第4話 「タカヤン」
小学生時代に父親の仕事の都合で二度転校を経験した。
最初は二年生の時。フェリーに4時間くらい乗って離島の学校に。
2クラス編成1クラス確か24人。
緊張するって事を初めて経験した瞬間だったと思う。
教壇に立ってもなかなか自己紹介ができなくてさ、先生がうまく察してくれた。
1学期が終わる頃には島の生活と学校生活にも多少慣れてきて、友達の紹介で島の少年野球チームに加わった。初めての丸刈り。テレビの野球中継を心待にしてた。もちろん夢はプロ野球選手だ。
7月の体育の授業は気温が30度を越えると水泳になる。
先生が皆にプールサイドに整列を促すと5人ずつ名前が呼ばれる。
呼ばれたらプールの中に入るんだけど、突然の25メートル競争。
僕はそんなに泳げないから一人だけビート板。泳げないなりに最後まで頑張ったけど断トツのビリ。
夏休み前先生が僕を呼び、夏休みのプール解放の日は必ず来なさい。泳げるようになろうって言ってくれた。
先生は怒ると怖いけど優しくて親身になってくれる。
下手なりに泳げるようになった時、先生が職員室でスイカを食べさせてくれた。
そんな事より先生の笑顔が何より嬉しかった。
島の生活で得た友達。経験。出来事。は僕にたくさんの宝物をくれた。
五年生の2学期に二回目の転校。
県内屈指のマンモス校で1クラス43人の6クラス編成。
先生が先に教室に入り、今日は転校生を紹介します!とか言ってハードルを上げる。
中からの騒がしい声に迎えられ教壇での自己紹介。
色黒で短髪姿の僕は皆から質問責め。女子から、カッコいい!可愛い!とか意味は解らなかったけど円らな瞳だね!とか言われ浮かれていた。
体育の時間。僕は裸足が当たり前だったけど皆が下駄箱で靴をはいてる。
男子はカッコいい紐靴だ。僕の靴はマジック式。
少し離れた所で二人が僕の靴を指差しながら笑ってる。
歩くと踵が光るからわざと光らせてみせたけど興味なんてないらしく相手にしてくれない。
教室に戻るとクラスメイトの殆どが遠足じゃないのにリュックサックを持ってきているのに気付いた。ランドセルは?って隣の席の子に聞いてみると、ランドセルなんてダサいから使ってないってさ。よくよく周りを観察してみると筆箱はジッパータイプ。シャープペンシルにカラフルペン。
僕のは母親に書いてもらった時間割表が開いて右側に差し込められた箱型の筆箱。鉛筆三本と赤鉛筆。先が折れないようにはめてある鉛筆キャップには小鳥型の小さな消しゴム付き。おまけに大切に使ってるロケット鉛筆なんてのも持ち合わせている始末。
何だこれ。
僕は妙に恥ずかしくなって。
転校初日に筆箱を忘れたふりをした。下校の時間になってもロッカーからランドセルを机に置けなかった。
なんだ?この違和感は。
親に話しても、まともに聞いてくれないし、買ってはもらえない。マジック靴なんて新品だったから。
ならせめてランドセルだけでも。ってまだ開けてない段ボールから遠足で使っていたリュックサックを探しだしたけど、やけに明るい青色で実際見たこともないカッコ良くもないキャラクターがプリントされワクワクハイキングとまで書かれている。
ダメだ。
次の日もランドセル。
次の日もマジック靴。
次の日も箱型の筆箱。
もう誰も質問なんてしない。
極めつけは大好きだった野球。
野球をやってるって事で仲良くなった友達とキャッチボールすることになったんだ。
何のグローブ使ってるの?って聞かれて。
何のグローブ?グローブはグローブでしょ。
僕は解らない質問に答えずに使ってるグローブを見せたんだ。
そしたら急に笑って。なんだよそのグローブ擬き。
へんなの。だって。
友達はメーカーの事を聞いてたみたい。
僕が野球を始める事を聞いておじいちゃんがくれた物。小指側には父親の弟の名前が大きくフルネームで書いてある。長く押入れにしまってあったらしくカビ臭いし硬くて開かないから父親が一生懸命ほぐして使えるようにしてくれた。
僕にとって大切な大切なグローブだった。
でも僕はその大切なグローブをさっき道端で拾ったって嘘ついて友達の前で草むらに投げ捨てたんだ。
島の監督は、いいグローブ使ってるな。大切にしろよって言ってくれた。
友達も誰も笑わなかった。
転校初日から感じていた恥ずかしさと違和感が混じり合い、僕の中で弾けた。
僕の全てが否定された気がした。
笑われないように。
バカにされないように。
周りと違わないように。
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