」

やっぱりそうだよね。なんの理由もなしに私の家に来るわけないよね。

そこから沈黙が続いて気まずくなった。何か話さないとと思ったら

「ニャー」

お母さんがチェリーを連れて入ってきた。

「はい、お茶とお菓子よ。ゆっくりしていってね」

お母さんはそう言って出て行った。今回お母さんに助けられたと思った。

チェリーはここに残ったからチェリーのこと覚えているかと話そうとしたが怖くて出来なかった。すると丸山くんが

「この猫、木の上にいた猫だよね」

そう話してくれた。私はチャンスだと思い

「あの時のお礼をしたいんだけど」

と言った。

「ああ、なら遊べないかな。今からでも」

丸山くんが言ったことにびっくりした。

「あそ、ぶ。そんなことでいいの?」

「うん、それがいいんだ」

それから猫の名前を教えたり、猫と遊んだりトランプをしたりした。こんなに楽しいのは久しぶりだった。

「もうこんな時間か…帰らないと」

「なんか時間が過ぎるの早かったね」

「じゃあ、五十鈴さんバイバイ」

「うんバイバイ」

それから丸山くんは帰って行った。

「丸山くんと遊んだの楽しかったな」

私は不意にそんな言葉を口にしていた。

「な、何いってるんだ私は」

私は自分で自分の言ったことが分からなくなりベッドに潜り込んだ。

「はぁ、丸山くんなんでこんなに優しくするの…これじゃあ、嫌いになれないよ」





「好きだよ、丸山くん」


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それから私は丸山くんと学校でも話すようになった。話すと言っても少しだけど。そんな調子で今年のバレンタイを迎えた。

「今年は、丸山くんにチョコを渡せるように頑張ろう」

(今までは自分に嘘をついて渡せてなかったから今年くらい良いよね)

一口サイズのチョコを作り渡そうと思った。

「よし出来た。これで渡せるぞ」

そう思い明日に備えて今日はもう寝ることにした。

それから今日も学校に着いた。最近学校が楽しい。

それから昼休み丸山くんにチョコを渡そうと思いチョコを持って丸山くんのところに歩き出した。するといつも丸山くんと仲良くしている3人の女子に止められた。

「あんたまさか、春人にチョコを渡そうとしてるんじゃないでしょうね」

「そ、そうだけど、ダメかな?」

そう言うと3人は笑い出した。

「はははっあんた何言ってんの」

そこから表情が変わり私にこう言った。

「あんた放課後体育倉庫に来なさい。そのチョコを持って。来なかったらどうなるかわかるわよね。

あんたがどんな馬鹿な事をしていたか教えてあげる」

私はその言葉を聞いて体がすくんだ。

そう私や私の親友を虐めたのは彼女たちだったのだ。

でもいじめていた事実は一部の人しか知らない。丸山くんは知らない。絶対に。

放課後になり私は体育倉庫に向かった。何度も何度も行きたくないと心の中で祈ったがいかなければならない。

あの写真を他の誰かに見られたら学校に行けなくなる。

「き、きました…」

「やっと来たのね遅かったわね。そのチョコを渡しなさい。」

「はい…」

私は従うしか無かった。それからチョコは粉々にされ私は何回も何回も殴られ続けた。心の中で私は

(助けて…丸山くん…)

そう願っていた。

私は目を瞑りただひたすら耐えることにした。少しすると殴られなくなった。

終わったと思い目を開けると、

「大丈夫?すぐに手当てをするからね」

「まる…やまくん…?」

その言葉一緒に私に丸山くんの手が差し伸べられていた。


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今日はバレンタインだ。今年こそは五十鈴さんからチョコ貰えるといいな。

(もし貰えたら名前で呼ぼう。それに呼び捨てで)

そんな気持ちで学校に行った。

朝は悟と一緒に登校し靴箱に溢れんばかりのチョコが入っており、おちょくられた。

「おい、よかったな〜今年も大量に入っていて」

「ああ…そうだな」

でも五十鈴さんからチョコは入って無かった。

それから休み時間の度に話しに行こうかとも思ったが、いつも以上によそよそしかったから行くにいけなかった。

だが昼休みだった。片手に袋を持ってどんどんこっちに向かってきた。

これはもしかしたらと思いドキドキしていた。

しかし途中でななみたちに止められ話をしていた。話すに連れて顔が青ざめて話が終わった頃には震えながら自分の席に戻っていった。

気になった俺は五十鈴さんを観察することにした。ストーカーとは言わないでくれよ。

だが昼休みが終わる頃にはいつも通りに戻っていたが。

今日の授業が終わり俺の気のせいかと思い今日は帰ろうと思ったが放課後には昼休みと同じような顔になって教室を出ていった。

俺はますます気になり付いて行った。すると着いたのは体育倉庫だった。

(こんなところになんの用が?)

気になり外から隠れて様子を見た。

そこにはななみたちと話している五十鈴さんがいた。うまくは聞き取れなかったが五十鈴が誰かにチョコを渡そうとしていたらしい。

少し考えてもう一度中を見てみるといきなりチョコは粉々にされ五十鈴さんは殴られ始めた。

その時俺は一年の時のことを思い出した。

もうすぐ冬になろうかと言うタイミングだった。

俺は部活あの助っ人に参加していてトイレに行こうとした時、好奇心で普段なら誰もいないだろう場所を通って行ったのだ。

すると誰かの泣き声が聞こえた。そこを見てみると五十鈴さんがななみたちに暴力を受けていた。それを発見した俺は先生に言いに行った。それでいじめはもう無くなったと思う。

でも少し心配だったからななみと仲良くするふりをして変なことをしないかをずっと見ていた。この事は五十鈴さんは知らない。絶対に。

いじめは無くなってたと思ってたのに。急すぎて一瞬動けなかったが

(助けに行かないと)

そう思った瞬間にはすぐ体が動いた。

それからと言うもの五十鈴さんを殴っていたのをやめさせた。

「なんでこんな事をしているんだ」

「春人、なんでここに」

「今日様子が変だったから付いて来たらこうなってた!!

もうどっか行けよ!!」

「わ、分かったわ。行くわよ」

「「う、うん」」

そう言うとななみたちが

「覚えておきなさいよ。蘭これからどうなるか」

そう呟きながら出て行った。気にはなったが、五十鈴さんが優先だ。そう思い手を差し伸べた。


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「丸山くん、私のことはいいから追いかけて。それで写真を消させて。じゃないと私は明日死んじゃう…」

「しゃ、写真?」

「うん」

私が見られたくない写真それは裸の写真だ。最初はトイレに行っているときに盗撮されそれからどんどんエスカレートしていき裸の写真を撮られた。

「わ、わかった」

「あ、ありが…とう」

こんな事を丸山くんに頼むのは悪いと思った。でももう丸山くんにしか解決できないの。

初めて好きになった人だから他の人に見られるよりはマシだから。

それからすぐに写真は消された。丸山くんが頑張ってくれたみたいだ。そしてあの3人は私に暴力をしたことが分かり停学になった。

それから私はもう一回チョコを作ることにした。

(喜んでくれるかな。丸山くん)

そんな事を思いながら作っていたからかとても楽しかった。

それからバレンタインから一週間後の今日チョコを渡すことにした。

「ご、ごめんね。こんなところに呼び出して」

放課後丸山くんを校舎裏に呼び出した。もう心臓が張り裂けそうだった。

「な、何のようかな?五十鈴さん」

「えっとね、一週間前渡せなかったものを渡そうと思って」

そう言うと私はチョコを取り出し丸山くんに渡した。

「私のチョコ、受け取ってくれない…かな」

「えっ!」

「やっぱり、ダメだよね。ごめん丸山くん」

そう言って私は走り出した。(やっぱり私じゃダメなんだ)そう思いながら。

「ま、まって…蘭!」

丸山くんがそう言うと私はびっくりして思わず立ち止まった。

「えっ!…あっ…」

その間に丸山くんに手が握られていた。

「待ってくれ、蘭。少しで良いから」

そう言われて止まらないわけには行かない。私は意を決して振り向いた。

「うん」

「良かった。俺チョコすごく嬉しいよ。貰って良いんだよね」

「あ、丸山くん」

「春人」

「え、?」

「春人って呼んでほしい」

私は照れ臭かった。でも名前で呼ぶのも夢だった。

「はると…くん」

と呟いた。私は頭が沸騰したみたいに熱くなった。

「それでよし」

そう言って私の頭を撫でてきた。

「もう、ずるいよ。春人くん」

「えっなんか言った?」

「ううん。なんでもない」

「そうか」

この日春人くんとの仲がより深くなった気がする。


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バレンタインの出来事が終わり俺は五十鈴さんとよく話すようになった。悟からは

「なんで付き合ってねえんだよ。お前と五十鈴さん」

おかしいだろみたいな感じで言われて俺は少しばかり反論した。

「いいだろ。俺のタイミングがあるんだよ」

「タイミングねー」

そうタイミング。俺はあの日の場所で告らないといけないと思っている。

そう思っていると、どんどん伸び、いつの間にか卒業式になっていた。

「どうしよう。もう時間が無いぞ」

「どうしようじゃねえよ。どんな形でもオッケー貰えるんだから自分がしたいところに呼び出せよ」

「あ、ああ、そうだな。ありがとう悟」

「早く行ってこい。卒業式も終わったし時間もねえぞ」

その言葉を言った悟に俺は手を振りあの日の公園へ走り出した。

(今日なら絶対にあそこにいるはず)

そう思い走り続けた。ようやくあの公園に着いた。そこにはあの日と同じ様に木の前で悲しそうに立っている蘭がいた。

「蘭、今きたよ」

「は、はるとくん!?」


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「はぁ、私ってやっぱり駄目なのかな」

私はそう呟いていた。理由はそう、春人くんのことだ。今日、卒業式が終わった。なのに告白される事は一度も無かった。

「こんな事なら駄目元でも私から告白すればよかったのかな…」

私は泣きそうになった。それを隠すために私はあの公園に走った。春人くんとの出会いの公園。

「はぁ、あと少しだったなぁ」

叶いそうで叶わない。届きそうで届かない。それが恋だったのだ。そう思うと私の目から自然と涙が溢れてきた。

「春人くん、春人くん、春人くん、はる‥とくん、なんで、なんで、私はこんなにも愛してたのに…」

私は泣きながらそう言って少し落ち着いた。

「やっぱ駄目だな私。こんなのだから告白もされないんだよ」

そう思って公園の木を見上げた。(私と健くんとの出会いの木)そう思うと

今までの思い出が走馬灯の様に蘇ってきた。

出会った事

家で遊んだ事

今まで話した事

そしてバレンタインの時助けてくれた事

「やっぱり、好きだよ…春人くん」

そう呟くと同時に

「蘭!今きたよ」

そう叫ばれた。声が聞こえた方を見てみると

「は、はるとくん!?」

そこには春人くんがいた。


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叶わない恋。届かない恋。たくさんあるかもしれない。私たちが、俺たちが出会えたのも奇跡かもしれない。

だからこそ、この奇跡に感謝しよう。

「「入学式のあの日、あの場所、あの時間、」」

「私たちが」 「俺たちが」

「「出会い恋をする事が出来たことを」」

そして今日

「「卒業式のこの日、あの場所、この時間」」

「私たちの」 「俺たちの」

「「恋が成就したことに」」




「「私は、俺は、あなたがこの世界で一番」」

「「大好きだよ!!」」

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あの日の初恋 鳴子 @byMOZUKU

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