第二部 大切なものを守るために

第29話 2部プロローグ

 武具店プルートスで、番頭のマリーと回復術師のエリスの言い争いが勃発した後。

 優斗はクタクタになって自宅へと戻った。


 ミスリルゴーレムと戦った時、優斗がもっと防御力のある防具を装備していれば、回復術師であるエリスに負担を掛けずに済んだ。

 また、今後より格上の相手と戦うのであれば最低限、属性攻撃に対応出来る防具を揃えておかねばならない。


 新しい防具の購入は喫緊の課題である。

 しかし優斗は、一旦防具の購入を棚上げした。


 というのも、優斗にはお金がない。

 万年金欠生活を続けている。


 今回、優斗はCランクのインスタンスダンジョンをクリアして、多少の収入を得た。

 だがあくまで多少だ。

 それだけでは、新しい防具の購入費用としてはあまりに少ない。


 そう伝えると、マリーとエリスが『自分がお金を出す』と言い出した。

 しかし、努力して貯めたお金で武具を購入することは、冒険者としての醍醐味の一つである。


 目標を設定し、クリアするために努力をする。

 努力して目標をクリアして手に入れたアイテムは、宝物になる。

 何故ならそれは、自分の努力の結晶だからだ。


 ――そう、優斗は時間を掛けて二人を説得し、今に至る。


「疲れたぁ……」


 ダンジョンでの疲労が溜まっている。

 優斗はベッドに倒れ込む。


 うつらうつら。瞼が重くなっていく。

 このまま眠ってしまいそうだ。

 だが睡眠の誘惑を振り切り、優斗はスキルボードを取り出した。



○優斗(18)

○レベル19→21

○スキルポイント:0→5

○スキル

・基礎

 ├筋力Lv4

 ├体力Lv3

 ├魔力Lv2

 └敏捷Lv3

・技術

 ├剣術Lv4

 ├魔術Lv2

 └気配察知Lv2

・魔術

 <ライトニングLv2>

・特技

 【急所突き】【破甲】NEW


「おお!?」


 スキルボードを見た優斗は喫驚した。

 スキル一覧が、色々と変化している。


 レベルとスキルポイントの上昇は、インスタンスダンジョンのクリアによって、チェインクエストや緊急クエストをクリアしたためだ。


「破甲ってなんだろう?」


 優斗は首を傾げた。


「そういえば、最後にミスリルゴーレムを斬った時、まるで手応えがなかったな……。あれはこの特技のおかげだったのか」


 優斗はその名称と戦闘中の実感から、【破甲】が『相手の防御力を破る』特技だと推測した。


 しかし、この特技が得られた理由がわからなかった。


 素振り千回で剣術スキルを。魔術スクロール百枚使用では魔術を覚えた。


 そのことから、優斗は『新しいスキルは、クリアするクエスト内容に関わりがあるもの』だと考えている。


 しかし【破甲】の効果は、チェインクエスト『パーティとともにインスタンスダンジョンをクリアせよ』や、緊急クエスト『少女を救え』になんら関わりはない。


「うーん。となると、知らないうちにクエストを攻略してたのか」


 以前も度々、優斗は気づかないうちにクエストをクリアしていたことがあった。

 一覧に出ないタイプのクエストか、あるいは緊急クエストのように突発的に出現するクエストがあるのだ。


 ただ、それを確かめる術はいまのところない。


「もしかしたら、クエスト報酬が入ってるかもしれないな」


 以前、覚えのないクエストの報酬がインベントリに入っていたことがあった。

 それを思い出し、優斗はインベントリを表示する。

 すると、そこには見覚えのある袋が表示されていた。


「もしかして、これって……」


 記憶を思い起こしながら、優斗は袋をタップする。


「ああ、やっぱりレベルアップ報酬だ!」


 タップして浮かび上がった名称を見て、優斗は膝を拍つ。

 そこには『レベル20達成報酬』と書かれている。

 以前レベル10に到達したときに、貰った報酬と同じだ。


「……もしかして、お金が入ってるなんてことはないよね?」


 優斗は恐る恐る、袋を取り出した。

 以前はずしりと重たかったが、今回の袋は非常に軽かった。

 どうやらお金ではなさそうだ。


 優斗は袋を開き、中身を確かめる。


「……ん、指輪?」


 中から出て来たのは指輪だった。

 指輪には小さな石が填まっている。

 石は埋め込み型で突出していない。指でなぞってみても、指輪と石の境目がわからないほどだ。


「見たところ、普通の指輪だけど……」


 名称を確認しようと、優斗は指輪だけをインベントリに収納する。

 インベントリに表示された指輪をタップした。


「腕力の指輪っ!」


 表示された名称を見て、優斗は僅かに腰を浮かせた。

 早速インベントリから取り出し、人差し指に填めた。


 指輪は、かなりブカブカだった。

 だが優斗が指輪を填めると、みるみる縮まっていった。


「やっぱり、体力の腕輪とか、鞘と同じなんだ」


 優斗は天井に手を上げ、まるで光に透かすかのように指輪を眺める。

 指輪を装備してすぐに、腕力が上昇した感覚はなかった。

 それは優斗が現在、部屋でくつろいでいるためだ。


 魔物の討伐や荷物の運搬などを行えば、すぐにその効果が実感できるはずだ。


「それ以外は、なにもなし……と。結局、破甲が手に入ったクエストはわからないかあ」


 なにはともあれ、新たな特技が出現した。

 おまけに筋力の指輪まで手に入った。

 いずれも優斗にとって、非常に相性の良い特技とアイテムだ。

 優斗はなにがクリアしたのかは気になったが、これ以上を求めるのは欲張りすぎである。


 次に優斗は指を滑らせ、クエスト一覧を表示した。


○ベースクエスト

+各種モンスターを100匹倒せ

・魔術を100回使え(0/100)

・防具を新調せよ(0/1)

・魔物をテイムせよ(0/1)

・大量の荷物を運搬せよ(0/1000kg)

・ベースダンジョン10階に向かえ

・魔術を100回受けろ

・攻撃を100回受けるor躱せ

・100万ガルド稼げ(0/1000000)

・Dランクのインスタンスダンジョンをクリアする


「おおーっ!!」


 新しいクエストの出現に、優斗は目を輝かせた。


「あれっ、そういえばインスタCに潜ったときは、ベースクエストは空っぽだったっけ」


 Cランクのインスタンスダンジョンに向かったとき、クエスト一覧にはベースクエストが存在しなかった。

 しかし現在は、非常に多くのクエストが表示されている。


「レベルが20になったからかな? もしくは、クエストクリア数が一定以上になったとかかなあ」


 どちらの可能性も考えられる。

 いずれにしても、すぐにはクリアしきれないだけのクエストが新たに出現した。


 優斗は通常の方法ではレベルアップも、スキル取得も出来ない。

 強くなるためには、このクエストをクリアしていくしかない。

 なのでクエストの大量出現は、非常にありがたかった。


「ん、そういえばこの『各種モンスターを100匹倒せ』だけ表記が変だなあ」


 優斗は試しに、各種モンスターを100匹倒せをタップする。

 すると、クエスト一覧が突如下に伸びた。


・各種モンスターを100匹倒せ

 ├ゴブリン(0/100)

 ├キルラビット(0/100)

 ├コボルド(0/100)

 ├ホースバット(0/100)

 …………

 ……

 …


「なるほどそういうことか!」


 その一覧を見て、優斗は納得する。

 各種というのは、文字通りダンジョンに生息する魔物全種類のことだった。

 その一覧が、『各種モンスターを100匹倒せ』に格納されていたのだ。


「もしかしてこれ、1つ1つが報酬の対象になる……?」


 だとするなら、かなりのクエスト報酬が期待出来る。

 さすがに、クエスト1つあたりの報酬は、リピートクエストの千匹討伐よりは少ないはずだ。

 それでも優斗にとって、少しでも成長出来る可能性が生じたのは嬉しかった。


「~♪ なにからクリアするかなあ!」


 クエスト一覧を眺めながら、明日の予定や強くなった自分の姿を想像し楽しんでいた優斗は、体に残った疲れもあり、いつの間にか眠ってしまったのだった。



 太陽が昇ると目を覚まし、すぐにデイリークエストに挑戦する。

 初めはクリアするまで2時間はかかっていたクエストだったが、いまでは1時間もせずにクリア出来るようになった。


 デイリークエストを終えて、優斗はスキルボードを確認する。


「うーん。レベルもスキルポイントも変化なしか」


 デイリークエストを全てクリアしたが、レベルもスキルポイントも上がらなかった。

 これは優斗のレベルが、それだけ上昇したためだ。


 腕立てや腹筋などはあくまで基礎トレーニングだ。

 それだけでいつまでもレベルやスキルポイントが必ず上昇するほど、現実は甘くはないのだ。


 がっかりした優斗は気を紛らわせるために、スキルボードを指でさらさらなぞる。

 画面がクルクル変化した、その時だった。


「――ん!?」


 優斗は見慣れぬ画面を発見し、指を止めた。

 初めて見る画面を見て、優斗は目を瞬かせる。


「……なんだ、これ!?」


 スキルボードに表示されたのは、パーティ結成画面だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る