第70話 インスタンスダンジョンα3

「向こうからやってくるなら、話は早いですね」

「見つける手間が省けるってもんだな」

「はい。ひとまず、全部倒してからゆっくり考えましょう」

「了解だ」

「全部の魔物を倒しても駄目なら、キャンプをしても良いかもしれませんね。とても気持ちの良い場所なんで」


 軽口を叩きながら、優斗はすらりと刀を抜く。


 森の向こうから現われたのは、フォレストウルフ三匹だ。

 非常に敏捷性が高く、木々を巧みに用いて森の中を素早く移動する。

 Dランクの冒険者では攻撃を当てることが難しい、Cランクの魔物である。


 しかし、それは森の中だからだ。

 平原に出て来てしまえば、フォレストウルフに地の利はない。


 優斗は刀を構え、フォレストウルフを待ち受ける。

 その時だった。


「お、おいユート。別方向からも来てる!!」

「えっ!?」


 優斗は慌てて気配察知を全体に広げる。

 すると、後方から猛烈な勢いで優斗らに近づく魔物の気配を感じた。


 数は二つ。

 内心慌てふためいた優斗だったが、一度深呼吸をして冷静さを取り戻す。


(フォレストウルフよりは遅いか?)


 全体を見通し、空間を把握。

 魔物の速度から、接触するタイミングを予測する。


 優斗が一歩、前に踏み出した。

 間合いに入ったフォレストウルフに、一閃。


 フォレストウルフの首が宙を舞う。

 立て続けに、二発。

 フォレストウルフは何も出来ないまま、ダンジョンに吸収された。


 すぐさま優斗は次の魔物に振り返った。


「げっ、ゴーレム……」


 優斗らに迫る二つの影は、岩で出来た無機物系モンスターのゴーレムだった。


(普通のインスタみたいに、属性固定で魔物が出てくるわけじゃないのか)


 フォレストウルフの属性は風、ゴーレムは土だ。

 生成の間にあるインスタンスダンジョンでは、このような魔物属性の混在はありえない。


 属性が固定されてないということは、それだけの対応力が求められるということだ。


(これが、インスタαか……)


 新しいダンジョンの流れに戸惑いながら、優斗はゴーレムを待ち構える。

 その時、


「ユートッ! 別方向から魔物が2……いや、3組!」

「組っ!?」


 ダナンの報告に、優斗は喫驚した。

 三匹の間違いかと疑うが、それぞれ別方向から魔物の集団3組がこちらを目指している気配が感じられた。


「やべぇぞユート」

「……なんとか、乗り切りましょう」


 乗り切れなければ死ぬしかないのだ。

 それ以外に道はない。


「ダナンさんはエリスを守ってください。無理に魔物を倒そうとしなくて良いです。エリスはダナンさんをフォロー。崩れないように支えて!」

「了解!」

「はい、です!」


 優斗は神経を集中し、空間を把握する。

 全体を俯瞰して、最善策を考える。


 現在優斗らに向かってきているのは、ゴーレムを含めた4組の魔物だ。

 それぞれが別方向から、優斗らに接近している。


 速度、大きさ、集団の個体数、すべてばらつきがある。

 通常のダンジョンであれば、攻められる方向を二手に制限出来る。


 だがここは遮蔽物のない平原。

 360度、どこからでも攻められる。


(きっと、ただ素早く倒すだけじゃ駄目だ)


 しばし考えた優斗は、手始めにゴーレムを攻撃。

【急所突き】と【破甲】が乗ったミスリルの刀は、ただの岩であるゴーレムを紙くずのように切り裂いた。


(まだまだ、後続があると考えて動かなきゃ)


 続いて優斗は最も近い魔物――オークの集団に、ライトニングを放つ。

 ――ダァァァン!!


 ライトニングがオークを巻き込み、弾けた。

 絶命には至らなかったが、数匹のオークが痺れて転倒。

 これでオークの出足をくじいた。


(考えろ……考えるんだ!!)


 優斗は必死に頭を巡らせる。


 自らの身体能力だけではない。

 スキルに現われない、優斗独自の力を存分に用いなければ生き残れない。

 そう、優斗はAランク冒険者のクラトスに教わった。


 それを優斗は、実践する。


(まだだ……。これじゃあまだ、エリスを守り切れない!)


「みんな、こっちに!」

「お、おう!」

「はい、です!」


 オークを足止めしている間に、ゴーレムを倒して空いたスペースに移動する。

 こうすることで、魔物から襲撃を受ける角度を、やや狭めることが出来る。


 ユートの手では届かなかった場所に、手が届くようになる。


「うおおおおおお!!」


 優斗は裂帛の声を上げ、自らを奮い立たせた。


 斬って突いて蹴って薙いで。

 魔術を放ち、一刀両断。


 時々場所を移動して、襲撃される角度を調整する。

 そうすることで、優斗は後衛のエリスを効率的に守った。


 それでも、度々エリスが襲われそうになったことがあった。

 その都度ダナンが針を飛ばし、ピノがエリスの盾となってやり過ごせた。


 戦闘が始まってから、あっという間に一時間が経過した。


「はぁ……はぁ……」


 優斗は額に、滝のような汗を浮かべていた。


 優斗だけではない。ダナンもエリスも、大量の汗を流している。


 この汗は、戦闘によるものだけではない。

 様々な方向から襲いかかる魔物に対処するため、適宜移動を繰返したためだ。


 またエリスはやや、顔色が悪い。

 戦闘が長時間続いたため、魔力欠乏気味になっているのだ。


 優斗が斬り捨てた魔物の数は、優に100を超えていた。

 それほど魔物を倒したからか、これまで間断なく続いた魔物の波が、ぴたりと停止した。

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