第50話 おかしなひと
「ユート、来たぞ!」
「はいっ!」
前方から、黒い狼が三匹現われた。
11階の魔物――ブラックハウンドだ。
優斗はすらり刀を抜いて、身体能力強化を展開する。
僅かに右足を引き、地面を蹴る。
ぐんっ、と体が急加速。
瞬く間に、優斗はブラックハウンドを間合いに捕らえた。
そこで、一閃。
ブラックハウンド一体の首が、音もなく切断された。
続けざまにもう一撃。
その攻撃に、ブラックハウンドが反応。
しかし中途半端に回避しようとした結果、胴体が泣き別れた。
優斗が二体のブラックハウンドを倒している間に、残りの一体が優斗に口を向けた。
その奥から、ちらり赤い炎が見えた。
次の瞬間。
――ゴウッ!
優斗の鼓膜を、炎の音が震わせた。
「ユートさんっ!」
エリスが切迫したような声を発した。
その手には、既に魔力が溜まっている。
優斗を救うべく、ヒールを発動するつもりなのだ。
そんな彼女に、優斗は言う。
「あっ、大丈夫。ヒールはいらないよ」
「……へ?」
優斗はブラックハウンドの炎に飲まれた。
それは、誰しもが優斗の大やけどを覚悟するほどの炎だった。
しかし、優斗はなんの痛痒も感じなかった。
辛うじて、暖炉の前にいる程度の暖かさは感じた。
だが、それだけだった。
いつまで待っても、優斗に痛みはやってこなかった。
(そっか、抵抗力レベル4って、こんなに効果があるんだ。……すごい)
ブラックハウンドの炎は、魔術攻撃だ。
その炎に耐えられているのは、優斗が以前抵抗力にスキルポイントを振り分けたためだ。
この抵抗力が、ブラックハウンドの炎を見事にはね除けたのだった。
しかし、まさかここまで効果が高いとは、優斗は想像していなかった。
優斗がダメージを受けなかったのはそれだけではない。
身体強化の魔術を展開していたためだ。
身体強化は文字通り『身体能力を強化する』魔術である。
それは基礎スキルの『全能力強化』と同等の性質を持っているのだ。
抵抗力レベル4の肉体に、さらに優斗は魔術で身体強化を上乗せした。
優斗が魔術的ダメージを受けなかったのは、そのためである。
(まあ、ブラックハウンドの魔力が高くないせいもあるんだろうけどね)
ブラックハウンドにとって、炎はサブ攻撃だ。
メインはあくまで爪と牙である。
今回まったく痛みを感じなかったのは、ブラックハウンドの魔力そのものが、さして高くなかった結果だと優斗は推測した。
そんなことを考えながら優斗は、意地になって炎を吐き続けるブラックハウンドを両断した。
「よしっ!」
「よし――じゃねぇよ! なんなんだよお前!?」
すぐ傍にいたダナンが顔を引きつらせた。
優斗はきょとんとして首を傾げる。
「……えっ?」
「えっじゃねえって……。なんで炎を浴びてピンピンしてんだよ。早速死んだかと思ってひやひやしたじゃねぇかよ」
「ああ、それは、すみません。以後気をつけます」
優斗は素直に謝罪する。
炎を浴びたのは、間違いなく優斗の不覚である。
今回はたまたまダメージがなかったが、優斗にダメージを与える魔物は必ず存在する。
相手からの攻撃は、受けないに越したことはないのだ。
「ユートさん、怪我はない、です!?」
「大丈夫だよ」
「えっあっ……本当、です。火ぶくれすらない、です……?」
優斗に駆け寄ってきたエリスが、優斗の体中をペタペタ触り、首を傾げた。
まるで不思議な生物でも見るような目つきで、彼女は優斗をマジマジ眺めた。
「……おかしいです。ユートさんは、変です」
「いやいや」
「変だな」
「……」
エリスの言葉を否定するが、ダナンが追従したため優斗は黙った。
戦況は二対一。勝ち目はない。
「――さっ、次に行こう!」
「「…………」」
仲間たちからの厳しい視線を浴びながら、優斗はダンジョンの奥へと向かうのだった。
○
「やっぱり、こいつはおかしい」
「です。ユートさんは、おかしいです」
「うう……」
二人に言葉を刺されながら、優斗は転送の間から戻って来た。
二人がここまで打ち解けている原因は、優斗にある。
炎を浴びてもダメージを負わず、1階毎に100匹の魔物を倒す。
最後は15階のボスであるトロルメイジを討伐して終了したのだが、そのメイジの魔術を切り裂いたのが、ダメ押しになったようだ。
(でも、ああでもしなきゃ絶対魔術を食らってたしなあ……)
トロルメイジは、部屋に入るなりファイアボールを放ってきた。
遠くにいる間は余裕を持って回避出来たのだが、攻撃を与えてから戦況が一変した。
先手でダナンが針を投げ、メイジの目を潰した。
これで相手の視界を潰した。
勝利を確信した優斗だったが、これにメイジが逆上した。
なんとメイジが、優斗に向けてファイアボールを連発してきたのだ。
これを避けることが出来ず、優斗は刀でファイアボールを切り裂く他なかったのだった。
メイジはというと、ファイアボールの連発で大量に魔力を消費。
優斗が攻撃する前に、あっさり自滅したのだった。
なんとも閉まらない最後である。
しまりが悪かったこともあり、矛先が優斗へと向いていた。
集めた魔石をギルドに買い取ってもらう。
本日の成果は、15300ガルド。
一人当たり5100ガルドになった。
「……まじで、頭割りでいいのか?」
「もちろんです。ダナンさんがいたからこそ、僕らは無事罠に掛からず帰還出来ましたから」
「マジか……いや、マジか……」
斥候職は、荷物持ちの次に分配が少ない。
これはどのパーティでも同じだ。
けれど優斗のパーティでは、基本的に分配は頭割りである。
初めて頭割りで成果を分配することに、ダナンは困惑しているのだ。
「ダナンさん、明日も手伝って頂けますか?」
「あ、ああ。オレからも是非頼みたいと思ってたところだ」
ダナンの言葉に、優斗はわあ、と歓喜する。
今回のパーティで『お前達のパーティとは合わない』と言われる可能性があったためだ。
パーティの相性は非常に重要だ。
いくらその冒険者が気に入っていても、実際にパーティに入って、その中で動いてみて、呼吸が合わなければパーティは組めない。
冒険者は命をかけている。
たとえ臨時とはいえ、パーティ選びはかなりシビアに行う者が多い。
『このパーティに命は預けられない』
ダナンがそう思ってしまったら、優斗は彼を引き留めることは出来なかった。
だから、彼が臨時パーティの継続を引き受けてくれて良かったと、ほっと胸をなで下ろす。
ダナンの背中が街の中に消えた頃、優斗はエリスに切りだした。
「それで、エリス。ダナンさんの弟について、教えて貰えるかな?」
「わたしが知ってることだけですが……はい、です」
>>クエストをクリアしました。
>>レベル26→28
>>スキルポイント:0→5
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(6月30日頃より順次店頭に並び始める予定です)
イラストレーターは「かやはら」様が担当です。
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イラストはもうすぐ公開出来ると思いますので、今しばらくお待ちくださいませ。
また、小説の発売に先立ちまして、スマホアプリ「講談社マガジンポケット(マガポケ)」にて、6月25日より漫画の連載がスタートいたします。
漫画家は「加納寛人」様です。
こちらも、恐ろしくハイレベルな仕上がりになっておりますので、皆様是非マガポケにてご覧くださいませ!
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