第62話 走っても届かない不安

「ほえー。やっぱり職業が出てる、です」

「ああ。噂に間違いはなかったな。ところでエリスはなんだった?」

「私は回復術士、です。ダナンさんは?」

「俺は斥候。期待したわりに、案外普通の職業だったな」


 エリスとダナンが談笑している横で、優斗はがくりと肩を落としていた。


 鑑定は滞りなく終了した。

 鑑定が終了したあと、3人は神殿を出てゴールドロックを訪れていた。


 鑑定を行う冒険者がかなり多かったため、優斗らの順番が回ってくる頃には、昼を回ってしまったのだ。

 そのため、ダンジョンの探索は延期。

 今日は鑑定のみで終了することが決定した。


「ところでユートさんは、どうです?」

「それが……」


 優斗は肩を落としながら、自らの鑑定結果を取り出した。


○優斗(18)

○レベル1  ○職業:――

○スキル

 ――


「「…………」」


 優斗の鑑定結果を見た二人が、かちりと凍り付いた。

 優斗の鑑定結果にも、職業の項目が出現していた。

 しかし、それだけだ。


 ステータスは以前とまったく同じ、レベル1のまま。スキルさえ出現していない。

 おまけに職業は無職と来た。


 このあんまりな結果に、優斗はかなり落ち込んでいた。


(二人の会話に、入れない……。いいなあ、二人とも。楽しそうだなあ)


 優斗も二人と職業の話題で盛り上がりたかった。

 しかし、無職である。

 語れることは、なにもない。


「……やっぱりユートさんは、呪われてる、です?」

「うう……」

「いや、おかしいだろ。ユート、レベル1って強さじゃねぇぜ? この鑑定は、なんか間違いじゃねぇのか?」

「ですです。この鑑定はおかしいです」

「ありがとう、二人とも。鑑定のステータスについては、もういいんだ……」


 鑑定でレベル1になることは、以前から判っていた。

 どういう理屈かはわからないが、優斗の能力は、正しく鑑定されることがない。

 正しいステータスは、スキルボードで確認出来るから良いと優斗は考えている。


 その上で、優斗が落ち込んでいるのは職業だ。

 鑑定でも、職業は出て来なかった。

 鑑定ミスではない。優斗は間違いなく、無職なのだ。


(ああ、神様……。どうすれば、職にありつけるんですか!?)


「そういや、俺とエリスは普段の役割と同じ職業だったけどよ、普段担当してる役割と違うもんが当たった奴もいるみてえだな」

「へえ。自分のステータスに合せて職業が決まるってわけじゃないんですね」

「ああ。ステータスじゃ職業って出てるけど、天性に近いのかもしれねぇな」


 優斗らは、列に並んでいる間に得られた情報を整理する。


1,職業は複数存在する。

(剣士、重剣士、盾士、魔術士、回復術士、斥候など)

2,自分のステータスに近い職業が割り当てられる。

3,普段の役割と違う職業に就いている場合がある。


 ここで問題になるのが、3だ。

 普段は剣士としてパーティで動いている者が、鑑定では『職業:魔術士』と鑑定されることがある。

 その場合、その冒険者は方針転換を余儀なくされる。

 なぜならばこの職業は、ステータス全体に『その職業に相応しい補正』をかけてしまうためだ。


 エリスなら魔力と回復術が、テミスは敏捷と罠解除、気配探知などのスキルにプラス補正がかかっている。

 逆に、マイナス補正がかかっているスキルもあるという。


「わたしの場合は、筋力にマイナス補正がかかってる、です」

「俺は魔力だな。攻撃に使うからマイナスは勘弁してほしいんだが……」


 このマイナス補正が、職業出現における厄介な点だった。

 たとえば剣士だった者が魔術士に就いてしまった場合、マイナス補正のせいで、職業を無視して剣士でパーティに入っても、これまで通りと同じ動きが出来ない。


 無職の優斗は、これまでと全く同じだ。

 プラス補正はないが、マイナス補正もない。


(そういう点では、ある意味良かったのかなあ……無職で)


 そう、優斗は無理矢理自分を納得させるのだった。




 ゴールドロックでの食事を終え、優斗らは一旦パーティを解散した。

 昼を過ぎてからダンジョンに潜っても、あまり成果が上げられない。

 ダンジョンに潜るのは明日にすることにした。


 自室に戻った優斗はベッドに寝そべり、唇を突き出しながらスキルボードを弄っていた。


「はあ……。僕もなにか職業に就きたかったなあ……」


 優斗はまわりが職業に就いているなか、自分だけが無職だったことで、少しだけ疎外感を感じていた。

 出来るならエリスやダナンと同じように、なんらかの職業に就きたかった。


 優斗の戦闘力は依然として高い。

 職業に就かずとも、それは変わらない。

 だが、優斗はどうしてもなにかしらの職業に就いていたかった。


「……はぁ」


 ここまで優斗が落胆しているのは、この状況が過去と重なって見えるためだ。


 冒険者になって数年後、優斗は初めてパーティを組んだ。

 自分と同じくらいの年ではなかったが、それでも比較的若いメンバーが集まっていた。


 皆、登録したての冒険者で、レベルも1から3程度と非常に低かった。

 しかし、新人冒険者とは誰しも低レベルからスタートするものなのだ。


 はじめのうち、優斗は他のメンバーに混ざって必死にゴブリンを討伐した。

 だが、ダンジョンに潜って一週間もしないうちに、優斗はほとんど戦闘に参加しなくなった。


 ――仲間のレベルが上がったためだ。


 他のメンバーは前に進んでいく。

 そんな中、優斗だけが取り残された。


 頑張っても頑張っても、仲間に追いつけない。

 仲間が力を付けていくなか、優斗だけが、力を手に入れられなかった。


 いまでも優斗は、その当時のことで悪夢に魘される。

 走っても走っても、まるで体は前に進まず、前にいる仲間の背中が遠のいていく夢だ。

 優斗がどれだけ叫んでも、走っても、仲間の背中には届かない。


 勿論、現在の優斗はスキルボードのおかげで、レベルアップもスキルアップも出来るようになった。

 それでも仲間において行かれる不安は、拭い去れない。


 そのような過去があったため、優斗は『一人だけ無職だったこと』が不安でならなかった。


 また、おいて行かれるのではないか?

 あのときと同じように……。


 ため息を吐きながらすらすらと画面をなぞっていると、ふと優斗はインベントリに見慣れぬアイテムが収納されていることに気がついた。


「……あっ、そういえば、緊急クエストをクリアしたんだっけ」

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