第31話 クエスト&ダンジョン攻略

「どうしたのエリス?」

「い、いえ……。あの、なんだか、レベルが上がったような気がした、です。でもたぶん、気のせい……です」


 不思議そうに何度も首を傾げるエリスを眺めながら、優斗は胸の内でガッツポーズを掲げていた。


(やった! 想像した通りだった!)


 優斗は6階に向かう道中で、今朝方見つけたパーティ結成画面の確認を行っていた。


 パーティの画面では、優斗の近くにいる者とパーティを結成することが出来た。

 現在優斗は、エリスとパーティを組んでいる。


 スキルボードがなくても、パーティは結成出来る。

 本人同士が了承の下、共にダンジョンに潜ればもうパーティだ。


 なので、優斗はこれが単なるパーティ結成とは違うものだと想像した。

 その想像を裏付けるかのように、エリスがレベルアップを体感した。


 このことから優斗は、スキルボードによるパーティ結成が『パーティに登録したメンバーに、無条件に経験値が配分される』ものだと考えた。


 だとするなら、恐ろしい機能である。


 通常のパーティでは、魔物に攻撃を与えた者しか、討伐経験値が入手出来ない。

 一人でゴブリンを倒せば一人だけ、三人で倒せば三人が経験値を取得出来る。


 パーティとして討伐に参加していても、魔物にダメージを与えなければ、討伐経験値が入らない。


 回復術師であるエリスは、攻撃手段を持たない。

 そのため通常のパーティでは、ヒールを発動した時の鍛錬経験値以外、彼女は入手出来ないのだ。


 多くの回復術師が、一定のタイミングで壁に阻まれる。

 スキルだけでは魔力総量が頭打ちになるため、高レベルの戦場に付いていけなくなるのだ。


 そのため、壁に当たった回復術師は仲間にサポートされながら、弱い魔物を倒してレベリングする。

 時々ベースダンジョンでは、低ランクの魔物を倒してレベリングする高ランク回復術師の姿が見られるほどだ。


 エリスは現在Cランクの冒険者だが、回復術師だ。Cランクの平均より相当レベルが低いと想像出来る。

 それこそ、ゴブリンを数十体倒すだけでレベルアップしてしまうほどに……。


 通常では、戦闘でレベルアップ出来ない回復術師が、パーティに登録するだけでレベルアップ出来るようになる。

 また、一切戦闘に携わらなくても経験値が分配されるため、安楽椅子レベリングも可能だ。


 スキルボードによるパーティ結成は、これまでの常識を覆すようなシステムだった。


 優斗はいくら魔物を倒しても、通常の方法ではレベルが上がらない。

 無駄になっている討伐経験値を、エリスに分配することが出来る。


(パーティ結成ってすごいなぁ……!)


 恩恵があるのは、クエストをクリアする自分だけではない。

 エリスにもちゃんと恩恵を与えられている。


 自分が頑張れば頑張るほど、エリスのレベルが上がっていく。

 そのことが嬉しくて、優斗はゴブリンをガンガン退治していく。



「あのぅ、ユートさん……。どうしてそんなに、魔術を連発してる、です?」

「えっ?」

「そのぅ……Eランクの魔物にその強い魔術は、もったいない……です」

「あ、あー、えーと、こ、これは魔術の練習だよ! スキルレベルが上がらないかなーと思って!」

「そう、なんです……?」


 エリスに尋ねられた優斗は、自らの目的を説明する。

 ――無論、これも嘘である。


 優斗は魔術クエストの消化を行っていた。


 一度に魔術を百回使うのは一苦労だ。

 しかし魔物を倒しながら、適宜魔術を発動していけば、いつの間にか魔物討伐クエストも魔術使用クエストも、両方終わっているという寸法である。


 いままで出来なかった効率的なクエスト攻略を、優斗は嬉嬉として実践していた。

 しかし、その姿が普通の冒険者の狩りから少し逸脱してしまっていたため、エリスに疑問を抱かれてしまったようだ。


(も、もう少し控えめにするか……)


 優斗はエリスに不信感を抱かせぬよう、魔術の使用頻度を落とすのだった。



 優斗は各階で、出現する魔物を(魔術を交えながら)100匹ずつ討伐していった。

 5階でゴブリンキングを討伐し、優斗らは6階にたどり着いた。

 6階からはいよいよ、Dランクの魔物が出現する。

 ここからが本番だ。


 6階にたどり着いたあと、優斗らは転送部屋に向かった。

 エリスのカードに転送ポイントを記録する。


「ユートさん、ありがとうございます! これで、6階に転移できます、です!」

「それじゃあ、今日は帰ろうか」


 各階で100匹ずつ討伐してきたおかげで、ずいぶん時間が経過している。

 いまからDランクの魔物の討伐を始めても、すぐには終わらない。

 無理にDランクの魔物の討伐を行うよりも、今日は一晩気力を充填して、明日の朝から始めた方が良い。


 転送部屋を用いて地上に戻り、手にした魔石を販売した。

 魔石は全部で1万ガルド。一人当たり5千ガルドになった。


「だ、だめです! 魔物は全部ユートさんが狩った、です。わたしは今回ヒールもしてない、です」

「でも、僕らはパーティだから、ね?」


 嫌がるエリスに、無理矢理5千ガルドを握らせる。


 通常のパーティの分配は、貢献度制だ。

 攻撃を一番受ける職、魔物を一番倒した職が、分配率が高い。

 逆に罠を発見する斥候や、出番の少ない回復術師は、分配率が低い。


 しかし、優斗は貢献度によって分配に差を付けたくなかった。

 最も安い金額で雇われていた荷物持ちだったからこそ、そう思う。


 お金がなければ、お腹が減るのだ。

 優斗はエリスに、ひもじい思いをして欲しくなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る