第3話「最前線」

少年はヴィアの部屋に入った。途端に強烈な匂いが鼻をつく。

少年「うぐ、何だこれ!?」

咄嗟に鼻をつまむ。

ヴィア「こら、ちゃんと嗅ぎなさい」

ヴィアは蝋燭に火を灯しながら少年に言った。

ヴィア「これは儀式用のお香だからね」

そう言ってヴィアはグリモワールを開きその一頁を切り取り燃やしていく。

少年「おい、そんな事してもいいのか?」

少年が問いかけるが聞こえていないのか呪文を唱え始める。

どうやら高度な呪文らしく少年には聞き取れなかった。

ヴィア「さて、始めましょうか」

少年「何してたんだ?」

ヴィア「召喚魔術の一種よ」

説明によるとこのお香は召喚によって喚び出された生物を可視化させ

さらにその生物をグリモワールに憑依させる効果も持っているそうだ。

ヴィアは本棚から一冊の本を取り出す。

ヴィア「これがぼうやのグリモワールの基になる教本だ」

少年「へぇー・・・」

何の変哲もない普通の本。

少年「これが本当にグリモワールってヤツになるのか?」

ヴィア「まぁまぁ、見ていなさいって・・・ふふふ」

少年「なんだよ急に」

ヴィア「いや、今いる奴がね・・・ぼうやに興味津々だなってね」

少年「もう居るのか!?」

少年は驚いて辺りを見回す。

ヴィア「それじゃ・・・」

ヴィアは本を少年に差し出す。

ヴィア「持ってて」

そう言ってヴィアは自分のグリモワールを開き手を翳す。

ヴィア「汝は名も無き少年・・・・」

ヴィアが呪文を唱え始めると一気に場の空にが変わった。

少年「これが儀式か」

ヴィア「汝に新たなる名を与える、その名は・・・・」

少年「・・・・・」

ヴィア「ヴィオラ」

少年「!?」

少々女性っぽい名前に肩を揺らす。

ヴィア「ヴィオラ・バイスローズ」

性名まで唱えると少年の姿が変わっていた。髪は長くなり

白いメッシュが右目辺りに垂れていた。着ていた服は綺麗になり

その上にはヴィアとおそろいのローブが。

ヴィオラ「おお?」

さらに声が心なしか若干高くなっている。

ヴィア「さてと、そろそろ出ておいで」

ヴィオラ「ん?」

ヴィアそう言うとヴィオラの体に何かが巻きついた。

ヴィオラ「うわ!蛇だ!」

蛇「動くな」

ヴィオラ「蛇が喋った!」

蛇「我は目が見えんのだ、少しじっとしていてくれ主人」

そう言ってその蛇は体の隅々、顔のいたるところを這いずり回った。

声からして雌(女性?)だろうか、澄み渡った声色だった。

蛇「なかなか男前な主人だな、しかしまだ子供か・・・」

ヴィオラ「こいつは一体?」

ヴィア「蛇か・・・輪廻、永遠、生と死の象徴だね」

蛇「我を呼び出したんだ・・・何か用か」

ヴィア「早速で悪いんだがその子のグリモワールに憑依してくれないか?」

ヴィアが言うと

蛇「嫌だね」

ヴィア「どうして?」

蛇「主人に命令された事以外しない主義なんだ」

ヴィア「ヴィオラ、どうやら貴方が主人らしいわよ?」

ヴィオラ「わかったよ、入ってくれないか?」

蛇「了解、その前に我にも名前をくれ」

ヴィオラ「名前かぁ・・・」

ヴィア「名前は重要だ、主従関係を確立するためにね」

ヴィオラ「じゃあお前の名前はバルレだ!」

バルレ「確かに、名前を受け取ったぞ主人」

そう言うとバルレ(蛇)はヴィオラが持っていた本に入る。

すると表紙は蛇皮に変化し中央には尾を咥えた蛇の文様が

浮かび上がっていた。

ヴィア「バルレねぇ・・」

ヴィオラ「ん、どうした?」

ヴィア「ヴィオラ、貴方はさっきの名前の意味は知ってるかい?」

ヴィオラ「いや、知らないけど」

ヴィア「バルレは従者って意味だよ」

ヴィオラ「そうだったのか!?」

ヴィア「まあこれでグリモワールの完成だ、ヴィオラのグリモワール・バルレがね」

ヴィオラ「これで終わりなのか?」

ヴィア「ああ、儀式は終了したからもうお休み」

ヴィオラ「おう」

ヴィア「明日は早いからね、魔獣を退治しに行くよ」

ヴィオラ「魔獣って・・・・まあいいや、お休み」

家の二階、案内された寝室でその日、ヴィオラは死んだように

眠った。

つい半日前まで路上で暮らしていた少年が家と名前を貰えたのだ。

ベッドで寝れるなんて何年ぶりだろうか。

翌日、目覚めると不思議な異物感を感じた。体の右側、棒のような

物体がある。感触は柔らかく芯が通っているような感じ。

ヴィオラ「何だよ、これ」

持ち上げてみるとそれはヴィオラの右腕だった。

ヴィオラ「!?」

すっ飛びて起きると上着を引っ掴み一階、ヴィアの部屋へ。

ヴィオラ「母さん!腕が!俺に右腕が!」

ヴィア「んん?」

ヴィアが寝返りを打つ。そしてのそりと体を起こすとニコリと

笑った。

ヴィア「おや、成功したみたいだね」

ヴィオラ「え?」

ヴィア「昨日のうちに腕の培養と縫合を済ませておいたのよ」

ヴィオラ「いつの間に・・・」

ヴィア「貴方が寝ている間にね、結構簡単だったわ」

ヴィアはベッドから起き上がると急に服を脱ぎ始めた。

ヴィオラ「うわわわ、なにを!」

ヴィア「何かしら、湯浴みをするだけよ?」

ヴィオラ「びっくりしたなぁ、急に脱ぎだすなよ、何かと思ったぞ」

ヴィア「母親の裸体を見て・・・・・何を考えてたの?」

ヴィオラ「何も考えてねぇよ!!」

ヴィア「ふふ」

その後朝食を済ませ魔獣が出たと言う町へ赴いた。

ヴィア「これはまた・・・・・酷いわね」

街の家屋は所々壊され、柵やその中の作物も荒れ果て

家畜までもが食い殺されていた。

ヴィオラ「こりゃまた、甚大な被害が・・・うわ!?」

ヴィオラが地面の爪痕に触れようとしゃがんだ瞬間

目の前を白馬が横切る。その馬には男性が跨っていた。

ヴィア「おや、なかなかお早い到着ね」

ヴィアは少し機嫌が悪くなったようだ。

ヴィオラ「な、何だよ一体」

男性「おお、これはこれは悪名高い紫の魔女がいるじゃないか」

ヴィオラ「ああ、何だと?」

突然現れて母親を侮辱されては黙ってはいられない。

ヴィオラ「お前なぁ」

ヴィア「よしなさいヴィオラ、火傷じゃ済まないよ」

男性「ははは、よくわかっているではないですか」

白馬から降りるとその馬の頭をひと撫でする。

そこには螺旋の角が生えていた。

それによく見ると鬣や尻尾は紅蓮に燃え盛っている。

ヴィア「貴方は・・・魔獣狩りのエンね?」

エン「いやはや、名前まで覚えてくれていたとは仕事冥利につきますね」

男性「エン!何をしている!」

エン「はっ!しまった!」

男性の声が響き奥の方向から人が来ている。

エン「た、隊長!これは!その・・・・ぐっはぁああああ!?」

突然青い炎の拳がエンを殴りつけエンが吹っ飛んだ。

男性「人の馬を勝手に使うな、それに・・・」その男性はヴィアに

深く頭を下げた。

男性「部下が大変迷惑をかけた、気を悪くさせた事、深く謝罪する」

ヴィア「久しぶりねロウ」

ヴィオラ「誰なんだ?」

男性「初めましてだな少年、私はこの阿呆の上司で魔獣対策特殊部隊の隊長を務める・・・名を蒼炎の覇者ロウと言う、よろしく」

ヴィオラは倒れているエンの方向を見た。

ヴィオラ「阿呆って・・・」

ロウ「我々は魔獣の捜索にあたる、行くぞエン」

エン「あががが」

ロウはエンを引きずりながら去っていった

ヴィア「ああ、これは・・・・共同戦線になるね」

ヴィオラ「はい?」

ヴィオラはこれからとんでもないことが起こる事を悟ったのだった。

第三部「最前線」終

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魔女の子 ジャック @9410710

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