第2話 『古い自転車に乗り』

高校2年の春。




クラス替えで同じクラスになった



最初は共通の友人を通して会話したり昼間皆で弁当を食べたりするくらいで、見えない壁があるような。

咄嗟に敬語を使ったり妙に気を遣ってしまったりして。

2人で遊んだり何かをするって事はないただのクラス仲間だったんだけど、その日は梅雨が明けた7月の下校時。



くだらない話で盛り上がって僕はクラス仲間と別れずに家と真逆の駅方面に自転車を押していた。


その中に彼もいて途中、小さな公園のベンチ横にある大きな一本の木の下で彼が突然歩みを止めたんだ。



「ん?クワガタでも見つけた?」



「…………」




彼はその木を見上げている。




皆の声を無視して、ただじっと木を見つめている。





まだ見つめている。





「どうしたんだよ。大丈夫か?」





彼「葉っぱが緑なんだよ。」





「は?」




彼「葉っぱが緑なんだよ。この時期のこの緑、なんか好きなんだ。」





「は?」




突然の葉っぱが緑発言に皆あっけにとられ笑っている。

僕も一緒になって笑ったけど、バカにしたわけじゃない。




新緑の若葉が陽を透かして浮遊している。




バカにできなかった。



自分でも理解できないけど、重く心に響いた彼の発言は一瞬で僕の体を駆け巡る。



今まで出会い経験した物事や存在が霞んでいく。僕につきまとう見えないフィルターが瘡蓋に変わる。1つ1つ剥がれてゆくのがわかる。



好きなミュージシャン?


好きな映画?




そんな事どうでもいい。





本当はね、背が高くてイケメンだよねって語りまくる女子の声や、廊下を歩く姿を教室の窓越しに見かけたりして彼の存在に入学時から気付いていたんだ。

そんな彼とこれから数々の出来事を経験する親友恐友になるなんて思ってもいなかった。





もう壁なんてない






はじめまして。



紫鬼。

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