第86話 出来る人が出来ることを
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優斗は気配察知を広げ、相手の位置を入念に確かめる。
気配を捕らえた次の瞬間、優斗は刀を抜いて床を斬りつけた。
四角く切られた床が、ゴトリと落下した。
穴は空いたが、しかし落下したブロックが邪魔で中がのぞき込めない。
そのブロックに手を当て、優斗はインベントリに収納する。
すると、ぽっかり空いた穴の下に、取り残された住民の男性が倒れていた。
「た、助かった……」
「エリス!」
優斗の声で、エリスが男性に手を伸ばし、ヒールを行う。
しかし、
「ユートさん。足が……」
エリスが伏し目がちにそう言った。
男性の足が、天井に押しつぶされていたのだ。
その状態では、たとえヒールを行おうとも、傷は治せない。
「……すみません。少し辛いと思いますが、耐えてください」
「えっ、あ、はい」
「ふぅ……」
刀を抜いて、優斗は男性を避けるように床を切る。
切り裂いたことで抜け落ちた床が、すとんと落下。
「うあぁぁぁ!!」
同時に、男が声を上げた。
足に床の全重量がかかったためだ。
それを優斗は迅速にインベントリに収納する。
「エリス!」
「はい、です!!」
二階の床から一階にぴょこんと降り立ち、エリスがヒールを行う。
使っているのがハイヒールだからか、男の足の傷がたちまち癒えていった。
「あ……ありがとう、ございました。すごい。あんなに痛かったのに治ってる!」
救出した男が何度も頭を下げながら、倒壊した家から脱出した。
そこから優斗は、生き埋めになった人達を救出して回った。
人の気配を感じたら刀で床を切り裂き、救出する。
優斗のインベントリを、家の残骸が瞬く間に埋め尽くしていった。
「なんだ、まだ住民を捜索してたのか!?」
優斗らが人命救助を行っていると、窓からひょっこり冒険者が顔を出した。
その表情には、鬼気迫るものが浮かんでいた。
「え、ええ。生き埋めにされた人がまだいるかもしれないので」
「街にはまだ、多くの魔物が入り込んでるんだぞ!」
「それは本当ですか!?」
「ああ。スタンピードが発生しやがった!!」
その言葉を聞き、優斗の頭から、サァっと血液が落下した。
まさかそのような事態が発生しているとは予想だにしていなかった。
だが、発生の兆候は掴んでいた。
優斗らは今まさに、冒険者ギルドから『スタンピードの発生を抑制するため』の依頼を遂行中だったのだから。
(まさか……)
優斗は嫌な予感を覚えた。
それを打ち消したくて、男に尋ねる。
「スタンピードは、どこからですか!?」
「南の森からだ。南門から侵入してきたらしい」
「そんな……」
嫌な予感が的中した。
優斗の全身が凍り付く。
「お前らはオーガが倒せるほど強いだろ? ここは低ランクの俺らに任せて、魔物討伐を優先しろ!」
「…………」
「ほらっ、行け!!」
「は、はいっ!」
見知らぬ冒険者に救出作業を託し、優斗は崩壊した建物から急ぎ飛び出した。
スタンピードの発生源はクロノスの森だ。
その森から溢れた魔物の一部が、クロノスの市中に入り込んだ。
魔物が入り込んだのは、南門から。
――孤児院きぼうの近くだ。
「すみませんダナンさん、先行します!!」
「お、おう?」
「エリス。ダナンさんを連れてきて!」
「はい、です!」
優斗がなにに慌てているかわからないダナンが、首を傾げながらも頷いた。
エリスには、孤児院の在処がわからないダナンを誘導してもらう。
(どうか孤児院が、魔物の被害に遭っていませんように……!!)
手短に指示を出した優斗はその場で跳躍。
天に祈りながら、屋根伝いに全力で孤児院へと向かうのだった。
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