第39話 孤狼のテミス

 小説家になろうの方で沢山評価して頂き、本日も日間総合1位にランクイン致しました。

 読者様の支援にお応えし、本日も臨時アップいたします。



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「この鑑定は、間違ってる、です!!」

「……えっ?」

「ユートさんは、レベル1なんかじゃないです。レベル1じゃ、Cランク冒険者にはなれない、です。この鑑定が、間違いなんです!!」

「ま、まあまあ。エリス、落ち着いて……」


 涙を浮かべて大声を上げるエリスを、優斗は必死に宥める。

 エリスが『鑑定は間違い』だと口にしたのは、優斗にとって嬉しいことだった。


 優斗はエリスの前で、何度も戦っている。

 彼女はそれを評価してくたということだから。


 しかし、まさかエリスがここまで怒るとは、優斗は考えもしなかった。

 また、祈りの間で『鑑定が間違い』だと大声を上げるのはまずい。


『うちの鑑定に文句つけんのか? ああん?』

 そう言うかのように、祈りの間を管理している神官が、優斗らに厳しい視線を向けている。


 さすがにこのままではまずい。

 そう思った優斗が、エリスを連れて退出しようとした、その時だった。


「ここでレベル1だって鑑定されなら、そいつは間違いなくレベル1なんだよ」


 ある冒険者が、挑発するように声を発した。

 その冒険者は祈りの間の出入口に背中を預け、優斗らを睨み付けていた。


(ん……見覚えのある人だな)


 優斗は自らの記憶を辿る。

 すると、すぐに名前を思い出した。


「こんにちは、テミスさん。祈りの間で騒いですみません」


 優斗らを睨んでいるのは、狼人族のDランク冒険者テミスだった。


 一部では孤狼という二つ名で囁かれているテミスは、ソロ専門の冒険者だ。

 実力は、もうすぐCランクになると噂されて久しい。

 たった独りでDランクのインスタンスダンジョンを、安定してクリアする程の腕前を持っている。


 現在はソロで活動しているが、昔からソロだったわけではない。


 テミスがパーティで活動していた頃、優斗は一度テミスと同じパーティに加わったことがある。

 無論優斗は、荷物持ちとしてだ。


 既に何年も前の話だ。

 その頃からテミスは、Dランクの冒険者だった。


「鑑定は、神が診断すんだ。ステータスの鑑定は嘘を吐かない。間違うのはいつも人間だ。そいつが鑑定で|レベル1(むのう)だってんなら、間違ってんのはギルドの査定だろ」

「ち、違います、です。ユートさんはちゃんと、Cランクの基準をクリアしてる、です! ギルドの依頼だって、ちゃんとクリアしたです!」


 興奮して食ってかかるエリスに、テミスがふんっと鼻を鳴らした。

 長い尻尾が、挑発的に横に揺れる。


「どうせギルド職員に大金を握らせたんだろ? ギルドの依頼は、買い取った魔石を納品したとか」

「ち、違うです!!」

「まあまあ」


 さらにヒートアップするエリスを抑え、優斗は間に割って入った。


「テミスさん。残念ですが、僕はギルド職員を買収なんて出来ませんよ」

「けっ。どうだか」

「だって、そんなお金ありませんから」

「…………」


 優斗が事実を口にすると、テミスはばつが悪そうに視線を逸らした。


 テミスは優斗を知っている。

 ならば、優斗が万年金欠であることも熟知しているはずなのだ。

 なぜなら優斗はずっと、荷物持ちとして働いていたから。


 荷物持ちの雇用料は、基本的にパーティの稼ぎの1%から5%が相場だ。

 といっても5%出してくれるパーティは非常に少ない。


 大抵が1%だ。

 そんな稼ぎしか得られない荷物持ちだった優斗が、ギルド職員を買収出来るほどの大金を手にしているはずがないのだ。


「それじゃあテミスさん、失礼します」


 テミスの前を横切ろうとしたときだった。


「…………おい最弱。お前が嘘じゃねえってんなら、オレと勝負しろ」

「……は?」


 優斗はテミスに、勝負を持ちかけられた。




(なんでこんなことになったのかなあ……)


 優斗は手にした木剣を眺めながら、ため息を吐き出した。


 事の発端は、テミスの発言である。


『オレと勝負しろ』


 当然、その話を素直に受ける優斗ではない。


 そもそも冒険者の力は、魔物に対して向けるものである。

 人に対して向けようなどと、優斗は考えたこともなかった。


 断ると、テミスはさらに続けた。


『逃げんのか』

『逃げるってことは、怖いんだろ?』

『自分が最弱だってバレるから』

『やっぱりCランクは不正に手に入れたんだな』


 誰になにを言われようと、事実は変わらない。

 テミスの発言を、優斗は笑って聞き流した。


 しかし、ここでエリスが激昂した。


『ユートさんは強いです! 絶対に不正じゃないです!!』


 こうして優斗は意見を口に出来ないまま、決闘の話が決まったのだった。


 現在、優斗らがいるのは神殿の横にある草むらだった。


 この草むらは神殿の真横ということでかなり立地が良い。

 しかし、現在まで冒険者向けの屋台すら建ったことがない。

 ここにお店を構えれば、確実に冒険者を大量に取り込めるというのに、だ。


 店が建たないのは、草むらのすぐ横にある大きめの池のせいだ。

 この池が雨の度に氾濫を繰り替えすため、商人も店を構えることがない。


 さておき、神殿からかなり目立つ場所であるため、優斗は朝一番にダンジョンに向かおうとしている冒険者の好奇の視線に曝されている。


 中には愉快なイベントが始まるのかと、草むらに集まってくる冒険者もいる。

 準備をしているあいだに、優斗とテミスを囲むように人だかりが、あれよあれよと増えて行った。


 そんな中、優斗は悩んでいた。


(この木剣で攻撃しても大丈夫なのかな……?)

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