第59話 後日談
タクムの治療に必要なアイテムは、優斗が持っていたネクタールだった。
このことを知った優斗は、がくりと膝を付いた。
何故このことに、すぐ気がつけなかったのだろう……と。
己の馬鹿さ加減に落胆した。
それでも、ネクタールを与えて元気を取り戻したタクムを見て、優斗は立ち直る。
結果良ければ、全て良しだ。
使い道がなくなったガルドは、皆で分配した。
ダナンは優斗に全額渡そうとしたが、優斗はこれを固辞する。
「タクム君の回復祝いに、美味しいものを一緒に食べてあげてください」
この言葉に、なにか感じるものがあったのか、今回ダナンは報酬をすべて受け取ってくれた。
ネクタールの費用については、百万ガルドに換算した上で、優斗からの借金という形に収まった。
分配金を受け取った優斗は、全額をエリスに差しだした。
これは防具の購入費用の返済分である。
「別に、払わなくてもいいです」
「そうはいかないでしょ。今後はエリスにも、良い武具を装備してもらわないといけないから。そのためにお金を貯めておいてね」
「じゃあユートさんが買ってください、です!」
「僕にはそんなお金はないよ」
「…………はあ」
何故かため息を吐かれてしまった。
支払いを済ませても、23万ガルドも残っている。
エリス金融に、優斗はしばらく頭が上がらない。
クロノスの街中にカオススライムが出現した原因については、今のところなにも判明していない。
しかし出現した各所では、以前より異変が確認されていた。
このことから、冒険者ギルドは念のため直ちに街の総点検を行った。
すると、点検を行っていた冒険者は、クロノスの中で想定しなかったものを発見してしまう。
この発見で、クロノスの冒険者が一気に胎動を始めることになる。
「おいっ、不味いパンのにーちゃん」
子どもの声が聞こえ、優斗は振り返る。
そこには、10歳ほどの少年が佇んでいた。
ダナンの弟、タクムだ。
タクムはむっつりした表情を浮かべている。
「こんにちは、タクム君。あのパンは不味くないからね」
「不味いじゃん」
「ううん、安いパンだよ」
「安くて不味いパン」
むむ、と優斗は唸る。
タクムはなかなか手強い相手だった。
彼の肌は、以前よりも血色が良い。
ネクタールがその効果を発揮して、魔力病を吹き飛ばしたおかげだ。
タクムの元気そうな姿に、優斗はほっと胸をなで下ろす。
「それでタクム君。今日はどうしたの?」
「それは……あの……ええと……」
もじもじと、タクムが肩を動かす。
その後ろ。物陰から――本人は気づかれていないと思っているのか――気配を消したダナンがタクムに「ほら、いけ!」とエールを送っていた。
「おっ、お薬を、ありがとう。あとパン、盗んでごめんなさい」
「うん、うん。体が治ってよかったね」
顔を真っ赤にして俯いたタクムの頭を、優斗は優しく撫でる。
優斗のその手に、救った命の温もりが伝わる。
頭を撫でながら、優斗は祈る。
兄の言うことを聞く素直さがあり、一人で優斗に謝罪しに来る勇気もある。
そんなタクムがどうか、このまままっすぐ、健やかに育ちますように、と……。
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これにて2章が終了となります。
次回更新より3章がスタートです。
マガポケにて拙作「劣等人の魔剣使い」が更新されております。
そちらの方も合せて、どうぞ宜しくお願いいたします。
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