第73話 聞き取り調査
11月30日に漫画版『冒険家になろう!4巻』が、
12月9日に漫画版『劣等人の魔剣使い』がそれぞれ発売となります!
どうぞ、宜しくお願いいたしますm(_ _)m
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
優斗は眉間に皺を寄せ、目をこらす。
「……あそこ、もしかして、出口じゃないですか?」
「おっ?」
平原の上に、ぽっかりと出口が開いていた。
まるでそこだけ空間を切り取ったかのような見た目だった。
優斗らは念のため警戒しながら、出口を目指す。
出口を出ると優斗らは無事、元の扉の前に戻って来た。
一時はどうなることかと思ったが、誰も欠けることなく無事にダンジョンをクリア出来た。そのことに、優斗はほっと胸をなで下ろす。
洞穴から外に出ると、優斗は満面の笑みを浮かべたギルド職員とばっちり目が合った。
ギルド職員は無言で、優斗に手招きをしている。
これを無視出来るほど優斗の心臓は強くない。
優斗は誘われるがままに、ギルド職員の元に近づいていく。
それを見た周りの露天商の『チッ』という舌打ちが一斉に鳴り響いた。
優斗が仮設のギルドカウンターに向かわなければ、商人達が蜜に群がる蟻のように、優斗を囲い込んでいたに違いない。
「ダンジョン攻略、お疲れ様でした。ささっ、アイテムをお出しください!」
「は、はい」
かなり前のめりな職員にたじろぎながら、優斗は手に入れた魔石を、買取専用籠の中に放り込んでいく。
職員の目が怖い。なんとしてでも冒険者から魔石を買い取れと、指令が下されているのかもしれない。
「それでは、皆様のギルドカードをお預かりいたします」
受付がカードと魔石を預かり、査定役に手渡した。
「査定が終了するまで、二・三伺いたいことがあります。よろしいですか?」
「えっ、あ、はい」
「それでは、ダンジョンの中での出来事を、時系列に教えて頂けますでしょうか?」
受付の言葉に、優斗が答えようとした時だった。
ぽん、と優斗の肩にダナンの手が置かれた。
「ちょっと待ってくれ。それは、ギルドとして正式な命令か?」
「ええと……それは……」
「俺たちは命を賭けて戦ってきたんだ。インスタαの情報が欲しいってんなら、出すもんを出してくれねぇと、口は軽くならねぇぜ?」
優斗らは、まだ情報が少ない新しいダンジョンを攻略した。
命を賭けて、未知を既知にした。
その情報に対価を要求するのは、冒険者として当然の権利である。
ダナンの言葉に、職員が僅かに顔を歪めた。
「……くっ、承知いたしました。それでは、既存の情報と齟齬がないか確認し、その上で情報の重要度・貢献度を査定いたします。対価はガルド、あるいはギルド貢献値ということでよろしいですか?」
「――ってところだそうだ。どうだ、リーダー」
ダナンがパチリとウインクをした。
優斗の至らない点を補いつつ、最後にはパーティの中心人物である優斗を立てる。
素晴らしい人格者である。
ダナンの配慮に感動しつつ、優斗は頷く。
「それで、お願いします」
「では、聞き取りを開始いたします」
「まず最初ですけど――」
優斗は受付に、最初から順立てて説明を行った。
冒険者の生存率に関わる情報だ。
優斗の話を聞くギルド職員は真剣だった。
「――それと、ボスはデッドグリズリーだったんですが、Cランクには収まらない実力がありました」
「……といいますと?」
「おそらく基礎レベルが他と違うのか、あるいは通常とは別のスキルを持っている可能性があります」
デッドグリズリーは優斗渾身の攻撃を、三度も回避した。
優斗の剣術スキルは現在Bランク相当だ。Cランクの魔物に、一度ならず三度も回避されるなど明らかにおかしい。
なので優斗は『もしかしたらあのボスは、回避スキルを持っていたんじゃないか?』と推測した。
通常のデッドグリズリーは、回避スキルを所持していない。
しかし、回避スキルがなければ優斗の攻撃を、三度も回避出来る可能性は限りなく低い。
なのであのボスに限っては、回避スキルを所持していたと考えるのが妥当である。
「……なるほど。情報共有、ありがとうございました。ユートさんから戴きました情報に付きましては、ほとんどが初期クリアパーティがもたらした情報と合致しております。こちら、お値段は付けられませんが、情報の精度上昇に寄与したということで、貢献値を付与させて戴きます」
「おおー」
「それと、最後にお聞かせくださいましたスキルについてですが、こちらは新しい見解でした。この情報ならば、値段を付けて販売することも可能かと思います。如何致しますか?」
「ええと……」
まさか、自分の推測に価値がつくとは思ってもみなかった。
優斗は目を瞬かせて、仲間を見る。
「ユートの考察だから、ユートが決めていいぜ」
「わたしも同意見、です」
二人の言葉を受け、優斗は決める。
「じゃあ、無料で公開してください」
「えっ、よろしいのですか?」
「はい。僕の推測は、あくまで推測ですから。この情報に値段を付けるよりも、大けがをする冒険者が減ってくれた方が、僕としては嬉しいです」
「甘いなあ……」
「ですです。でも、それこそがユートさん、です」
「だな」
優斗の決断に、ダナンとエリスが苦笑を浮かべた。
折角お金を手に入れられる機会だったというのに、他の冒険者のために優斗はそれをあっさり手放した。
優斗は決して、お金が欲しくないわけではない。
むしろお金は喉から手が出るほど欲しい。
しかし、優斗が情報に値段を付ければ、貧乏な冒険者に情報が届かなくなってしまう。
貧乏な冒険者は情報を買えずにダンジョンに挑み、大けがをする。
そんなあるかもしれない未来が、優斗はたまらなく嫌なのだ。
「承知致しました。そうしましたら、こちらの情報も貢献値として付与させて頂きます」
「ありがとうございます」
情報の聞き取りが終わったところで、タイミング良く魔石の査定が終了した。
魔石は全部で78000ガルドとなった。
簡易カウンターには、お金が用意されていない。
なので優斗は職員から、お金代わりの割り符を受け取った。
これを神殿のカウンターに渡すと、お金と引き換えられるのだ。
「貴重な情報、ありがとうございました。ユートさん、またいらしてくださいね」
「はい、こちらこそありがとうございました」
ギルド職員の対応が、カウンターに来た時よりも何故か数ランク上がっていた。
優斗が会釈をし立ち去る時には、軽く手を振ってさえいた。
(やっぱり、情報を無料で渡したのが良かったのかな)
優斗が手を振り返すと、何故かエリスがむっつり頬を膨らませた。
神殿のカウンターに着くまで、優斗はエリスに杖でてしてし叩かれ続けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます