第30話 Cランクを目指して

 先日、Cランクのインスタンスダンジョンをクリアした優斗らは、ギルドのカウンターで素材の販売を行った。


 通常であれば、素材販売と同時に優斗の冒険者ランクが上昇するはずだった。


 特に優斗はBランクのミスリルゴーレムを討伐している。

 冒険者ランク上昇には十分な実績である。


 しかし、現在優斗は未だ、Dランクの冒険者のままだ。


「ユートさん、おはようございます、です!」

「おはよう、エリス」


 広場でエリスと合流し、優斗らは神殿に向かう。


「エリス。今日はギルドの依頼を引き受けようと思うんだけど、いいかな?」

「はい、です。Cランクになるために、依頼は大事、です」


 実績は十分ある。

 それでも優斗がCランクに上昇しなかったのは、ギルドへの貢献度が足りなかったためだ。


 冒険者はギルドによってランクが管理されている。

 Dランクの冒険者までは、自分のことだけを考えて冒険出来る。


 だがCランク以上の冒険者となると、ギルドを通じた社会貢献が義務づけられるのだ。


 クロノスは迷宮都市として栄えた。

 人口50万とも100万とも言われるこの都市の住民に、冒険者が無条件に受け入れられているわけではない。


 冒険者は、人知を越えた力をその身に宿す。

 強い冒険者ならば、張り手一つで人体をバラバラにすることだって出来るのだ。

 非力な者からすれば、冒険者は言葉が通じる魔物のようなものである。


 そのような者達と、非力な一般人が共に生活出来ているのは、ギルドのおかげだった。

 ギルドが社会貢献を行うことで、住民からの信頼を勝ち取ったのだ。


 ベースダンジョンのより奥深くに潜るためには、冒険者ランクを上げる必要がある。

 ランクが上がらないと、転送ポイントが浅い層のまま更新出来ないためだ。


 そのためCランクより上を目指す冒険者は皆、折を見てギルドの依頼をこなしていく。


 これまで優斗は、ギルドの依頼を受けたことがなかった。

 というのも、少し前まで優斗はEランクの冒険者だったためだ。


 Dランクに上がるためにギルドへの貢献は必要なかったし、そもそもギルドに貢献出来るほどの力もなかった。


 神殿に入った優斗らは、早速依頼票が張り出されているギルドスペースへと赴いた。


「どんな依頼があるんだろう? 折角だから稼げる依頼がいいなあ」

「Dランクだと、あまり割の良い仕事はない、です」


 ワクワクする優斗に、エリスが申し訳なさそうに言った。

 たしかに、と優斗は思う。


 ギルドの依頼は社会貢献なのだから、割の良い依頼などあるはずがないのだ。


 依頼を片っ端から眺めていった優斗は、ある依頼に目が留まった。


「おっ、これなんていいかもしれないね」


 優斗が発見したのは、Dランクの魔石納品依頼だった。


 魔石はクロノスにおいて、様々な形で利用されている。

 街灯や浄水、調理に鍛冶など。

 他にも、魔術スクロールに用いるインクを作るのにも利用されている。


 その魔石をギルドに納品することで、社会に対する一定の貢献と見なされるのだ。


 もちろん、依頼は社会貢献であるため、収める魔石に値段は付かない。

 依頼料が出るだけだが、それだって通常の魔石を販売するより圧倒的に安い。


「良いとは思うです。でも、結構時間がかかりそう、です」


 Dランクの魔石の納品数は千個。魔物千体分だ。

 普通に行えば、パーティで一週間はかかる依頼である。


 しかし優斗は以前に、魔物を千体倒した経験がある。

 以前はEランクの魔物だったが、優斗はレベルが上がった。Dランクの魔物でも、あまり時間をかけずにクリア出来るだろうと考える。


「時間なら大丈夫だよ。一歩一歩地道に積み重ねれば、いつかは絶対終わるから」

「そう、ですね!」


 優斗は依頼書を手に取り、カウンターに向かう。

 カウンターで手続を行った後、すぐにベースダンジョンへと降りて行った。



「あ、あのぅユートさん」

「んん、なに?」

「1階から移動するのはわかる、です。わたしが、まだ6階に行けないから……」


 Dランクの魔石を集めようとするなら、Dランクの魔物を討伐する必要がある。

 Dランクの魔物は、6階から出現する。

 なので通常の冒険者は、神殿にある転移の間から、直接6階へと向かう。


 しかし、エリスはまだ6階の転送部屋をギルドカードに登録していない。そのため、1階からスタートするしかないのだ。


「ごめんなさい、です」

「いや、気にしなくていいよ。僕も1階からスタートしたかったから!」

「そう、なんです?」


 エリスがこてんと首を傾げた。


「じゃあ、もう一つ聞く、です。どうしてゴブリンを倒してる、です? 集めるのは、Dランクの魔石だったはず、です……」


 ダンジョンに降りたあと、優斗は1階に出現するゴブリンを片っ端から討伐していた。


 ゴブリンをいくら倒してもDランクの魔石はドロップしない。

 なので、ギルドの依頼だけを考えれば、優斗の行動は無意味である。


「せ……折角だから、Eランクの魔石も集めて、新しい防具を購入する資金の足しにしようと思ってね」


 優斗は明後日の方を見ながら説明した。

 もちろん、その説明は嘘である。


 優斗は6階に移動するついでに、各種魔物の討伐クエストをクリアしたいだけである。

 それと、もう一つ。


「んぇっ? あ、あれ……?」


 ゴブリンを倒していると、エリスが奇妙な声を上げ僅かに飛び上がった。

 剣を鞘に収めながら、優斗は振り返る。


「どうしたのエリス?」

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