第74話 50ガルドパンを布教せよ!
11月30日に漫画版『冒険家になろう!4巻』が、
12月9日に漫画版『劣等人の魔剣使い』がそれぞれ発売となります!
どうぞ、宜しくお願いいたしますm(_ _)m
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パーティメンバーと別れた優斗は、まっすぐプルートスの裏庭に向かった。
これからウィークリークエスト『中級素振り』の続きを行うのだ。
「今回の連戦で、真剣を使った素振りがどれほど大切か身に染みたからなあ」
ダンジョンでは優斗が疲れぬよう、エリスが常時スタミナチャージを行ってくれていた。
おかげで優斗は終始、疲れ知らずで動き続けられた。
だが、その代わりエリスに負担を強いてしまった。
連戦が終了したとき、パーティの中でエリスが一番くたびれていたのは、そのせいだ。
もし優斗の体がもっと疲れにくかったら、エリスが使うスタミナチャージの回数を減らすことが出来る。
エリスに負担を掛けずに済む。
真剣を使った素振りで基礎体力が向上すれば、今日のようなエリスの負担を減らすことが出来る。
そのためにも、
「もっともっと、頑張らないと」
優斗は気合を入れて、熱心に刀を振るう。
千回、二千回。
どれほど呼吸が辛くても、腕が上がらなくても、優斗はこれまで培った気合と根性で素振りを続けた。
(これが普通に出来るようになったら、エリスにもっと楽をさせてあげられる!)
そう思うと、どんなに苦しくても頑張れた。
「はあ……はあ……ふっ!」
三千回の素振りを終えた優斗は、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。
「はあ……はあ……あー、ちょっと、やりすぎた、かな」
優斗は自らの手を見下ろした。
手にはくっきり、柄の痕が浮かんでいて、所々マメが破れていた。
「マメが破れるのも、久しぶりだなあ。硬くなってからはほとんど破れなかったんだけど……」
破れにくくなっていたマメが破れるほどの鍛錬を、優斗は行ったのだ。
「明日は筋肉痛かな?」
優斗は苦笑を浮かべた。
固まった手をなんとか動かし、優斗は刀を鞘に収める。
「いてて……。これは、部屋に戻るのも一苦労だな……」
日が沈んだ街中を、優斗はふらふらした足取りでアパートへと向かう。
その道中、優斗は見覚えのある後ろ姿を発見した。
ふらふらと優雅に横揺れする尻尾。街の雑踏を逃すまいとピコピコ動く耳。
全方向に向けてとげとげしい雰囲気を放つ女性は……間違いない、テミスだ。
「テミスさーん!」
「……チッ」
ブンブン手を振る優斗を見たテミスが、顔を歪めて大きな舌打ちをした。
その様子に構うことなく、優斗は小走りでテミスに近づいた。
「いま、冒険の帰りですか?」
「……だからなんだよ。お前に関係あんのか?」
「あっ、いえ」
テミスの声は、いつにも増してトゲトゲしていた。
どうやら、虫の居所がとても悪いようだ。
そんなテミスを見て、優斗はしゅんと眉尻を下げた。
インベントリから50ガルドパンを取り出し、テミスに差し出す。
「これ、良かったらどうぞ」
「あ? なんでパンなんか出してんだよ」
「お腹が減ってるんだと思って」
「ちげぇよ!」
テミスが肩を怒らせた。
その様子に、優斗は首を傾げた。
(気が立ってるのはお腹が減ってるからだと思ったんだけど……。っそうか! 遠慮してるんだな!)
「じゃあ半分こしましょう!」
「なんでそうなるんだよ!?」
「半分こじゃダメでしたか。じゃあやっぱり、1つ差し上げますね」
「だからいらねぇって!」
「僕、50ガルドパンなら沢山あるので遠慮しなくてもいいですよ!」
「人の話を聞け!!」
ガルル……とテミスが牙を剥く。
テミスは頑なにパンを受け取ろうとしてくれない。
むぅと唸って、優斗はパンをインベントリに収納した。
(50ガルドパン布教の道は険しい……)
その時、ふとテミスの眉がぴくりと動いた。
「おいお前、その手、どうしたんだ? ぐちゃぐちゃじゃねぇか……」
「えっ、ああ、これですか……ははは。ちょっと練習に熱が入って、素振りをしすぎちゃいまして」
練習のしすぎで怪我をした。
その事実が気恥ずかしくて、優斗は両手を後ろに隠した。
「…………」
「どうしました?」
「なんでもねぇよ」
テミスがぷいっとそっぽを向く。
何でもないと口にしていたけれど、テミスはまるで、激痛を堪えるかのような表情を浮かべていた。
すたすたと足早に立ち去ろうとするテミスを、優斗は追いかける。
なんとなく、このまま彼女を一人にしてはいけない気がした。
「……なんでついてくんだよ」
「ええと……」
「ナンパなら余所でやってくれ」
「ちち、違いますよ!」
「じゃあなんだよ」
「それは、ですね……」
優斗は男性で、テミスは女性だ。
そしてテミスは、優斗のパーティーメンバーでもない。
ただの知人だ。
理由なくテミス後ろを追うのは難しい。
優斗は必死に、空っぽな脳から話題をひねり出す。
「あっ、そうだ! テミスさんに聞きたいことがあったんです!」
「……なんだよ」
テミスの瞳から、殺気が漏れる。
まるで、気に食わないことを尋ねたらぶん殴ると言うかのような目つきだった。
「テミスさんは、精神統一のやり方を知ってますか?」
「……はっ?」
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