第4話


 第一球技場でのイベントも終わった。

 今年も西崎高校が優勝を収め、六年連続優勝と記録を更新した。


 明芳高校も三位決定戦に勝利してキャプテンの沙央梨が表彰台で銅メダルを掛けてもらい、選手たちはその前に整列して表彰式、閉会式を眺めていた。

 閉会式の長話にタイクツした香澄はちらりとテラス席に視線をやる。

テラス席の前列、手すり付近に頼光、美幸、椎名の姿を見つけ、香澄は口元を緩めた。


 第一球技場玄関前で頼光と美幸、椎名は香澄を「出待ち」していた。

 紺色の制服の波が何度か押し寄せ、それをかわしつつ中の様子を探る。

 しばらく待つと、グレーの制服の集団が玄関スペースに姿を現した。

 林のような人の群れから小柄な女の子が顔を覗かせ、頼光達に大きく手を振る。

 その女の子は仲間に礼と挨拶を交わして駆けて来た。

「やっほー。おまたせ~。」

「や、香澄。おつかれさま。」

「香澄ちゃん、おつかれ~。」

「こんにちは~。」

 頼光たちは三者銘々の挨拶をして一緒に歩き出した。

「閉会式の液晶ボード見たよ。香澄のチーム、三位なんだな。おめでとう・・・ってもっと上目指してたんだったらごめん。」

「ううん、負けたトコ優勝校の西崎だもん。そことも惜敗(せきはい)な感じだったから。悔いなしって感じだよ。」

「そうか、やっぱり観たかったな。」

 頼光は口を結んで軽く頭を振った。

 その頼光の右横から美幸が顔を覗かせた。

「最初の試合しか観えてないけど、香澄ちゃん、大活躍だったんだから。バスケットの縁(ふち)の所までジャンプしてたのよ。」

 美幸はにこにこしながらスマートフォンをタップした。

「ほら、こんな感じ。」

 画面には会場の雑踏、ホイッスル、ドリブルの音と共に試合風景が映し出された。

「きゃあ、美幸ちゃん。撮ってたの?」

 奪い取ろうとする香澄をガードしながら、頼光は差し出された画面を覗く。

 バスケット・リムを撫でる様にシュートを決める香澄に頼光は感嘆の声を漏らした。

「すげ~。いつぞやの朝練の時より動きがこなれてる感じだな。」

「もう、恥ずかしいってばっ。」

 ガードをかいくぐって美幸のスマートフォンを奪うと、画面をタップして映像を閉じた。

「どうだ、『奉納舞』の動画を僕の横で見られる気分が解ったか?」

「ライコウのは元々、神社でみんなに『見せる』ヤツでしょ。私のはそういうのじゃないのっ。」

 美幸にスマートフォンを返して、赤い顔のまま香澄は口を尖らせた。

「そういえば、明日よね。皆本くんの所の神社のお祭り。」

 椎名が美幸の隣から顔を覗かせた。

「うん。準備は着々と進めてたから追い込みって所はもう無いんだけど、やっぱり各所の点検はウチ総出でやらなくちゃなんだ。演奏してくれる楽団さんとの最後のツメの事もあるし。」

「じゃあ、この後はゆっくりしてられないの?」

 寂しそうに美幸は頼光を見た。

「うん、このまま直帰して家のコトに当たるんだ。せわしなくてゴメンね。」

「あら、残念。せっかくだから、私も美幸と一緒に皆本くんとお話しとかしたかったのにな。」

「それは残念。またの機会に一緒しようよ。良かったら、美幸ちゃんと一緒に『雪月花』に来てくれても嬉しいな。」

「ああ、皆本くんのバイト先の甘味処さんね。それっておごり?」

 椎名はいたずらっぽく微笑んだ。

「う・・・まあ、誘ったのは僕だから一品だけだけどサービスするよ。」

「あ、冗談だよ。変に気を使わないで。美幸と都合がつく時におうかがいするわね。」

「うん、ありがと。お待ちしております。」

 頼光はペコリとお辞儀をしてほほ笑んだ。

「香澄ちゃんはこの後、予定とか有る?」

 美幸は頼光越しに香澄を覗き込んだ。

「う~ん。特に用事は無いな。美幸ちゃんと小林さんは?」

 それを聞くと、美幸が目を輝かせて身を乗り出した。

「あのね、鴻池駅とは反対方向になるんだけど、ここから一駅行った『乙多見(おつたみ)駅』の駅前にクレープ屋さんがあるんだ。香澄ちゃん、良かったら一緒しない?」

「え、いいの? そういう女子会のノリって好き。ぜひご一緒します。」

 満面の笑みを浮かべた香澄は隣の頼光に視線を向けた。

「ライコウ残念だったね。一緒出来たらハーレム状態だったのに。」

「はは、まったくだ。それじゃ、香澄楽しんで来てね。美幸ちゃん、小林さん。香澄のことよろしくお願いします。それじゃあ、また。」

「うん、ライコウも運営がんばってね。また電話するね。」

「おつかれさま~。」

「皆本くん、おつかれさま。またね。」

 銘々が挨拶して手を振る。

 頼光は足早にバス停の方へと歩いて行った。

「・・・あのね、香澄ちゃんに聞きたいことがあるの。」

「うん? なあに?」

 最寄り駅に向かって歩き出してすぐに、美幸はちょっと口ごもりながら香澄の方を見た。

「香澄ちゃんと、皆本くんの共通の知り合いに外国の女の子って居る?」

「う~んと・・・具体的にどこの国の人?」

「え・・・と。色白で、金髪のストレートで、青い目で身長は170センチぐらいで、すごく日本語の上手な女の子。」

「・・・・え? ひょっとしてその女の人って、Dカップぐらいの胸があって、美幸ちゃんぐらいの長さの金髪のロングヘアで、右目尻に泣きぼぼくろがあって、黙っているとちょっと冷たい印象のある美人さん?」

 香澄が大きな目をさらに見開いて美幸を見つめた。

「髪は肩口で揃えたセミロングだったけど、他は概ねそんな感じ。知ってる人?」

「それよりっ、なんで美幸ちゃん知ってるの?」

 香澄は血相を変えて美幸の両肩を掴んだ。

「きゃっ。さ、さっき、皆本くんの試合会場に来てたの。」

「ええっ?!」

 香澄は驚きの声を上げた。

「それに、吉田さんのバスケ会場に行く前に、その女の子と皆本くん。しばらく一緒に話していたのよ。」

「えええっ?」

 椎名の言葉に、香澄は情けない声を上げた。

「・・・うそ。帰って来たんだ。」

「ねえ、香澄ちゃん。皆本くんとすっごく仲良さそうにお話ししてたんだけど、あのひと、誰?」

 少し呆然としている香澄を覗き込むように美幸が聞いた。

「・・・麗奈(れいな)さん。ライコウの・・・モトカノ。」



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