第三部 正しき道を歩むからこそ

第60話 プロローグ 新しい変化

 とある冒険者の男が、祈りの間でステータスの鑑定を行っていた。

 男は久しぶりの鑑定に、胸を高揚させる。


(レベル、どれくらい上がってるかなぁ……)


 聖台に置かれた紙に、ステータスが浮かび上がる。

 紙をヒョイと持ち上げて、男は鑑定結果をチェックする。


「よしっ! レベルが1上がってる!!」


 ここ最近の努力の結果が、レベルとして現われていた。

 そのことに、男はぐっと拳を握りしめる。


 レベルアップに喜んだ男が、次にスキルの確認を行おうと視線を下げた時だった。


「……んん? なんだ、これ?」


 男のステータスに、これまで見たことのない表記が出現していた。


「あ、新しいステータス項目だ!」


 新たな項目の出現に、クロノス中の冒険者が湧き上がることになる。


          ○


「ユートさん、お早うございます、です」

「お早う、エリス」

「おう、ユート」

「お早うございます、ダナンさん」


 朝、優斗は神殿前広場で仲間の二人と合流した。


 斥候のダナンは、タクムの完治をきっかけにして、正式にパーティに加入することが決定した。


 優斗の目から見て、ダナンは非常に優秀な斥候だ。

 また、ダナンはエリスとも関係が良好である。

 小さいから、幼いからと、エリスを見下すことがない。


 そんな彼が正式にパーティに加入してくれて――このパーティを選んでくれて、優斗は非常に嬉しかった。


 神殿に向けて、優斗らは冒険者たちの間をすり抜けていく。

 優斗は今日、ベースダンジョンの20階を目指す予定だ。


「なんだか、いつもより人が多いような……」


 神殿前広場には、沢山の冒険者が集まっている。

 だがどうも普段とは様子が違っていた。


 普段ならば、多くの冒険者が声を張り上げ、その日一日だけのメンバーを募集している。

 だが今日は、声を上げている者がほとんどいない。


「……ん、あれ? もしかして、列になってる?」


 よくよく観察すると、優斗は冒険者たちが列を成していることに気がついた。

 その列は、なんと広場から神殿まで伸びていた。


「この列、神殿まで伸びてるみたいだけど、なにかあったのかな?」

「ユート、知らないのか? なんでも、鑑定で浮かび上がるステータス表記が変化したらしい」

「えっ、そうなんですか!?」

「ですです。朝からその話題で持ちきりです」


 ダナンとエリスの言葉に、優斗は目を丸くした。

 ステータスの表記が変化したなど、初耳だ。


「へえ……」

「あまり驚かない、です?」

「いや、驚いてるよ」


 優斗はステータスの表記が変化するなど、想像したことがなかった。

 しかし、スキルボードを持ったいま、『まあ、そういうこともあるんだろうなー』と受け入れることが出来た。


 それは以前に鑑定したステータスの表記が、スキルボードと異なっていたためだ。

 優斗の感覚では、スキルボードの表記が正しいステータスだと感じている。


 なので優斗は、『鑑定結果がより正確になったのかな?』程度に考えていた。


「じゃあもしかしてこの列は、祈りの間での鑑定待ち?」

「だろうな」

「へぇ。……ところでその表記の変化って、どんなもの?」

「それがどうやら、ステータス一覧に職業が追加されたって話だ」

「職業?」


 優斗は首を傾げ、冒険者の列を眺めた。


 優斗の職業は、冒険者だ。

 その職業がステータスに表示されたとして、では列に並ぶほど鑑定を行いたくなるか? と……。


「ああ。どうもその職業が、ステータスを微妙に変化させるらしいんだ。だから皆、こうやって朝イチから鑑定しに、列をなしてんだ」

「ステータスを変化、ですか……」


 ダナンの言葉を聞きながら、優斗はスキルボードを取り出した。


○優斗(18)

○レベル31  ○職業:――

○スキルポイント:4

○スキル

└全能力強化Lv4

・技術

 ├剣術Lv5┬魔剣術Lv1

 ├魔術Lv5┘

 ├気配察知Lv2

 ├回避Lv2

 └テイムLv1

・魔術

 <ライトニングLv2>

 <身体強化Lv1>

・特技

 【急所突き】【破甲】


 スキルボードを眺めた優斗は「おっ」と、目を瞬かせた。


(あ、あれ!? 昨日まではなにも出現してなかったのに……)


 先日まではなにもなかったレベルの横に、新たに職業の項目が出現していた。

 現在の優斗は、どの職業にも就いていない――無職だ。


 それを意識して、優斗はなんとも言えない気持ちになる。


(もしかして、タップしたら職業が変わるとか?)


 試しに職業に触れてみる。しかし、なにも反応がない。


「ユートさん、どうした、です?」

「えっ、あ、うん。職業が現われたのって、いつからだろう、って思って」

「たしか、今日の早朝の鑑定からだっていう話、です」

「ふむ……」


 エリスの話が本当ならば、スキルボードとステータス鑑定がリンクしていることになる。

 優斗が考え込んでいると、ダナンが「そういえば」と手を叩いた。


「今朝って言葉で思い出したぜ。まだ小耳に挟んだだけなんだが、神殿横にある池が涸れたらしい」

「池……ああ、あれですか」


 池と聞いて、優斗はすぐにテミスとの決闘を思い出した。

 優斗は少し前に、テミスと決闘を行った。

 その場所は神殿の脇にある草むらだ。


 その草むらに、池があった。


「少しの雨で氾濫すると噂の池、ですよね?」

「ああ。その池が涸れてな。そこからが重要なんだが――」


 ダナンが優斗に顔を近づけた。


「どうも、その涸れた池に穴があってな。穴を進んだ先で、新しい扉が見付かったって話なんだ」

「扉!?」

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