第28話 後日談
その後の話だ。
冒険者の噂話で、優斗は自分がインスタンスダンジョンに飛び込んだあと、千刃のクラトスが動いていたことを知った。
彼が動いた理由は、優斗も納得出来るものだった。
冒険者の活動の多くは、明文化されていない暗黙の了解の上に成り立っている。
その了解がなければ、誰も気軽にパーティが組めなくなってしまう。
神殿前で毎朝行われているパーティ募集の光景も、なくなってしまうに違いない。
それはとても寂しいことだと、優斗は思う。
冒険者は、様々な目標を抱えてダンジョンを探索する。
名声を手に入れる。強い魔物を倒す。レアな装備を手に入れる。お宝を手に入れて億万長者になる。
けれど、それだけがダンジョンの醍醐味ではない。
その時々で、違う仲間と探索すれば、同じ風景を歩いても、違う発見がある。
それも冒険の醍醐味だ。
そんな風に考えられるようになったことに、優斗は気がついたのだった。
太陽が昇り、大通りが労働者たちで活気づき始めた頃。
優斗は武具店プルートスを訪れていた。
「それでぇ? ミスリルゴーレムにフルボッコされたユートさぁん。いまさら良い防具が欲しいって、ちょおっと危機管理が足りないんじゃなーい?」
「……面目次第もありません」
ミスリルゴーレムとの一戦についてマリーに話した優斗は、しばらく彼女からお灸を据えられることになった。
もし優斗が強い防具を装備していれば、エリスに無駄な負担を掛けずに済んでいたのだ。
マリーの言葉は非常に正しい。
「で、でも、生きて帰って来たから、そこまでユートさんを怒らなくても……」
「……んー」
優斗の隣にいるエリスを見て、マリーがあたかも獲物を狙う蛇のように瞳孔をすぼめた。
自らが食べられるネズミ側だとでも思ったか、エリスが「ひうっ!」と怯えて優斗の影に隠れた。
「ユート。ずいぶんとその子と仲が良いじゃない」
「あはは……。これから一緒に、パーティを組むことになってさ」
「はぁ!? ちょっと、聞いてないんですけど!!」
マリーがカウンターを両手で叩く。
いや、言う必要あるの? と優斗は首を傾げる。
「ああ、アタシは10年来の〝幼なじみ〟でしょう!? そ、そういうことは教えてくれたって良いじゃない!」
マリーがずいぶんと幼なじみという部分を強調した。
たしかに、と優斗は思う。
優斗はマリーに助けられることが多々あった
特に武器や食事は、マリーに頭が上がらない。
新しい仲間についても、彼女に伝えるべきだったか。
優斗は口を開こうとした、その時だった。
「これからユートさんと、ダンジョンで〝長時間一緒に過ごす〟パーティを組みます、エリスです。宜しくお願いします、です」
エリスが優斗の腕をぎゅっと抱きながら、マリーを見据えた。
何故か〝長時間一緒に過ごす〟という部分がやけに強調されている。
たしかにパーティはそういうものだが、そこを強調する意味はなんなのか……。
マリーとエリスが、互いに笑顔を浮かべながら見つめ合っている。
二人とも美少女と称されるような、綺麗な顔をしている。
その美少女が二人笑顔で見つめ合っているというのに、優斗は強い寒気を感じていた。
(なに……この空気……)
まるでこの店内だけが厳寒期に突入したかのようである。
「あ、あー、ちょっと用事を思い出したので僕はこれで」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「ユートさん、待つです!」
がしっと二人に引き留められ、優斗は背中に冷たい汗を流す。
ここで、これ以上何をしろと?
優斗は脂の切れたブリキのように、ギギギと首を回す。
「まだ防具が決まってないじゃない」
「そうです。ユートさん。今日はわたしと一緒に防具を選ぶです」
「っふ。素人が出しゃばらないで。武具に関してアタシはプロよ? ユートに防具を選んであげるのは、アタシの役割だから」
「パーティメンバーとして、わたしが選ぶです。ユートさんの財布はわたしが握ってあげるです」
「なんでアンタがユートの財布を握るのよ!!」
「パーティの|回復術師(サポート)として、当然の役割です!」
「関係ないから。全然関係ないから!」
ぎゃーぎゃーと、マリーとエリスが声を上げる。
(わー、二人とも仲が良いなー)
優斗は現実逃避する。
しかし、それは決して許されなかった。
「ユート!」
「ユートさん!」
「防具はアタシが選んでいいわよね!?」
「防具はわたしが選びますです!」
あたかも強盗のような二人の眼力に、優斗は早々に白旗を振るのだった。
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以上で一部2章が終了となります。
明日より二部が開始です。
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