紫鬼-murasakioni-

山陰ニーホ

第1話 『カラフル』

僕は青色が好き。海、空、ヒーローの色。でも赤でもいい時もある。それはまちまちで、黄色でも黒でもなんでもいい。そんな感じ。


でもね、一つだけ嫌いな色がある。



長い時間観察しているはずの自分の変化の中で見落とした一本の白い顎髭。やけに光ってて、対面の他人にゴミと間違えられて発覚。

そういえば学生時代好きな女の子の近くで白髪見っけって友人に指摘されて発覚した白髪。嫌な気持ちになった事もあったっけ。案外鼻毛だって尻の毛だって白髪かもしれないけど、自分じゃ気付かない気付けない。白髪なんて嫌いだ。




でもね、嫌いな色は白色でも銀色でもない。





夏でもないのにうるさくなり続ける携帯の着信音。予定時刻を一時間以上過ぎている。

間違いない、彼は怒っている。焦る自分と加速についていけない足元のペダル。

気を抜けばハンドルから手が離されそうになるくらいの手汗が彼の恐さを物語る。



携帯の着信音は鳴り止まない。







もう少し、もう少し、あれだけ激走して向かっていた彼の待つ本屋に近づくにつれ不思議と自転車のスピードが落ち、説得できそうな嘘や言い訳が頭の中で勢いを増す。




長いトンネルを抜けた後の本屋までの下り坂。不思議と鳴らなくなっていた携帯は僕に微かな希望を持たせ、アカデミー脚本賞並の渾身の言い訳が完成していた。


裏口に自転車を止め、吹き出す汗と大太鼓のような胸の鼓動を抑え息を整える。

なんならポカリでもって自販機から取り出すと、実は自販機のすぐ横にいた彼と目があった。




立ち竦む僕。





地面に転がるポカリスエット。





何も言わない彼。




楽しそうに本屋から出て行く客。




何も言わない彼。




後退りな僕。




何も言わない彼。




カラカラに干からびた臭い口の僕。




何も言わない彼。







子供「ねぇお母さん。あそこに鬼さん達がいるね」


親「そうね赤鬼さん、もう一人は青ざめたような鬼さんね」



子「青鬼さん?」



親『紫鬼よ』

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