第63話 就職とアップデート

 先日、優斗は仲間とともに、クロノスに出現したカオススライムを討伐した。

 そのカオススライムが、緊急クエストの標的だったのだ。


 優斗はベッドから飛び起きた、アイテムをタップする。


「しゅ――就職書<剣士>ッ!?」


 喫驚した優斗は、急ぎアイテムを取り出した。

 インベントリから排出されたアイテムは、呪文書と同じスクロールだった。


 優斗は一度唾を飲み込み、ゆっくりとスクロールを開封する。

 中には沢山の罫線と、見たことのない文字がびっしり書かれていた。

 魔方陣と呪文が書かれている呪文書とは、まったく違う。


 就職書の一番上に、ひときわ大きな文字が書かれていた。

 その文字もまた、優斗は見覚えがない。

 だが何故か、その文字の読み方だけははっきりと理解出来た。


「就職希望<剣士>――おっ!?」


 文字を口にすると、スクロールが淡く輝きだした。

 まるで集まった蛍が一斉に宙に舞うように、スクロールが光の粒となって消える。


「中身は違うけど、見た感じ呪文書と同じだ……ということは」


 優斗は慌てて自らのステータスを表示する。

 すると、


>>職業:―― →剣士 NEW


「おぉぉぉっ!!」


 優斗の職業欄に、剣士の文言が表示されていた。

 それを見た優斗は、勢いよく両手を突き上げた。


「ああ……よかった……」


 優斗は感激に震えた。

 これで無職じゃない。

 仲間において行かれない!


 それまで抱えていた不安が、跡形も無く消え去った。

 優斗は少しだけ潤んだ目元を拭い、ステータスをチェックする。


○優斗(18)

○レベル31  ○職業:剣士 NEW

○スキルポイント:4

○スキル

└全能力強化Lv4

・技術

 ├剣術Lv5(+)┬魔剣術Lv1

 ├魔術Lv5(-)┘

 ├気配察知Lv2

 ├回避Lv2(+)

 └テイムLv1

・魔術

 <ライトニングLv2>(-)

 <身体強化Lv1>(+)

・特技

 【急所突き】【破甲】


「なるほど。ステータスのプラスマイナスって、こういうことだったのか」


 剣士に就いたことで、スキルの横にプラスマイナスの表記が出現していた。

 意識すると、優斗は自らの身体能力が微かに変化したことがわかった。


 プラスはプラス補正。マイナスはマイナス補正が、それぞれスキルに加わっている。


 ただ立っているだけでも気づけるほどの変化だ。

 全力を出す場面では、かなりの違いになるだろうことが予想出来る。


「~~♪ これで皆と同じだ。……あっ、でも剣士になったことは言わない方が良いか」


 優斗は今日、祈りの間で鑑定したばかりだ。

 その翌日に、仲間に『剣士になった』と告げるのは少々不自然である。


 再鑑定したところでこの職業が、鑑定結果に反映されるとも限らない。

 鑑定結果は無職なのに『剣士に就いたよ!』など言おうものなら、無職に悩んだ結果虚言を口にするようになった可哀想な人として見られかねない。


「……うん。黙っているのが吉かな」


 レベルやスキルと同じように、優斗は職業に就いても黙っていることにする。

 ステータスをひとしきり眺めた優斗は、次にクエスト一覧の確認を行う。


 するとクエスト画面に、小窓がポップアップしていた。


『デイリークエストクリア、100回達成致しました』

『デイリークエストがアップデートされます』


「んん?」


 言葉が飲み込めない。優斗はそのポップアップを指で触れた。

 すると、画面がいつもと同じクエスト一覧に戻った。


○ウィークリークエスト NEW

・中級素振りを行え(0/7000回) NEW

・魔物討伐千匹(0/1000) NEW


「おおっ、アップデートって、そういうことか!」


 これまであったデイリークエストが消え、代わりにウィークリークエストが出現していた。


 これまでのデイリークエストとは違い、一日で完了するのが厳しいクリア条件だ。

 その名の通り、これは〝一週間かけてクリアする〟前提のクエストなのだ。


 切り替わった原因はポップアップに書かれていた通り、デイリークエストを100回クリアしたためだ。


「クエストをクリアすると、新しいクエストが出るだけじゃなくて、アップデートされることもあるのか……」


 それがわかり、優斗はクエスト攻略にますます気合が入った。


「魔物千匹はすぐクリア出来そうだけど、この素振り、〝中級〟ってなんだろう?」


 優斗は首を傾げる。

 スキルボードを手にした日。優斗は素振り千回のクエストをクリアしている。

 その時は〝中級〟という文言は付いていなかった。


「中級っていうからには、なにか意味があるんだろうけど……うーん? まあ、あとで確かめてみよう」


 優斗は次に、ベースクエストに目を向ける。


○ベースクエスト

・100万ガルドを貯めろ(231349/1000000)

・20階に向かえ

・ダンジョンで宝箱を発見せよ NEW

・精神統一(0/60分)NEW


「新しいクエスト、結構出てるなあ。レベル30を超えたからかな?」


 こちらも、これまでになかったクエストが出現している。


 百万ガルドは現在進行中のクエストだが、すぐにはクリア出来るものではない。

 じっくり時間をかけてクリアしようと、優斗は考える。


 20階に向えは、15階のボスを倒したことで出現したものだ。

 これまでと同様に、20階に向かえば、ボス攻略クエストにチェインするはずだ。

 こちらは明日にでも挑戦する予定だった。


「宝箱を発見せよ……?」

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