第64話 素振り中級編

全話と重複してアップしてしまいました。

お詫びして訂正いたします。m(_ _)m


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 優斗は腕を組み、ぐっと眉間に皺を寄せた。

 宝箱はその名の通り、ダンジョンで出現するアイテムが入った箱である。


 ベースダンジョンであれば、どこの階でも出現する可能性がある。

 だが一般的に、ダンジョンの深部であればあるほど、出現しやすいと言われている。


 宝箱からは、非常にレアなアイテムが出る。

 ダナンが装備しているナイアス・グローブも、宝箱からのものだ。


 宝箱はダンジョンの謎の一つだ。

 突然出現し、気がつくと消えている。また、同じ場所に宝箱が現われることはない。

 宝箱の中身は過去にダンジョンで死んだ、冒険者の遺品ではないかと噂されているが、真偽の程は不明である。


 冒険者であれば、発見し次第涎を垂らして群がるほどのものだが、発見できる確率は相当低い。


「宝箱を発見するって、これ、クリア出来るかな……」


 優斗はこれまで何年もダンジョンに挑んできたが、一度も宝箱を見たことがない。

 相当運が良くなければ、宝箱は発見出来ないのだ。


「うーん。まあ、そのうちクリア出来るかな?」


 クリア出来る可能性はゼロではない。

 長年ダンジョンに挑み続ければ、いつかはクリア出来るはずだ。

 ――クリアまで、長くなりそうだ。


「さて、残るは精神統一か。一時間って、すぐクリア出来そうだけど……」


 優斗はレベル30を超えた。

 このタイミングで出現したクエストは、いずれもクリアに時間がかかりそうなものばかりだ。


 にも拘わらず、精神統一はたった1時間だ。

 自分が考えるほどあっさりクリア出来るクエストだろうか? という思いがあった。


「むーん。ひとまず、試して見るか」


 優斗は早速、精神統一を開始する。

 床に座り、目を閉じて意識を集中する。


 しばらく経ってから、優斗はクエスト一覧を確認した。


>>精神統一(0/60分)


「やっぱり、全然進んでない」


 かなりの時間、優斗なりの精神統一を行ったが、スキルボード上では一つもカウントされなかった。

 こうなることが予め薄々予想していたため、優斗はさして落胆していない。


 原因は、明確だ。


「僕が、正しい精神統一を知らないからだろうなあ」


 優斗が行ったのは、自分なりの精神統一だった。

 しかしクエストが求めているのは〝正しい精神統一〟だ。

 そのため現在の優斗では、クエストを少しも進められないのだ。


「……うん。正しい精神統一を覚えればクリア出来る。それまでは、横に置いとこう」


 優斗は気持ちを切り替え、立ち上がる。

 壁に立てかけている木剣を握り、部屋を出るのだった。


 優斗が訪れたのは、プルートスの裏手の空き地だ。

 ここは、店の商品で試し斬りを行うためのスペースである。


 この空き地を活用させてもらってずいぶん経つ。

 優斗はいつものように木剣を構え、素振りを開始した。


「……しっ! ……せいっ!」


 素振りが10回を超えたところで、優斗はクエスト一覧を確認する。


>>中級素振りを行え(0/7000回)


「やっぱり、ただの素振りじゃダメなんだなあ」


 クエストが要求しているのは、〝中級〟素振りだ。

 まずはこの、クエストが求めているものを探る必要がある。


 優斗は次に、動きを付けて素振りを行う。

 いつもの型通りに行うものではなく、自分が戦ってきた魔物を意識し、木剣を振る。


 木剣を振った回数が10を超えたところで、再び優斗はスキルボードを取り出した。

 しかし、クエストのカウントは1つも増えなかった。


「戦闘を意識した動きでもだめ、かあ。うーん。中級って、なんなんだろう……?」


 腕を組んで考える。

 しばし考えた優斗の脳裡に、アイデアが一つ思い浮かんだ。


「もしかして……」


 優斗はインベントリに木剣を仕舞い、代わりにミスリルの刀を取り出した。

 それを抜き、振るう。


「……しっ! ……せいっ!!」


 素振りが10回を超えたところで、スキルボードを確認する。

 すると、


>>中級素振りを行え(10/7000回)


「よしっ、増えた」


 素振りした回数分カウントされた。

 クエストが要求する〝中級素振り〟とは、真剣を使った素振りのことだったのだ。


 クリア方法を発見したことで、やる気に火が付いた。

 優斗は柄を握る手に力を込めて、一心不乱に刀を振り続けるのだった。



 変化を感じ始めたのは、素振りの回数が千回を超えたところからだった。


(くっ、腕が……重い……!)


 優斗の腕が、上げにくくなってきた。

 振るう速度も、初めに比べればかなり鈍化した。


「……はあ……はあ……」


 腕を上げる苦労を感じるのは、レベル1だった頃以来である。

 腕の悲鳴に懐かしさを感じながら、優斗は原因を考える。


「そっか。腕が重いのは、これが木剣じゃなくて、真剣だからだ」


 木剣に比べ真剣は重い。

 重量だけを比べれば、倍以上は違う。

 さらに優斗の刀は重心が先端に近いため、素振りに必要な力が木剣とは桁違いになる。


 これが、現在優斗が疲労を感じている原因だ。


 これまで優斗は、一日で千体の魔物を討伐した経験がある。

 千体の魔物を倒すには、千回以上は刀を振らなければならない。


 しかし、千体の魔物を倒したときは、現在ほど腕がだるくはならなかった。

 にも拘らず、優斗の腕に疲労が蓄積されたのは、〝連続で千回素振りを行った〟ためである。


 いくら長時間狩りを続けたとしても、連続で戦闘を行うわけではない。

 必ず次の戦闘まで、数十秒から数分は時間が空く。


 しかし現在の素振りは、連続だ。

 振り終わってから元の位置に戻る数秒しか、インターバルがない。


 そのため、これまでにない速度で疲労が蓄積されていったのだ。


「レベルやスキルが高くても、こんなに辛いのか……いや」


 優斗は首を振る。

 効果があまりに強力すぎるため失念してしまいやすいが、レベルやスキルはあくまで身体を補助する能力だ。


 同レベル同スキルでも、若者と老人では戦闘力に大きな差が生まれる。

 それは体が強くなければ、スキルの効果が弱まってしまうためだ。


 元あったデイリークエストも、今回出現したウィークリークエストも、戦闘力を少しでも上げるために必要なトレーニングだ。

 それを意識し、優斗はニッと口元に笑みを浮かべた。


「僕はまだまだ、強くなれる!」


 そう呟いて、優斗は再び素振りに集中するのだった。

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