第3話 『煙雲』

タカヤンと出会ったのは高校2年の春。

でも、本当はもっと前から知っている。




高一の夏、

違うクラスだった彼は昼休みの度に俺のいる教室を横切っていく。

右手にはいつもカロリーメイト。

白いボディにオレンジソールのNIKEエアフォース1。

大きな歩幅でステップを踏む様な足取りは、ディズニー映画バンビにどことなく似ている気がした。




(どんなやつなんだろう?)


(友達になりたい。)



軽快に横切る小鹿を騒がしいクラスから眺めていた。






※※※





舗装の悪い急な坂の上にある校舎からタカヤンがママチャリで下ってくる。



ズザーーーーーー



紫鬼「おっ、タカ……」





ズザーーーーーー



「……」



ズザーーーーーーーーー



「……」



ズザーーーーーーーーーーー







どうやらブレーキが壊れているらしい。俺の横を通り越し、はるか20メートル先で煙を上げながら止まった。


かすかに焦げ臭い。

両足で踏ん張るのがブレーキ代わりみたいだ。

ずっと履いているエアフォース1のオレンジ色のソールには、いくつも空洞が出来ていることが容易に想像できた。

まだ、砂煙で曇った視線の先で、たかやんが笑っている。






タカヤン「やあ、オニくん!今頃登校かい。」



紫鬼「あぁ。てか、ブレーキなおせよ。」




タカヤン「ブレーキなんていらないよ。躊躇してるけど、必ずBIGになる。」



紫鬼「は?」






そう言って、タカヤンは残りの坂道を下って行った。




登校してすぐの昼休み。って卑怯だけど、弁当食ってる皆にさっきの話をしたん。

そしたら、タカヤン今日は登校していないらしい。


まさかって不思議に思ったけどそれ以上は語らなかった。

BIGになるって事の真意とか空席に姿を重ねたり、バンビの幻か?って。午後の授業は、タカヤンで頭が一杯だった。もちろん恋心とかそんなんじゃない。

下校中、微かに残ったブレーキ跡に混ざるオレンジがタカヤンの存在を証明する。






「へんな奴」







空中を漂う雲はずっと遠くに居る様で、近くて、優しくて、時に危うくて、如何様にも型を変える。















はじめまして。




タカヤン。

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