第85話 オーガ襲来

来週2月5日に、拙作「生き返った冒険者のクエスト攻略生活」が、KADOKAWAドラゴンノベルスより発売となります!

全体的に文章を修正し、さらに約1万字近い描き下ろしもあります。

すでに読んだことのある方も楽しめると思います。

何卒、ご購入をよろしくお願いいたしますm(_ _)m




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 ギルドから受けた依頼の最終日。

 優斗はダナンとエリスの二人と、神殿前広場で合流した。


 テミスとは、南門で落ち合う予定だ。


 初日で失敗した時以来、テミスは盾士としてめざましい進歩を遂げていた。

 冒険者になってからほとんど剣士として活動していたとは思えないほど、テミスの盾使いは手慣れていた。


 優斗はこのまま彼女が、優斗のパーティに正式に加入してくれないかと考えていたが、本人はまるで乗り気ではないし、エリスも猛反対するに違いない。


 そんなことを考えながら、南門に向かって歩いている時だった。


 ――ン、カーン、カーン、カーン!


 緊急事態を告げる鐘の音が優斗の耳に届いた。


「ん、なんだろう?」

「火事か?」


 ダナンに言葉で、優斗は屋根を見上げる。

 クロノスの空には、火事が発生していると思しき黒煙は舞い上がっていない。


「火事じゃなさそうですね」

「だな。だとすると……なんだろうな?」


 優斗らは足を止めて首を傾げる。

 鐘の音を不思議に思っているのは優斗たちだけではない。周りにいる冒険者や一般人も、みな同じように足を止めて音に聞き入っている。


 鐘の音が響いてしばらくした時だった。


 ――ズゥウウン!!


 街のどこかから、腹の奥が揺さぶられるような音が轟いた。

 それと同時に、音に驚いた市民の悲鳴が響き渡る。


「ダナンさん!」

「…………あっちだ!」

「エリス!」

「はい、です!!」


 優斗が名前を呼んだだけで、仲間たちが意を得たように動き出した。

 ダナンは気配探知を行い、音の発生源を指し示す。

 エリスは抱えたピノを頭に乗せて走り出した。


 慌てふためく市民を躱しながら、優斗らは音の発生源に向かって全速力で走った。


 発生源に着いた優斗は、頭で判断するより早く刀を抜いた。

 びりびりと、肌を刺すような気配がした。


(魔物の気配だ。それも……かなり強い)


 優斗は呼吸を整え、辺りをじっと見回した。

 音が轟いた原因は、建物の倒壊だ。


 石造りの建物の一階部分が潰れている。

 二階部分が一階のようになってしまっていた。


 もうもうと立ち上がる粉塵が、風に押し流されていく。

 その建物の中に、優斗は影を見た。


 次の瞬間。

 ――ィィイイン!!


 反射的に持ち上げた刀に、硬いなにかがぶつかった。

 刀にぶつかったのは、真っ赤な爪だった。


 爪の持ち主は、人間と同じ見た目だ。

 上半身が裸で、下半身にはぼろ布を纏っている。


 パッと見は人間に見える相手の頭上には、人間にはない二本のツノが生えていた。


「――オーガ!?」


 その特徴から、優斗は相手がBランクの魔物オーガであると推測した。


(さっきの鐘の音は、これか!)


 優斗は合点がいった。

 だが、優斗は何故オーガがここにいるのかが、判らない。


 未だに力で押し続けるオーガの爪を、優斗はシノギで滑らせ受け流す。

 力んでいたオーガはバランスを崩し、つんのめる。


 その腹部を、優斗はつま先で蹴り上げた。


「――ガッ!!」


 オーガの体がくの字に折れ曲がった。

 僅かに停止したオーガに向けて、優斗は刀を振り下ろす。


 オーガが石畳を踏み抜きバックステップ。

 優斗の刀は、寸前の所で躱されてしまった。


 優斗がオーガの隙を伺っていると、耳元でダナンの声が聞こえた。


「わりぃ。何発か試したんだが、俺の針じゃアイツの体にちっとも刺らねぇ」

「わかりました。弱い所だけ狙い続けてください」

「了解」


 ダナンの気配が、空気に溶け込むように消えていく。


 ふぅ、と一度深呼吸を行う。


 オーガは前回、クロノスの街中に出現したカオススライムと同じBランクである。

 前回のスライムは手こずったが、あれは物理ダメージを与えられなかったからだ。

 オーガには刀が通じる。


(だから、大丈夫。いつも通りやるだけだ)


 優斗はゆっくりと、意識を集中させる。

 優斗の意識が、目の前のオーガだけを浮かび上がらせる。


 一秒が、みるみる鈍化する。

 反対に、優斗の思考が加速する。

 そうして訪れる、いつもの集中限界点。


 だが今回は、その限界点さえ容易く突破した。


 ――特技・集中。一点突破。


「――ふっ!!」


 優斗は全力で踏み込んだ。

 優斗の踏み込みに負けて、石畳が蜘蛛の巣状にひび割れた。


 攻撃を予知したか。

 オーガが反射的に腕を上げた。


 しかし、


「――ガッ!!」


 優斗はオーガのガードごと、首を切り落としたのだった。


 刀を中段に構えた状態で、残心。

 背後でドシャっと、オーガの体が倒れる音が響いた。

 その音を聞き、優斗は血振りをして、刀をゆっくりと鞘に収めた。


「……ふぅ……ぐっ!?」


 気を抜くと、途端に体中を倦怠感が支配した。

 危うく膝から崩れ落ちそうになるのを、優斗はぎりぎり食い止める。


(集中を使ってみたけど、反動が想像以上だ。たった数秒でこれか……)


 優斗がオーガを一瞬で切り倒せたのは、特技【集中】による瞬間的な身体能力増幅効果のおかげである。

 この力を用いたことで、優斗はオーガの首をやすやすと切り落とすことが出来た。


 もし集中を使わなければ、優斗の攻撃はオーガのガードに阻まれていたに違いない。


(集中しても、オーガは反応してたしなあ……)


 優斗の体感的に、通常時の1,5倍ほどの力が出ていた。

 にも拘らずガードの姿勢を取れたのは、さすがはBランクの魔物である。


 今の戦闘を分析していると、優斗は背中にふわり温かさを感じた。

 その温かさが全身を巡り、みるみる体を蝕む倦怠感を取り除いていく。


「ユートさん、お疲れ様、です」

「ありがとうエリス。すごく助かる……」

「なんだか、すごく疲れてる、です?」

「うん。ちょっと、新しい技を試したんだけど、すごく疲れちゃって……」


 エリスによるスタミナチャージが、優斗は非常に有り難かった。

 これがなければ、しばらく身動きが取れないところだった。


 スタミナチャージが終わり、疲労のほとんどが消えた後。優斗は潰れた建物の中を捜索していた。


「生きてる人、いませんかー!」

「誰かいねぇかっ!」

「いたら、声出す、です!」


 気配察知も駆使しながら、優斗らは倒壊した建物に取り残された人がいないか確認しながら部屋を回る。

 すると、


「……――……―…!!」


 地面から、人の声らしき音が聞こえた。

 同時に、ドンドンとなにかを叩く音も響いてきた。


「今助けます!!」

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