第51話 ガルドを貯めろ!
臨時メンバーとしてユートのパーティに入って二日目。
ダナンは浮かれるような足取りで神殿前広場へと向かっていた。
ユートのパーティは、驚くほど金払いが良かった。
初め、ダナンが勧誘された時に『報酬は頭割り』という話は聞いていた。
だがそれはクロノス中を探してもない、好条件である。
冒険者たちが集まって結成した『クラン』ならば、そういう条件もあるのだろう。
だが、ダナンはクランに入れるほどランクが高いわけでも、知名度があるわけでも、仲間がいるわけでもなかった。
だからユートが出した条件は、ダナンにとって絶好と言えるものだった。
それだけに、逆に疑っていた。
『本当は頭割りなんてしないんじゃないか』と……。
しかし、実際に報酬を受け取る際、ユートはきっちり報酬総額を3等分にした。
その分配には、ギルドも間に入っていた。
(具体的には報酬の計算を手伝って貰っただけだが……)
一度のパーティ参加で、5100ガルドも手に入れたのは、ダナンにとって初めての経験だった。
この調子でユートのパーティに参加し続けられたなら、そう遠くない未来に百万ガルドに手が届く。
(そうしたら、タクムを助けてやれる!)
ダナンが神殿前広場に到着すると、既にユートが待機していた。
ユートに近づき、ダナンは手を上げる。
「おうユート。今日もヨロシ――」
「ダナンさんッ!!」
「クゥ――!?」
ユートが恐るべき速度で近づき、ダナンの肩を掴んだ。
彼の目は赤い。
(まさか、なにか問題が発生したのか?)
パーティが続けられなくなる不安に、ダナンの背筋が凍り付いた。
そんな不安は、
「聞きましたよ、ダナンさん」
「んん?」
「僕……僕……感動しました!!」
「…………はいぃ?」
ユートの目から、ダバーッと涙があふれ出した。
号泣とも言って良いほどの涙を流すユートの姿に、一気に砕け散ったのだった。
「感動って、ちょっと待て。何がどうしたんだよ?」
「タクム君のことです! タクム君の病気を治すために、お金を貯めてるんですよね?」
その台詞を聞いたダナンは、内心舌打ちをした。
ダナンはタクムの話を、ユートには一切伝えていない。
しかしユートは、タクムの病気について知っていた。
「エリスの奴から聞いたのか」
ダナンはすぐに、ユートに情報を漏らした奴の見当がついた。
ダナンは以前、下町の聖女として噂になっていたエリスに一度、タクムの病気を診て貰ったことがあった。
彼女にヒールをしてもらえば、もしかしたらタクムが治るんじゃないか。
そう思っていたが、結果はヒールさえしてもらえなかった。
それはタクムの病気が、魔力病だったためだ。
魔力を使用して傷を癒やすヒールは、魔力病を悪化させる可能性があるのだ。
その一件で、タクムの病状はエリスの知るところとなった。
「どうして教えてくれなかったんですか!?」
「いや……だって、みっともないだろ……」
ダナンがユートに事情を打ち明けられなかったのは、兄としてのプライドがあったからだ。
『タクムの治療費が欲しいので雇ってください』
こんな、タクムを出汁に使うような台詞は、口が裂けても言えなかった。
仲の良い相手なら良い。
だが、ユートは昨日初めてパーティを組んだばかりだ。
そんな相手に、同情を引くような真似が出来るほど、ダナンは落ちぶれてはいない。
それでも、ユートに隠し事をしていたのは事実だ。
僅かな背徳感が胸を差し、ダナンは顔を背けた。
そのダナンの手を、ユートがぎゅっと握りしめた。
「そんなことないです! ダナンさんは、立派です!!」
「え、あっ、いや……」
「やりましょう、ダナンさん。一人じゃだめでも、僕らがいます。パーティみんなの力を合わせて、100万ガルドを貯めるんです!!」
「えぇえ……」
気持ちよさそうに高らかに宣言したユートに、ダナンは呆然とした。
そんなダナンの脳裡には一言、
『エリス、早く来い!』
この言葉だけが浮かんでいたのだった。
○
「ユートさん、お・ち・つ・く・です!」
少し遅れて合流したエリスに裾を引っ張られ、優斗はダナンからやっとその手を離した。
(少し、熱くなりすぎた……)
優斗は反省する。
しかし、熱くなるのも無理はない。
優斗にもまた、血の繋がらない弟妹たちがいたからだ。
優斗はかつて、孤児院で暮らしていた。
優斗の下には食欲旺盛でやんちゃ盛りな弟妹たちがいた。
優斗と弟妹たちは、血が繋がっていない。
けれど優斗は彼ら彼女らを、実の弟妹のように思い接していた。
8歳になった優斗は孤児院から出て行った。
口減らしのためだ。
孤児院は決して裕福ではなかった。
毎日誰か彼かが、お腹を減らして泣いていた。
後ろ盾のない孤児院では、沢山いる子ども達に十分な食事を与えることが出来なかったのだ。
お腹をすかせた弟妹を見かねて、優斗は自ら進んで孤児院を出た。
自分が食べる分の食事を、みんなが食べられると考えて。
そんな経歴を歩んできたため、優斗はダナンの境遇に、強く感情移入してしまった。
それに優斗はこうも考えていた。
『百万ガルド稼げというクエストは、このためにあったんじゃないか?』と……。
優斗にとって、クエストはクリアしなければならないハードルである。
もしそのハードルを超えた先で、ステータスアップだけでなく、ダナンの弟を救える未来があるのなら……。
優斗は喜んでハードルに挑戦する。
「ということでエリス。僕もダナンさんの目標を手伝うことにしたから!」
「なにが『ということ』なのかわかりませんが、わかりました、です」
「おいっ!」
エリスが了承したところで、ダナンが声を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます